第二十一回:Tokie

「天使のように繊細に、悪魔のように大胆に」

 

爆ベー初の女流ベーシストの登場である。

これまではたまたまムサい男性ベーシストばかりにスポットライトを当てて来たが(まぁ相対的に見て男性ベーシストの方が多いのは事実だが)、

女性のベーシストにも爆烈なベースプレイヤーはゴマンといる。

2000年に日本のロック界に颯爽と登場したバンド、「ライズ」でベースをプレイしていたのも、「Tokie」という名前の女性ベーシストだった。

ライズのデビューアルバムのCMがテレビで放送された時、多くの視聴者は、そのアグレッシヴで斬新なサウンドと、

そして、一見するとモデルかと見間違えてしまうほどの端麗な容姿で、ベースを一心不乱にスラッピングし続けるTokieの姿に驚かされた事だろう。

管理人もその視聴者の一人なのだが、最初にそのプロモーションビデオの映像を見た時はかなりビビッた。

最初にサウンドだけを聴いて、てっきり若者の男ばかりのバンドだろうと一瞬で思い込んでしまったのだが、次の瞬間に映ったのが、

ノースリーブの衣裳に身を包み、華奢な身体とは不釣り合いにすら見えてしまう大きなボディのジャズベースをノリノリでシバきまくるTokieの姿だったのだ。

そしてその僅か数秒の映像と共に、ライズというバンドの名前は強力に脳裏に刻み込まれた。

 

Tokieの姿が印象的だったのは、それまで彼女自身があまりメディアに登場するような活動をしていなかったという事も、大きな原因の一つとして挙げられる。

そう、Tokieはライズで表舞台に登場するまでは、あまり表立った活動はしていなかった。

せいぜい日本のポップスアーティストや歌謡曲シンガーのバックミュージシャンを務めていた程度で、

バンドのパーマネントメンバーとしてバリバリ活動するなどといった機会はあまりなかったのである。

ライズを見た人の中には「新人ベーシストか?」という印象を受けた人もいた事だろう。

もっとも、彼女のキャリアを振り返ればそういう誤解も仕方ないかも知れない。

 

Tokie。

1965年7月1日、東京都調布市生まれ。

父親の仕事の関係で、幼い頃から転々と住まいを変えていたそうだが、

中学生の頃に、新入生歓迎演奏会で学校のブラスバンド部の演奏を見た事がキッカケでコントラバス(アップライトベース)をプレイし始める。

その時、ナゼか「一番カッコ良い」と感じたのがベースだったらしい。

高校生になるとエレクトリックベースをプレイするようになるが、相変わらず住まいが転々とする生活は続き、

結局アマチュアバンドのメンバーになる事が出来ないまま高校生活を終える。高校を卒業してからはバンドにこだわらず、セッションベーシストとしての活動を開始。

この頃に具体的にどういった活動をしていたのかは、正式な音源や資料が残っていないので残念ながら判らないが、

まさに彼女にとっての“下積み時代”だと言えるだろう。

'93年、28歳の時に単身ニューヨークへ移住。イーストビレッジで知り合ったアメリカ人、フランス人、ユダヤ人、日本人で結成された多国籍ノイズ系バンド、

「サルファー」に参加、アルバムを1枚リリース(これが一応Tokieの正式な参加作品第一号とされているようである)。

2年ほど活動していたが、'96年に帰国。

アメリカでの活動で着実に実力を身に付けていたTokieは、帰国後すぐにプロのセッションベーシストとしての活動を開始。

まず参加したのは、キーボーディスト・富樫春生のバンド、「ボンボコ」だった(以後2000年まで在籍)。

そしてそれと平行した活動としてhitomi、林田健司など、ソロヴォーカリストのコンサートツアーや、セッションメンバーとしてサポートベーシストを務め、

活動範囲を大幅に広げていく。

'97年、ライズ結成。'00年にはアルバム「ルーキー」でメジャーデビューを果たす。

先述した通り、このライズでの活動で一躍脚光を浴びる事になるのだが、それはエレクトリックベースもアップライトベースも意のままに操り、

激しくノリながらブリブリ弾きまくるという、Tokieの「男前な姿」に深く起因しているだろう。

勿論、音の凄まじさやグルーヴ感は、サウンドを聴けばよく判る。

特にハネ系リズムの曲やメロディアスなフレージングなどでは、彼女の旋律はあまりにも華麗で美しく、女性ならではの繊細さを漂わせている。

2000年には、ブランキー・ジェット・シティのギタリスト/ヴォーカリスト、ベンジーこと浅井健一とUAからなる「アジコ」に参加、

2001年の全国ツアーでは、ライヴ19本で約30000人を動員する。その後アジコは活動停止、そしてライズも脱退する。

Tokieが次なる活動の場として選んだのは、元ブランキー・ジェット・シティのオーガニックドラマー、中村達也との融合、「ロザリオス」だった。

現在もツアーに、セッションに、と多忙な日々を送っている。

ちなみに趣味は温泉巡り、お菓子作り、料理。

この辺は女性っぽさを感じさせるが、ライヴでは彼女を目当てに会場に訪れる女性が大勢おり、黄色い声援を浴びているというのはサスガである。

余談になるが、彼女が最近一番感動したのは「ドリフターズのいかりや長介さんが、CMでアップライトのベースを渋く弾いているのを見たこと」だったらしい。

身長:162cm、体重:46.5kg。血液型:A型。握力・右:26kg、左30kg。

エレクトリックではトップドッグ(プロデューサー・佐久間正英のオリジナルブランド)、モデュラスを、アップライトはカラザースギターのモノを、

アンプはエデンのモノを愛用している。

 

このように見ると、実際にライズでメジャーシーンに登場するまでの彼女の活動というのは、基本的に裏方に徹している訳で、

必然的に彼女自身が無名な存在であった事も、仕方がないと言えば仕方がないのである。

そして、ライズに参加した事でTokieというベーシストの存在が音楽界に広がると、瞬く間に彼女は売れっ子ベーシストとなった訳だが、

これこそが彼女のベーシストとしての実力と人間としての魅力を証明する恰好の材料だと言えるのではないだろうか。

 

しかし、Tokieというベーシストを見ていて感じるのは、驚くほどに適応力が高い、という事である。

キャリアを見ても判るように、ある時はラウドなロックミュージックで、ある時はセッション中心のインプロヴィゼイションミュージックで、

ある時は歌モノバックで、と、その活動範囲は多岐に渡っているにも関わらず、どれも必ず彼女独特の存在感を見せ付けているのだ。

例えばライズのアルバムでは、モダンヘヴィネスの体裁を、エレクトリックベースとアップライトベースの両刀を操って流麗な旋律をもって表現しているし、

アジコのアルバムではアップライトベースでまさに「歌うようなフレーズ」を豊かな音色で奏でている。

更に、ロザリオスでは殆どの楽曲を中村達也とのセッションから生み出し、ライヴでもその場のノリで掛け合い・反発などを繰り返しており、

実に刺激的なプレイをしている。中村自身も相当ダイナミズムやグルーヴが凄まじいドラマーであるが、

Tokieもそれに呼応するかのように暴れ回っていて凄まじい音世界が繰り広げられているのだ。

自身のバンド以外での作品を見ても、例えば朝本浩文のアルバムでは、延々とループするドラムンベースを相手に、

アップライトベース1本でこれを迎え撃ち、緊張と興奮のプレイを繰り広げている。

また、はっぴぃえんどのトリビュートアルバムでは、アップライトベースのアルコ/ピチカート奏法を1曲の中で使い分け、心地よいベースフレーズを聴かせている。

元ジュディ・アンド・マリーのギタリスト、TAKUYAのソロアルバムでは、地味ながらも要所要所でグリッサンドやバウンス感を出して“歌う”ベースを弾いている。

 

このように、Tokieは共に音を出すパートナーによって、変幻自在にその姿を変え、時には繊細に、時には大胆に、ベースという楽器を操っているのだ。

その柔軟性と適応力こそが、Tokieの持つ彼女ならではのスタイルなのである。

 

とあるインタビューで語った、Tokieの言葉。

「私って、常に自然体。それが長続きしてきた理由かも。気合の入っていた女の子ほどやめてしまった。

演奏する音楽によってベースという楽器はアップライトであれエレキであれ、変化できる。そこが、この楽器の最大の魅力ですね。」。

 

そんな自然体なTokieのベースプレイは、時として“天使”にも“悪魔”にも姿を変える。

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このベーシストへのいざない作品:

■ルーキー(ライズ)

■アジコ・ショウ(アジコ)

■スクール・オブ・ハイ・センス(ロザリオス)