第十三回:ジャック・ブルース

「ベースの素晴らしき世界」

 

ロックバンドにとって最小単位のメンバー構成は「3ピース」であると言われている。

その3ピースとはドラム、ギター、ベース。また、ギターではなくキーボードである場合もある。

そしてその内の誰かがヴォーカルをとる、という構成である。

そしてこの最小単位の楽器構成で音楽をプレイし、その可能性を追求するバンドというのは数多く存在している。

 

そんな3ピースバンドの中でも先駆けと言われ、最も有名なバンドの一つが「クリーム」である。

ギターにエリック・クラプトン、ドラムにジンジャー・ベイカー、そしてベースにジャック・ブルースという構成の3ピースバンドである。

解散してから既に30年以上が経過しているのにも関わらず、いまだに「伝説のバンド」とか「スーパーグループ」とか「史上最高の3ピース」など、

最高の賛辞を表す言葉は後を絶たない。

それはこのクリームというバンドが単に3ピースのパイオニア的存在だからというだけではなく、

ブルージーなハードロックをインプロヴィゼイションにまかせて大音量でプレイするという独特のスタイルを打ち出し、

それまでのバンドやロックというものの概念をことごとく打ち破ったという功績があるからに他ならない。

 

クリームがそういった全く新しい方法論でシーンに登場したのは1966年の夏の事だった。

折しもザ・ビートルズやボブ・ディランなどが世界中でロック旋風を巻き起こしていた時期だったが、

クリームが提示した音楽はより攻撃的で即興的で、その両者とは全く異なったものであった。

その年の5月にクラブ「リッキー・ティック・イン」で行われたジャムセッションに参加していた3人の男たちが、そのセッションが余りにもうまく進んだ為、

グループとして独立、活動しようと結成されたのがクリームだった。

クリーム結成以前から既に地元では多くのバンドを渡り歩いてきた3人だったので、

グループが結成された時に「最高」の意味を持つ「クリーム」と名付けられた。

事実、クリーム結成以前から巷のミュージシャンの間でエリック・クラプトンのギタープレイは「神だ」と崇められていた程だったし、

ジンジャー・ベイカーがクリームの結成を持ち出した時にはエリックも「ジャックが参加するならば・・・」と言う条件を出したくらい、

ジャックも当時の音楽界では知られた存在だったのである。

こうしてクリームがその活動を軌道に乗せると、3人への注目は益々高まり(中でもエリック・クラプトンのギタープレイは多くのギターキッズから注目の的となった)、

グループもまたそれに応えるようにハイペースな活動をしていったが、しかし元々人間的にも個性の固まりのような3人だったために、

時を追うごとに性格の不一致が表面化し、僅か3年余りの活動後に解散。

そのステージング同様、刹那的なグループ生命を終えたのであった。

この活動期間の短さも、クリームが伝説と化す手助けをしているのかも知れない。

 

しかし、その僅か3年余りというクリームの寿命は、ジャック・ブルースという希代のアーティスト/ベーシストの実力を世に知らしめるのには十分であった。

クリームを「エリック・クラプトンのグループだ」などと抜かす輩はいまだに後を絶たないが(特にギタリストに多い)、

3ピースという形態をとっていた以上、「誰々の・・・」という表現は相応しくない。

逆に言えば3人が3人とも重要な役割を果たしていたのは間違いない。それを解っていながらあえて書かせていただくと、

クリームの原動力は間違いなくジャック・ブルースだ。

しかしこれは「ジャック・ブルースのグループだ」などと言いたいのではない。

クリームが活動をしていく上で、本来なら3人の誰もがやれる仕事を一身に担っていたのがジャックだった、という事である。

実際に、楽器を片手にリードヴォーカルをとっていたのはジャックだったし、殆どの楽曲を

作曲し、殆どの楽曲をアレンジしていたのがジャックだったからである。

もっとも、クリームを語る際には彼の歌や作曲、アレンジなどには殆どスポットライトが当てられる事はないのだが・・・。

 

みんなが注目するインストゥルメントパートの凄まじさは今更言うまでもない。

ギブソン・EB-IIIにマーシャルアンプという、当時のベーシストとしては異様とも思える組み合わせ

(後にこの組み合わせはロック界では「黄金の組み合わせ」とされ、いまだに最高のコンビネーションであると崇拝するベーシストはゴマンといる)

でブリブリに歪ませて大音量で弾きまくる。

まだベースの音を歪ませる事や、ソロギターと同等の音量でベースを弾く事は「非常識」とされていた時代

(というかそんな事は誰も発想し得ない時代、と言った方がいいかも知れない)、

これほどアヴァンギャルドで個性的なサウンドを、当たり前のような顔で出していたベーシストは少ない。

 

そしてプレイもまた型破りである。クラシックを基礎としている正確なテクニック、

多くのブルーズバンドやジャズバンドを渡り歩いて養ってきた「愛情」を融合させたフレージングスタイル。

時にはとても地味でオーソドックス、時にはエリック・クラプトンのギターソロをも脅かすほどの破壊力を備えていた。

 

クリーム解散後は、音楽性や形態にこだわらず、更にフィールドを広げて活動を続けている。

ソロアルバムを2枚発表後、1972年に「ウェスト、ブルース&レイング」を結成、アルバムを3枚発表。

約1年後に解散。再びソロアルバムを1枚発表、その後1975年には「ジャック・ブルース・バンド」を結成、2枚のアルバムを製作。

しかしバンドは1979年頃に自然消滅してしまっている。

次に結成したのは「ジャック・ブルース&フレンズ」で、1980年にアルバム1枚を発表後全米ツアーを敢行した。

しかし翌年にはトリオグループ「BLT」を結成、クリーム時代を彷彿とさせるロックアルバムを2枚発表した。

そして1984年に再び「ジャック・ブルース・バンド」を結成、そのツアードラマーだったマーク・ナウシーフのアルバムに参加したことでドイツのレーベルと契約。

1987年に久々にエリック・クラプトンとスタジオセッションを行った。

この年、「イナズマ・スーパー・セッション」と銘打った来日公演も果たす。

1989年にソロアルバムを発表、その中でこれまた久々にジンジャー・ベイカーと共演し、話題を呼んだ。

1991年にはドイツで行われた「ジミ・ヘンドリクス・トリビュートコンサート」に出演、同年10月にはスペイン・セヴィリア万博前夜祭イベント「ギター・レジェンズ」にも出演。

1992年3月には再び来日している。

1993年にはジャックの50歳記念ライヴを行い、そのライヴがきっかけでギタリストのゲイリー・ムーア、お馴染みのジンジャー・ベイカーと共に「BBM」を結成、

アルバムを1枚リリースした。その後もマイペースで音楽活動を続け、3枚のソロアルバムを発表しているが

このように見ると活動の内容は実に多岐に渡り、そのペースもまた淀みない事が判る。

れこそ、ジャック・ブルースというアーティストが単に「ベーシスト」という枠だけでは語れないミュージシャンであるということを証明して余りあるというものだ。

 

ジャック・ブルース、1943年5月14日、スコットランド・グラスゴー生まれ。

幼い頃からクラシック音楽に傾倒していたが、13歳の時に初めてベースを手にし、プロのミュージシャンになることを決意。

17歳の時に王立スコットランド音楽院に入学しているが、それも奨学生待遇だったそうだから、この時点で既に音楽的基礎は確立していたものと思われる。

この学校で本格的にピアノとチェロを学び始めたが、3ヶ月ほどでジャズに傾倒するようになり退学。

ロンドンに移住してブルーズ・ムーヴメントに身を投じることになり、それがドラマーのジンジャー・ベイカーやギタリストのエリック・クラプトンとの出会い、

クリームの結成へとつながっていった訳だ。

その後上記のような活動を経て、1995年にはスコットランドを代表するミュージシャンとして、「スコッティッシュ・シルバー・クレフ・アウォーズ」を受賞している。

 

クリームは言うに及ばず、BLTやBBMなどに見られる、ブルージーでありながらラウドなロック、

インプロヴィゼイションを基調としたライヴプレイもジャックのベーシストとしての魅力の一つであるが、

更にソロアルバムにも耳を傾けてみると、アルバム丸々1枚でピアノとオルガンをバックに歌っているという作品まであったりと、

実に音楽性の幅も広く、またそれら全てで一流の腕前とセンスを見せ付けているのだから驚嘆である

(同じイギリス出身ポール・マッカートニーといい、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズいい、

この世代のベーシストには天才肌ミュージシャンが異様に多いように感じるのは私だけだろうか・・・?)。

 

クリームという、余りに大きな名前をずっと背負って生きていかなければならなかったジャック・ブルース。

しかし彼はその名前に臆することもなく、それどころかクリームすらも彼にとっては単なる通過点であるかのように感じさせてくれるほど精力的に、

幅広く、かつマイペースを崩さずに活動して来ている。

若かりし頃はギブソンのEB-IIIを自在に操っていたジャックが、ある時期からはワーウィックのフレットレスベースに持ち替えて、

より幅広いプレイスタイルを確立しようとしたのは実に興味深い。

「『ジャンルの壁』は不要な物なのだ」と感じさせてくれるジャックの音楽にとって、ベースのフレットすらも不要な物になっていったのかも知れない。

そしてこの飽くなき前進こそ、「ジャック・ブルースの素晴らしき世界」を創り上げた、ということは疑う余地がないようだ。

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このベーシストへのいざない作品:

■クリームの素晴らしき世界(クリーム)

■ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・クリーム(クリーム)

■白昼夢(BBM)