第二十七回:レミー・キルミスター

「キング・オブ・ロックンロールの紋章」

 

日本のプロ野球界に、清原和博という選手がいる。大阪・PL学園時代からその類い希なる才能を練習で裏付けて、

高校生ルーキーにして開幕先発、プロとしての初打席をホームランで飾り、

「常勝西武」と言われた西武ライオンズの黄金時代を4番で支えて来た豪傑プレイヤーである。

人は彼の事を「無冠の帝王」と呼ぶ。

それは、彼が常に日本プロ野球界をリードし続けて来たという実績があるにも関わらず、個人単位でのタイトルを受賞した経歴がないからである。

意外に思われるかも知れないが、実は優勝や日本一など、チームを頂点へと導く事にかけては高校生の頃から天才的だった彼だが、

個人タイトルは全く取っていないのだ。ナゼか?

これは彼の実力が常に二番手に甘んじているとか、タイトルを獲得するには及んでいないとか、そういう訳ではない。

それは彼のこれまでの出塁率、得点圏打率、勝利打点数を見れば歴然である。

例えば、プロとしてデビューしてからの全てのシーズンで2ケタホームランを打ち続けている事だけでも、清原が稀代のスラッガーであることがわかろうというものだ。

タイトルに無縁な最も大きな理由は、清原が常にチームバッティングを心掛けているからなのだ。

清原のヒーローインタビューや発言に注目すれば判る事だが、彼は二言目には必ずと言って良いほど「チームが勝つ為に・・・」とか

「チームが負ければ何の意味もない」とかいう風に、常にチームの勝敗に関する発言をする。

まるでチームの勝利こそが自分のタイトルであり、個人の成績など眼中にないかのようだ。

そんな清原のキャラクターは、業界人・ファン問わず受け入れられ、2006年はオリックス・バファローズに移籍するも前半戦の多くを怪我で休場しているのに、

オールスターゲームのファン投票で最多得票を獲得して出場・・・といった様子を見ていると、

ついつい私たちは、モーターヘッドというバンドのヴォーカリスト兼ベーシストを思い出し、両者の放つオーラの共通性を感じずにはいられない。

その名はイアン・レミー・キルミスター。

1945年12月24日、イギリス生まれ。

彼もまた、ベーシストとして個人の名声を意識しているようなタイプではない。

例えばよくある「読者が選ぶベストベーシストは?」とか「リスナーが選ぶ最高のベーシストは?」などというランキングでも上位に名前を連ねるようなタイプではないし、

ソロアルバムをバンバン発表してしまうような所謂“ベースヒーロー”でもない。

テクニックにおいて新境地を開拓している訳でもなければ、ワールドスタンダードと呼べるような名曲を書いている訳でもない。

しかし、その名は音楽界に鳴り響いている。まさに無冠の帝王と呼ぶに相応しい。

 

モーターヘッドは、1975年にレミーを中心にイギリスで結成されたロックンロールバンドである。

レミーは、それ以前にも「ロッキン・バイカーズ」や「ホークウィンド」などのバンドに在籍していた。

ちなみに更に以前のキャリアとしては、1969年にリリースされた「サム・ゴパル」というサイケバンドのセカンドアルバムでは、

リードギタリスト兼ヴォーカリストとしてクレジットされているのだ。

プロミュージシャンとしてのスタートはベーシストではなかった訳である(この時の名前はイアン“レミー”ウィリスとなっている)。

また、余談になるが、レミーが昔在籍していたホークウィンドというバンド、メンバーにはドラムやギターは勿論、

当時としては珍しかったシンセサイザープレイヤーやサックスプレイヤー、そして詩を朗読するポエットリー、

更にはストリップダンサーまでもが在籍していたというかなり異端的なバンドだ。サイケロックに興味のある方は是非チェキってみてほしい。

 

そんなホークウィンドでは、レミーはどうやらクビになったらしい。

当時のレミーは既にドラッグの使用過多により、まともにステージに立てないほどの様相を呈していたという。

その後自身で結成したのがモーターヘッドだった訳だ。

もっとも当初は「モーターヘッド」という名前ではなく、「バスタード」と名乗っていたようだ。

しかし、結成直後のツアー時に、“スピード狂”とか“ドラッグでブッ飛んだ頭”などという意味を持つスラングである「モーターヘッド」に改名する。

これは、先述したホークウィンド時代のシングルのB面曲として既にタイトルに使われていた言葉だった。

翌年にはレコードディールを獲得して、ファーストアルバム「オン・パロール」のレコーディングを敢行するも、実はこのアルバムは'79年になるまで発表されていない。

最初の作品がいきなりお蔵入りとは凄すぎるが、これはこの間、メンバーチェンジやレーベル移籍などを余儀なくされていたからだ。

実際にモーターヘッドがレコードデビューを果たしたのは、時系列的に言えばセカンドアルバムにあたる「モーターヘッド」からであった。

前途多難なモーターヘッドのスタートだった訳だが、そんな出鼻のくじかれ方とは裏腹に、モーターヘッドのパワーはいきなり炸裂する。

デビューアルバムで多くのロックファンの支持を得る事に成功したのだ。

当時は、それまで活躍していたハードロック界の大御所たちが活動の拠点をアメリカへ移していたり既に活動を停止していたり、

プログレッシヴ・ロック界も徐々にその勢いを失いつつあったりと、イギリスのロック界の勢力は下火になり、また混沌としていた時代であった。

そんな中でモーターヘッドとAC/DCは、イギリスのハードロックファンの心を繋ぎ止めていた貴重な存在となっていった訳である。

特にモーターヘッドのスタイルは、曲調や歌詞、レミーをはじめとするメンバーの風貌などがより荒々しく、

ロックという音楽に、イメージ的な意味での“トゲ”や“暴力”を求めていたアンダーグラウンドなロックファンから絶大なる支持を得る事になる。

そこに、メンバーの度重なる暴力事件によって絶える事のない生傷、レミーの趣味であるナチスグッズの収

(自称「世界一のコレクター」。今でもこのレミーの趣味を理由に、ヨーロッパ諸国ではモーターヘッドが毛嫌いされているという現実がある)

などが、バンドのイメージに更に拍車を掛けた。

少し余談になるが、ヨーロッパ諸国に限らず今の日本でも'70年代ロックの話になると、多くの人は漏れなくツェッペリンやパープルの名前は出すが、

モーターヘッドの名前となるとあまり出て来ない。

これは単に商業的な成功の度合いによる知名度の違いと考える事も出来るし、モーターヘッドのアンダーグラウンドっぷりというかマニアックさというか、

それをも表しているというのも間違いないだろう。

その後も「オーヴァーキル」や「ボマー」など、既に完成されていたとも言えるモーターヘッド節をレコードとして次々と世に叩き付け、加速していった。

中でも'80年にリリースしたアルバム「エース・オブ・スペーズ」は、早くもモーターヘッドにとってのターニングポイントとなった。

このアルバムは、同年のイギリス・サウンズ誌のバンド部門とアルバム部門でそれぞれ1位に輝いたのだ。

更に翌年リリースしたライヴアルバムは堂々のイギリスチャート1位を獲得している。

が、商業的な成功という意味ではこれがモーターヘッドの最後の黄金期となった(早っ)。

 

モーターヘッドの音楽性とは、ひとえに「スピード」と「ストレートさ」に尽きる。

勿論全ての楽曲がそうだという訳ではないが、モーターヘッドのキーワードである事は間違いない。

ロックンロールというのはこういうものだ!というのを誰よりも素直に表現しているバンドだと言えるだろう。

もっとも、スピードと言えば昨今ではスラッシュメタルやデスメタル、グラインドコアなど、スピードを追求した音楽というのは数多くあるので、

ーターヘッドのスピードが最速クラスという訳ではない(むしろ今聴くと至って普通のテンポな曲が多いなぁと感じるくらいである)。

しかし、逆説的に言えばそういったスピード追求型音楽の源流には、必ずと言っていいほど多かれ少なかれモーターヘッドの影響が見え隠れしている訳で、

言わばモーターヘッドこそがロックにスピードという要素を定着させた立役者的なバンドの一つと言ってもいいかも知れない。

スラッシュメタルという音楽を世に知らしめたモンスターバンド、メタリカのメンバーは、自身のルーツを語る際に

畏敬の念を込めてモーターヘッドの名前を挙げている事からもそれは解る。

また、一般的にハードロックとは相容れないかのように言われる事も多いパンクというジャンルにおいても、

数多くのパンクミュージシャンがモーターヘッドの名前を挙げ、リスペクトの意を示していると同時に、

その屋台骨であるレミーの名前と存在を恐れてさえいるというのは、このバンドの強烈なカリスマ性と存在感を物語っていると言えるだろう。

 

そんな強い影響力を持つモーターヘッドにおいて、レミーの存在感は特に際立っている。

それは彼がベーシストであると同時にリードヴォーカリストでもある、というのも大きな要因となっているのは言うまでもない。

ヴォーカリストと言っても、そこはレミー・キルミスター、並ではない。

レスラーのような巨漢から発せられるダミ声。

メロディらしいメロディも辛うじてあるかないかのモーターヘッドの楽曲群において、このレミーの声は恐いほどにマッチしている。

歌うというよりも咆哮と言う方が近いかも知れない歌唱法も唯一無二だ。

しかも、ナゼかマイクスタンドを高々とセットし、マイクが下を向くようにセッティングする。

そしてレミーは上を向くようにしてマイクに言葉を叩き付ける。

その様子はまるで、オーディエンスを見下して睥睨しているようにも見える。

先述した、同時代に活躍していたロックバンドのヴォーカリストと言えば、例えばロバート・プラント、イアン・ギラン、ロブ・ハルフォード、オジー・オズボーンなど、

ロックヴォーカリストとしては皆、後に神的存在にまでなるようなカリスマばかりが揃っているが、

レミーはその誰とも違う、誰にも似ていない方法論でヴォーカルという重責を果たしているのだ。

これもモーターヘッドというバンドのポジションを位置付ける要素となっているに違いない。

また、ベーシストとしてもその個性は強力だ。

これも先述した同時代のバンドのベーシストを見てみると、ジョン・ポール・ジョーンズ、ロジャー・グローヴァー、イアン・ヒル、ギーザー・バトラーなど、

これまた皆ロック界におけるベースの在り方に何らかの影響を及ぼした強者ばかりが揃っているが、レミーはレミー流を貫いている。

ベースはリッケンバッカー社の特注ベースを愛用している

(これは、木目の綺麗なボディに手作業で唐草模様のような彫刻を施したモノで、リッケンバッカー社の中でもかなり特殊なモデルである)。

それにディストーションを掛けてギンギンに歪ませる。

それはギターも真っ青なほどで、しかもローをカット気味に、トレブルを上げ気味にしてあるので余計に凄まじい。

ある日のモーターヘッドのライヴで、ギターアンプがトラブって音が出なくなった事があった。

しかし、レミーのベースサウンドがあまりにも凄すぎた為、オーディエンスの殆どはギターの音が止まった事に気付かなかった、という鬼のようなエピソードもある。

そしてそのプレイスタイルもまた独特である。

レミーは、多くのベーシストのように、単音でルートを刻んだりリフを弾くだけではなく、コードプレイを多用するのだ。

特に歌のバックではルートと5度、オクターヴ上というパワーコードを掻き鳴らしている場合が多い。

レミーは「そうした方が歌いやすいからな。リズムもあまり気にしなくて済む」というような事を語っていたが、まぁ悪く言ってしまえば手抜きという事になるかも知れないが、

まるでギタリストがコードを弾くようなストロークでベースをガンガン弾きまくる様子はかなり異様である。

しかし、パワーコードを多用する事でアンサンブルは確実に厚くなるし、特に3ピース体制でライヴをやる機会も多いモーターヘッドにおいては、

例えばギターソロ時のアンサンブルの薄さをカバーする為に適した奏法だと言える。そして音を歪ませている事も効果的に表れる。

勿論、こういったスタイルはレミーがモーターヘッド以前にギタリストとしてプロのキャリアをスタートさせていたという事とも繋がる。

このように、ライヴでもレミーのアティテュードは個性の塊で、そのふてぶてしいルックスと相まって強烈なオーラを放っているのだ。

また、最近ではフー・ファイターズのデイヴ・グロールのプロジェクト「プロボット」にも参加するなど、そのカリスマ性に更なる磨きを掛けている。

 

アルバム「エース・オブ・スペーズ」で頂点を極めたかのように見えたモーターヘッドも、度重なるメンバーチェンジやプロデューサーとのアンマッチングなどに悩まされ、

黄金期と呼べる時期は束の間の夢に終わる。

と、こう書くとまるでモーターヘッドのパワーが失速したように思われるかも知れないが、実際にはそうではない。

上で「商業的な成功」という書き方をした通り、それはあくまでセールスやチャート上での事。

ハッキリ言おう。レミーはそんな軟弱な男ではない。

1960年代、イギリスがまだまだ貧困に包まれていた時代に、レミーはロックンロールを武器に、

現実世界でも音楽界でも裏街道を闊歩してきた、男の中の男なのだ。

イヤ、あえて言うなら“男”ではなく“漢”!

モーターヘッドの音楽はその時々によって色々な角度を見せつつも、その本質は何も変わっていない。

その独特の猛々しさは、デビュー当時から一貫して貫かれているのだ。

それは2000年に行われた来日公演の凄まじさからも解る。

レミーは既に50歳代も半ばに達している訳だが、やはりアティテュードはそのままに、モーターヘッドの健在ぶりを見せ付けたのである。

よくある、加齢に伴うパワーダウンなど、レミーにとっては関係プー。

いまだに誰よりもダーティーに、荒々しくロックしているレミーなのだ。

 

その男の胸で輝き続けるもの。それは決してナチスのカギ十字などではない。

キング・オブ・ロックンロールの紋章なり。

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このベーシストへのいざない作品:

■ノー・スリープ・ティル・ハマースミス(モーターヘッド)

■ザ・コンプリート・ベスト・オブ・モーターヘッド(モーターヘッド)