第四回:シド・ヴィシャス
「死して音も残さず」
1970年代のロックシーンには、「複数の頂点」が存在していた。
これまでここで紹介してきたアーティストの中にも、その「頂点」はいる。
そして、その「頂点」の中で最も激しく、最も刹那的だったのが、イギリスから登場したセックス・ピストルズだ。
セックス・ピストルズが登場してから、世界は史上初のパンクムーヴメントを迎えた。
彼らがパンクの象徴とされる所以はそのパイオニアの1人だったからということもあるが、何よりその過激なルックス、サウンド、歌詞、生き様といったような、
パンクの要素を全て最高のレベルで満たし、後続に大きな影響を与えたからであった。
逆に言えば、ピストルズのやったことがそっくりそのまま「パンク」になったと言っても良いかも知れない。
それくらいに彼らの登場は衝撃的だったのである。
ピストルズが登場してからというもの、それまではマニアだけのものでしかなかったパンクという音楽が、言葉が、生き方が認知されるようになった。
ある1人のちっぽけな男の名前も引き合いに出されながら・・・。
その男の名前はシド・ヴィシャス。セックス・ピストルズのベーシストである。
1957年5月10日生まれ。本名:ジョン・サイモン・リッチー。
スージー&ザ・バンシーズのドラムをしていた時期もあったが、ピストルズの初代ベーシスト、グレン・マットロックがバンドを脱退した事により、
後任ベーシストとしてピストルズに加入。
セックス・ピストルズと言えば、ヴォーカリストのジョニーでもギタリストのスティーヴでもなく圧倒的にシドだ。
イヤ、ピストルズというくくりだけではなく、パンクというものの存在を象徴するのがシドではないだろうか。
実際「パンク」と聞いて彼の事を連想する人は数多いことだろう。
そんな伝説になっているシドだが、実は彼がセックス・ピストルズに加入したのは、意外にも本人の意思による所ではなかった。
彼にベースを与えたのは、ピストルズを創り上げようとした人たちだった。
シドはピストルズに加入するまで、ただの街のチンピラでしかなかった。
ベースというものに触ったことがなかったのだ。
しかし彼は、最も若くして死んだ、最も有名なパンクのベースヒーローになった。
ベーシストと言っても、彼はベースが弾けるわけではない。
グレン・マットロックが脱退した後のレコーディングでは、ギタリストのスティーヴが代わりにベースをプレイしていたし、
ライヴになると一応ベースは掻き鳴らしてはいるものの、多くの時間は客席に降りていって客とケンカしていたりする。
およそ「ベーシスト」と呼べるほどのプレイは残していないのである。
しかし、ベースを股下まで下げて持ち、裸の上半身にカミソリで「FUCK」と刻んで鼻血を流しながらステージで暴れる姿は、
当時世界中で流出していた多くのパンクバンドのベーシストの憧れの的であり、そして現在でも伝説として語り継がれている。
世界中幾万のパンクプレイヤーたちは皆、口を揃えて言うのだ、
「シドよりカッコいいベーシストはいない」、と。
それは単にベーシストという観点からだけではなく、21歳という若さで死んだ、シドの生き方そのものを言うのだろう。
1978年10月12日、シドは目覚めると、恋人のナンシーがバスルームで刺されて死んでいるのを見付けた。
彼はドラッグを打っていたため、自分がどこで何をしていたか覚えていなかったが、犯行を自白し逮捕された。
ヴァージンレコードは彼に保釈を受けさせたが、その数日後にはカミソリで自殺未遂。
そして、その後しばらくしてドラッグの接種過剰で死亡した。
直前にしたためた遺書には、シドの直筆でこう書かれていた。
「ぼくらは一緒に死ぬ約束をした。その約束を果たさなければ。
彼女と一緒に埋めて欲しい。
革ジャンにジーンズ、モーターサイクルブーツを履かせて。
さよなら。」
だがシドの約束は果たされなかった。
ナンシーの両親はそれを許さず、シドの遺族にナンシーのお墓の位置すら教えなかった。
その後、シドの母親がナンシーのお墓の位置を探し出し、密かにそこへシドの遺灰を運んだと言われている。
シドは若すぎた。
社会を知らない子どもたちが、純粋に夢を抱き、信じるように、彼はセックス・ピストルズに心酔した。
純粋なままに表舞台に飛び出してしまった彼は、ヒーローを無理に演じていたのでもなく、計算された考えの基に動いたのでもない。
自分の抱いた憧れ、イメージのままに生きたのだ。
その結果、彼は死んだ。
1つのバンドのベーシストとして振り返ったとき、何の意味もない存在だったかも知れない。
だが、シド・ヴィシャスには白のプレシジョン・ベースがよく似合っていた。
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このベーシストへのいざない作品:
■ベスト・オブ・セックス・ピストルズ(セックス・ピストルズ)