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子どもたちをよみがえらせる

長野県上田市・前教育委員長の実践
『致知』 2008年8月号
  対談  大塚貢 (上田市前教育委員長)  櫻井よしこ (ジャーナリスト)

 
長野県上田市真田町。現在この小さな町は非行・犯罪ゼロ、いじめもゼロ、
 
そして全国平均より抜きん出て学力が高いという。
 
「以前は非行・犯罪が絶えなかった」と話す前教育委員長の大塚貢氏は、
 
「授業改善、米飯給食、花づくり」によて子どもたちの心身を甦らせた。
 
氏の教育手腕に共鳴するジャーナリストの櫻井よしこさんとともに、

 
混迷する日本の教育問題に希望の光を与えるべく、
 真田町の教育改革についてお話しいただいた。


 もはや非行ではなく立派な犯罪

櫻井 大塚先生と初めてお目にかかったのは5年ほど前になりますでしょうか。長野県の真田町(現・上田市真田町)の中学校の校長先生をしておられた頃のお話を聞いて、ビックリしたんですね。
  朝礼などで子どもたちが貧血で倒れるので、きっと家での食事が不十分であるに違いないと思われ、食生活について調査したところ、問題を起こしているお子さんほど食生活が乱れていることが分かった。
  そういう時、普通の校長先生なら親御さんに「食生活をきちんとしてやってください」と言うだけですが、先生は自ら先頭に立って給食の改善に手をつけられた。パン食を米飯に変えたところ、子どもたちが元気になり問題行動も減っていったとお聞きして、これはすごい話だなぁと。
  その後、真田町の教育長になられてからは、一校だけでなく町内の公立小中学校すべてに影響を及ぼされました。この大塚先生の実践をご紹介することが、いまの日本の教育問題を解決する一助になるのではないかと思っています。
大塚 私が中学校の校長になったのは、平成4年でした。生徒数1200名の大規模校でしたが、その荒れ方はもう非行なんてものじゃないですね。立派な犯罪です。強盗、窃盗も多いです。学校の廊下をバイクで走ったり、窓ガラスは次から次へ割られ、不登校も常に60〜70人いました。
  教室も見て回りましたが、とにかく授業がつまらないんですね。私ですら何を教えているのかちっとも分からない。だから机に伏している生徒が多いです。
  しかし、伏している子はまだいいんです。エネルギーのある子は学校の外へ飛び出して窃盗や強盗をする。あるいは学校近辺でタバコを吸うとか、弱い子を連れ出していじめるとか。
櫻井 授業中に机に伏せているのは、まだ真面目な子どもたちなわけですね。
大塚 はい。私は民間会社に籍を置いていた時期がありますが、仮に民間会社でこんなつまらない授業をしていたらクビになるだろうというレベルでした。
  そこでまず取り掛かったのは授業の改善でした。徹底的に研究授業をやって、「こうしたらどうか、ああしたらどうか」と先生同士が互いに切磋琢磨し合う。またそれぞれが教材研究や指導方法を研究していくと、次第に授業のレベルが上がっていきました。
  授業がおもしろいかどうかのバロメーターは、なんと言っても子どもの姿勢です。机に伏している子がほとんどいなくなり、みな姿勢を正して授業に臨むようになりました。
  いま学級崩壊とか子どもが本気で勉強しないとかいいますが、99%は授業がつまらないのを子どものせいにしているだけだと思います。

 問題の根源は食にあった

櫻井 授業がおもしろくなったのと同時に、非行やいじめは減っていきましたか。
大塚 かなり減ってはきました、が、なくなることはありませんでした。
  先ほど櫻井先生がおっしやったように、朝礼で子どもたちが貧血でバタバタ倒れたり、遅刻したり、登校しても保健室にいるので、これはもしかしたら食と関係があるのではないかと思いました。平成4年の頃で、まだ「食育」などという言葉もなかった時代です。
櫻井 私が先生のお話で感動したのは、子どもたちの食の実態を把握するために、朝早くからコンビニエンスストアで“張り込み”をされたと。
大塚 はい。陸上競技大会などの朝は、5時から会場の近くのコンビニエンスストアに車を止めて様子を見てみました。すると母親が車に子どもを乗せてきて、お金を渡して好きなものを買わせているのです。
  そういう子どもの日常生活を調べてみると、やはり非行・犯罪を繰り返す、キレる、無気力など、指導に手を焼いたんですね。
  たとえ親を呼んで「お宅のお子さんはこういう状況だから指導してもらいたい」と言ったところで、そういう子どもは親の言うことなんて聞きませんよね。大会の日ですらお弁当をつくってくれないのですから、親と子の心の絆は完全に切れてしまって、親はお金をくれる人としか思っていません。
櫻井 母親の愛情弁当を持たせるという概念がないわけですね。
大塚 ないですねえ。また、並行して全校生徒の食の調査もやりましたが、朝食を食べてこない子どもが38%。その子たちもやはり非行や犯罪まがいのことをしたり、いじめなどに加担していたりする。あるいは無気力な生徒が多かったです。
櫻井 朝食を食べてこないということは、前日の夕食以降、給食までのおそらく16〜18時間はまともな食事を摂れないわけですね。それでは授業に集中できないばかりか、精神的にも不安定になるでしょう。
大塚 ただ、朝食を食べていると答えた生徒にしても、実態はほとんどがパンとハムやウインナ、それと合成保存料や着色料、合成甘味料の入ったジュースです。
  そして夜はカレーや焼肉が多かったですね。こういう食事ばかりではカルシウムやミネラル、亜鉛やマグネシウムといった血管を柔らかくしたり、血をきれいにする栄養素はまったく摂取できません。
  だから子どもたちの血液がドロドロで、自己コントロールができない体になって、普段は無気力でありながら、突如自分の感情が抑えきれなくなってしまう。いくら「非行を起こすな、いじめるな、勉強を本気でやれ」と言ったところで、体がついていかないのです。
  そういったことをPTAの席でお話しして、「なんとかバランスのよい食事をつくってください」と呼びかけたところで、いまの若いお母さん方にはまったく聞き入れてもらえませんでした。

 米飯給食の驚くべき効果

櫻井 家庭での反応がなかったために、先生は学校給食の改善に取り組まれたわけですか。
大塚 はい。なるべくお腹にたまる米飯に切り替え、野菜や魚を中心にしたバランスのよい献立の給食にしようと考えました。しかし、先生方からも親からも反対の嵐でしたね。
櫻井 先生たちはなぜ反対なのでしょうか。
大塚 結局、先生たちも揚げパンとかレーズンパンのような菓子パン、あるいはソフト麺とか中華麺が好きなんですね。そういうものは一つひとつが袋に入っていて、配膳も楽なのです。米飯は一人ひとりのお弁当箱によそわなければいけないから、手間がかかるんですよ。「国際化社会の時代に米飯に偏るのはおかしい。国際食にすべきだ」とか、いろいろな理由をつけて反対されました。
櫻井 親御さんはどういう理由で反対したのですか。
大塚 子どもの好きなものを食べさせてほしいと。いまの親はそういう煩向が非常に強いですね。給食費を払っているんだから、子どもが好きな揚げパンやスパゲティを出してほしいと。
櫻井 先生も反対、子どもも反対、親も反対。そこで先生は栄養士の方を連れてきて、皆さんを納得させた経緯がありましたね。
大塚 はい。鰯の甘露煮とか秋刀魚の蒲焼きとか、非常においしくつくってくれましてね。根気強く試食会を重ねながら、「青魚には血液をきれいにするEPAやDHAが含まれています」と、いかに栄養的に優れているかを教え、まずは先生方を説得し、保護者を説得し、特別授業を設けて生徒たちにも教えていきました。
  そうして、赴任した翌年の平成5年からは、週6日のうち5日間を米飯給食に切り替えました。米飯もただの白米ではなく、血液をきれいにし、血管を柔らかくしてくれるGABAが含まれる発芽玄米を10%以上加えたのです。
櫻井 生徒に変化が表れたのは、切り替えてどのくらいたってからでしたか。
大塚 7か月後あたりから学校全体が落ち着いてきましたね。
  いまでもよく覚えているのが、4月のPTA総会の前に私が1時間ばかり校舎のタバコの吸殻を拾って歩いたところ、スーパーの大きなビニール袋かいっぱいになったのです。それを総会で見せたところ、保護者たちから、「大塚校長が来てから風紀が乱れたんじゃないのか」と言われましたがね。米飯給食を始めてから7か月後には、吸殻が1本もなくなりました。
櫻井 それはすごいことですね。
大塚 1年半から2年がたつ頃には、非行・犯罪はゼロになり、同時に子どもたちの学習意欲も高まっていきました。
  荒れていた時は図書館なんて誰も利用しませんでしたが、子どもたちが変わってきてからは、昼休みは図書館の120席がすぐに満席、座れない子は床に腰を下ろして読んでいるのですが、そこもいっぱいになると廊下にまであふれ出てくるような状態になりました。
  もちろん、図書館司書が本に関するクイズを出したり、先生の読書感想文を校内放送で流したりと、様々な工夫をしましたが、やはり食によって子どもの心と体が変わってきたことが大きいと思います。
  また、荒れていた時はなぜか年間の図書の紛失が480冊もあったのに、読むようになってからはゼロ冊です。
櫻井 本を読まない時は本がなくなるのに、本を読むようになって本がなくならなくなった。
大塚 はい。まったくの逆現象です。そうして本を読むようになったせいか、読売新聞の全国作文コンクールで毎年1位か2位に入賞する生徒が出るようになりました。これは中学生の作文コンクールの中では最難関といわれ、表彰式に参加すると関係者の方々から「どういう指導をされているのですか」と聞かれるそうなんです。でも、私たちは生徒の作文を一字一句訂正せずに提出しているから、聞かれても困るんですね。担当の先生は「出席したくない」などと贅沢なことを申しておりました。

 安心・安全な給食を食べさせるための工夫

櫻井 その後、大塚先生は真田町の教育長になられましたが、一校で実施してきた改革をすべての公立小中学校へ及ぼしていかれましたね。真田町は当時、公立校は何校ありましたか。
大塚 合併して上田市になる前は、小学校が4校、中学校が2校でした。
  教育長になったのは平成9年ですが、やはり校長就任時のような状況が各校に広がっていました。盗んだバイクで暴走行為を繰り返し、町民は夜も眠れない。自動車で無免許定員オーバーのスピードの出しすぎで事故に遭い、2人死んでしまったこともありました。公園に公衆トイレをつくれば一晩にして破壊されてしまう。そういう苦情が次から次へと教育長の私のもとにくるのです。
  校長時代の経験から、授業内容や食生活に関連があると思って調査を進めると、同じ問題の構造がそこにはありました。
櫻井 要するに授業がつまらなくて、食生活が乱れているということですね。
  しかし、校長なら自分の学校だけを改善すればよいわけですが、教育長はより多くの学校を改善しなければなりません。給食一つ改善するにもより多くの抵抗・障害が予測されますね。
大塚 米飯給食の導入については、やはり先生や親たちにも反対されましたが、結局は枝長時代によくやってくれた栄養士に来てもらいまして、1校1校試食会を開き、きょうは先生方、明日は1学年の親、明後日は2学年の親、というように地道に説得するというプロセスは変わりませんでした。
 (中略
  そうして1食ずつ米飯を増やして、平成13年には真田町の公立小中学校を週5日制の5日間すべて米飯給食に切り替えました。

 真田町の非行・犯罪がゼロになった理由

櫻井 真田町はそういう教育改革を続けた結果、現在は町全体で青少年の非行・犯罪、あるいは校内暴力がゼロ、不登校も極めて少なくなったとおっしやっていましたね。
大塚 非行・犯罪がゼロになってもう5年はたつと思います。そういう事例は全国でも珍しいと警察に言われました。
櫻井 やはり青少年の犯罪と食生活というのは関係があるのでしょうか。
大塚 と思います。私は少年犯罪でも、特に凶悪な犯罪を起こした子どもの学校や町に行って話を聞いているのですが、例えば平成9年の酒鬼薔薇聖斗事件がありましたね。近所の皆さんの話では、お父さんは一流企業に勤めている穏やかな方で、お母さんは非常に教育熱心だったと。肉を食べさせれば元気が出て頑張って勉強するということで、肉を多く与えていたようです、とおっしやっていました。
  それから一昨年の6月に奈良の名門・東大寺学園の男の子が母親と弟妹を焼き殺しましたね。成績が下がって、翌日の懇談会に母親に来てほしくないという単純な発想からの凶行でした。両親とも医師で、お母さんは継母だったのです。近所の方の話では、お母さんは子どもとの関係もあり、子どもの好きな肉も多かったようです。
  それからもう一つ、昨年の5月に会津若松で母親の首を切って、ショルダーバッグに入れてインターネットカフェで遊んでいた高校生がいましたね。彼の地元はコンビニが1軒もない人口2800人の町で、出身中学は全校生徒で25人です。
櫻井 たった25人しかいないのに。
大塚 はい。それで近所の人たちは、「お父さんは穏やかな方で、お母さんは教育熱心だ」と、これは誰もが言いました。私は父方のお祖父さんに会いましたが、「確かに肉が好きで、母親は多く与えていましたね」と言いました。
櫻井 少年犯罪と食生活の関係を考えさせられますね。
大塚 実は、少年だけでなく、真田町は成人の犯罪も減っているのです。新聞社が長野県警で真田町の成人犯罪件数を調べたところ、平成13、14年頃が一番多くて年間140件以上あったそうですが、現在は70件台に半減したといいます。
  その要因は2つあると思うんです。一つは、私の教師生活の経験から言って、大人になって犯罪を起こす人間はだいたい少年時代にも非行・犯罪など何らかの問題を起こしているケースが多い。だから子どもの時に自己抑制できるように育つと、大人になってから犯罪を起こさなくなると思います。
  また、やっぱり真田町の大人自身の食生活が変わり、自己抑制できるようになったのでしょうね。
  米飯給食導入時の試食会の後も、毎年1〜2回、学校で親子を対象に食のフォーラムを関催してきました。各家庭の食のあり方を発表したりして、それを勉強して各家庭に持ち帰る。その積み重ねで、親の認識が変わってきたんだと思います。
  子どもたちは、「うちの母ちゃんの料理のやり方が変わった」と言っていますよ。
櫻井 例えばどんなことですか。
大塚 一つはカップ麺やコンビニ弁当、冷凍食品を買わなくなったそうです。前は買ってきたものを皿に移し替えるだけだったけど、いまは食材から買ってきて調理をするから、料理の時間がうんと増えたともいいます。
櫻井 じゃあ、中国の餃子も買わなくなったのかな(笑)。
大塚 食材にしても、いままでは色や形がいいものを選んでいたけど、野菜なんかは虫が食べたものも買うし、ハムなどは何が含まれているか裏の表示をしっかり見てから買うようになったそうです。
櫻井 真田町では、小中学校の給食を変えたことがきっかけとなって、ご家庭の食事も変わったのですね。
大塚 ええ。だから小さい時から犯罪を起こさない体質になっているのと、家庭の食事がバランスのよいものになってきて、衝動的な行動を取る大人が少なくなってきたことが、真田町全体の犯罪低下の理由になっていると思います。

  大変話題になった内容ですのでご存じの方も多いことと思います。ネットでもいろいろと紹介されています。
  「食」の問題全般をとらえる視点としては、当サイトの「Bookstand」の中に「食べ物」というテーマで、参考になる文献を厳選して紹介していますのでご参照ください。
  さらに、「肉食」の問題点を指摘するものとして、「フツーの人が書いた黙示録」の中の「肉食編」にもぜひ目を通していただきたいと思います。
  わが国にも食料危機がひたひたと押し寄せつつある現在、このテーマは今後も更に掘り下げていく必要があると考えています。
                                         (なわ・ふみひと)
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