黙示録 


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「日本で稼いだカネはいらない」――政府の洗脳はここまで浸透した
 SPECIAL REPORT  中国共産党の「反日・愛国」教育
 SAPIO 2006年12月13日号         ●石平 SEKI Hei (日中問題研究家)

  ここ約20年ほどで中国は親日から反日に劇的な変化を遂げた。とりわけ、共産党のなりふり構わぬ愛国教育の激しさは目を覆うばかりだ。
  今から6年ほど前に中国四川省の実家に帰省したときのことである。大学1年の甥が遊びに来たので、私が財布から何百元か取り出し小遣いとして渡そうとすると、彼はこう言った。
  「おじさんのお金は日本人からもらった給料だろう。そんなお金はいらない!」
  まさか身内の人間からそんな言葉を浴びせられるとは思いも寄らなかった。甥は純真で真面目な子だったので昔からかわいがってきたし、彼もよくなついていた。それなのに、当時の大学生の1カ月分の生活費を、「日本人の汚い金だ」とためらいもなく振り払ったのだ。
  私はその何年か前から、中国に帰るたびに、社会の空気の変化に気づいてはいた。中国の友人や知り合いに会い、日本で仕事をしていることを伝えると、「あんな陰湿な社会にいたら酷い目に遭っているに違いない」と決めつけられ、同情される。
  それに反論すれば、今度は「お前は日本人に買収されてウソをついている売国賊だ」と罵倒されるのである。
  だから、この甥に対して説明しても無駄だとすぐに悟り、話を変えようとした。ところが、彼は逆にこう質問してきたのである。
  「日本がもう一度中国を侵略してきたら、おじさんはどうする? 中国に帰ってくる?」
  あまりにバカバカしくて反論する気にもならず、冗談半分で「そうなったらお前はどうする?」と聞き返してみた。すると、甥は背筋を伸ばして、「僕は最前線で戦う。小日本を徹底的にやっつけるんだ」と答えた。
  「実は大学で共産党の入党申請書を提出したんだ」
  私が「そうか、お前は共産党が好きなのか」と聞くと、「当然だろう。中国人ならみな共産党が好きじゃないか。昔、日本侵略軍をやっつけたのは共産党だし、今も日本の侵略を防いでいるのは共産党のおかげだ。おじさんは歴史を知らないのか!」と食ってかかってきたのである。
  こうなると叔父も甥もない。
  「じゃあ聞くが、今から11年前に北京で起きた6・4事件(天安門事件)を君はどう思う」
  「あ、あれのことか。はっきり言いますが、おじさんたちのやったことは間違いです。党と政府の措置は正しかった」
  さすがに堪忍袋の緒が切れた。
  「丸腰の学生たちを虐殺して、いったいどこが正しかったんだ! 政府が罪もない人を銃殺するのは正しいと言うのか」
  しかし、甥は譲らない。
  「おじさんたちは、外国勢力の陰謀の道具に使われただけだ。鎮圧しなければ、中国は外国勢力の支配下に入ってしまうじゃないか」
  私は怒り心頭に発し、あやうく平手打ちを食らわせそうになったが、かろうじて理性で抑え込んだ。すると甥は、
  「殺人といえば、日本人こそ殺人者じゃないか。南京大虐殺をやり、何千万人の中国人を殺した。おじさんは忘れても僕は忘れませんよ」
  そう言い捨てると、甥は部屋から出て行った。これがいまでも鮮明に残っている甥との対話の一部始終である。

 
憎しみの対象を変えただけで、共産党の洗脳教育は昔のまま

  それまで私は共産党が反日宣伝を繰り返す意図をつかみきれていなかった。しかし、この一件ですべてがわかった。
  共産党は反日宣伝と教育を繰り返すことで、「日本は悪魔の侵略民族である」という幻想を作り出し、その洗脳により甥は憎しみの感情を煽り立てられていた。日本を憎むあまり、日本の侵略から祖国を守ってくれる共産党に心酔し、天安門事件の虐殺まで正しいと断じたのである。彼のような考え方の若者を継続的に量産すれば、共産党の統治基盤は盤石のものとなる。それこそが党のねらいだった。
  洗脳教育というのは恐ろしいもので、ありとあらゆるウソが集まって1つの完璧な世界観を形成してしまう。ウソをついている人間までも本当のことのように錯覚し始めるほどだ。
  天安門事件は共産党にとっても史上最大の危機だったと言える。この事件を境に、共産党は方針転換を図った。つまり、かつては西欧資本主義を邪悪な暗黒世界とし、理想の共産主義国家を建設するのが共産党だと位置づけていたのが、日本という暗黒国家が再び中国への侵略を企てており、その侵略から祖国を守るのが共産党であると、対立の構図を変え、民族主義、愛国主義の教育を始めたのである。
  学校の教科書はすべて書き換えられ、日中戦争の日本軍の残虐行為をあげつらうものになった。相変わらず小学校の教師は、授業で日本軍の残虐行為を語るときに、感極まって泣き崩れる。壮絶な話に興奮した生徒たちは泣き叫び、教科書を黒板に叩きつけ、机をひっくり返し、集団ヒステリー状態に陥る。しかし、それが収まった後には、教室の中に恍惚とした一体感と日本に対する激しい憎悪が生まれるのだという。
  この「日本による虐殺」を題材にした共産党のプロパガンダは、教育現場のみならず、マスコミを巻き込んで徹底している。
  たとえば、2000年1月に、日本の民間団体が南京大虐殺の真偽の検証をテーマに開いた集会は、たった400人が参加しただけの極めて小規模なものだったにもかかわらず、『人民日報』や中央テレビ局をはじめ、全国の新聞、テレビ、雑誌が総力を挙げて嵐のような日本批判キャンペーンを繰り広げた。経済誌や生活・娯楽を扱う夕刊紙までもが参加し、「日本軍国主義の侵略に備えよう」と気勢を上げた。そして、この反日キャンペーンは半月にも及んだのである。
  基本的に中国のメディアには報道の自由がない。経済や娯楽などのニュースは自由でも、政治、外交、イデオロギーに関する報道は完全に党の指導下でコントロールされる。つまり、こういった反日キャンペーンは、共産党の指示や許可がなければできないのである。

 
戦争を知らない世代ばかりが共産党を盲信している

  私は日本の残虐行為の話を聞かされるたびに、80年代の友好ムードは何だったのかと虚しい思いにかられる。当時は戦前の人間がまだ大勢生きていたわけで、もし日本が本当に共産党の言うような虐殺をやっていたとしたら、あれほどの友好ムードが醸成されるはずがない。
  中国で「虐殺を忘れるな」と騒いでいるのは、どういうわけか甥のような戦争の実態を知らない若い世代なのである。
  教育とはパラダイムを作り出す行為である。共産党は、天安門事件以来、学校教育とメディアを利用し、20年以上かけて「邪悪な日本」と「侵略から中国を守る共産党」という偽りの世界を見事に構築した。共産党は自らの権力を守るためだけに、中国人民に対して情報戦を仕掛け、大勝利を挙げたのである。

●このレポートを読みますと、メディアと教育を使えば13億の国民をも簡単に洗脳できることがわかります。いまや超大国アメリカに次ぐ経済大国になろうとしている隣国の若者たちが、この20年の間に政府から誤った歴史を教えられ、本当はODAや円借款などの資金援助によって中国の今日の発展にもっとも貢献してきた日本を、逆に中国を侵略しようとしている“悪魔のような民族”と思うように洗脳されている事実には憤りと同時に戦慄さえ覚えます。
  しかしながら、大半の日本人はそのような事実を知らされていないため、中国の日本大使館や領事館にデモ隊が押し寄せ、投石などを行なった背景を理解することができないのです。
  オリンピックが終われば、中国の共産党政府は、貧富の差が拡大する一方の国民の怒りを外に向けるために、台湾問題や尖閣諸島の領有権をめぐって、かならず“敵国・小日本”との対立の構図をつくり出していくはずです。その時のアメリカ大統領が民主党のクリントン女史になっていて、日本は見殺しにされるというシミュレーション小説が、元アメリカの政府中枢にいた人物によって書かれている話は当サイトでご紹介しています。
  いま国内ではいじめや虐待問題で頭を痛めているわが国ですが、これからは中国という国からの徹底的な「いじめ」と、場合によっては残酷な「虐待」という悲惨な事態も覚悟しておかなくてはなりません。遅くとも2009年からは、間違いなくこの国が一足先に終末の大混乱を体験していくことになりそうな気がしています。
                                    (なわ・ふみひと)

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