78回転盤の世界

昔はこんなモノで音楽を楽しんでいたのです・・・

  

エジソンが発明以来、120年以上の歴史があるアナログレコードですが
一番はじめの姿は、ろう管レコードといわれる円筒形のレコードでした。
この方式はろう管を利用する為にレコ−ドの寿命が短く、また量産にも
あまり適さない為に比較的短命でした。その代わりに主流となったのが
現在のLP盤の源流、円盤によるレコードでした。
1900年の発表当時は片面盤のみでしたが、すぐに両面盤が登場して、
ろう管レコードとの圧倒的なメリットを見せつけて、
レコードの主流の座を奪う事になります。生産も容易で、ミリオンセラーの
レコードが出始めるのも円盤レコードになってからの出来事です。ろう管では、
複製できる本数が少なく、大ヒットに至るほどの生産は出来ませんでした。
その頃から、1960年頃まで生産されていたのが78回転のレコード盤。
回転数は正確に78回転ではなかった物が多く、1920年頃までは
60〜120回転位の開きが有った様ですが、その後は大体78〜80回転
の間に落ち着いた様です。アバウトだったんですね、さすがアナログ。

さて、1925〜8年頃からレコード原盤の製作に電気録音方式が
採用されるようになるのですが、それ以前はアコースティック録音と称する、
機械式の録音方法が採られていました。いわゆるメガホンを用いる方法です。
演奏者はメガホンの開口部で演奏し、メガホンの根元に付けた振動板の振動を
ワックス原盤に刻み込むという、なんとも原始的な方法です。しかし、
エジソンが最初に開発した蓄音機以来、最初の約50年程はこれしか手段が
なかったのです。音の記録再生の歴史124年のうち、50年は電気を
必要としなかった時代があるということです。超アナログ時代?

しかし、声を盤に刻むためには、思いきり張り上げるような歌唱となりますし、
器楽でも実際の演奏よりも大きな音量で演奏しなければならないなど、
当時の演奏家はかなり苦労していた様です。それが原因で、録音を
拒んだ演奏家が大勢いた様で、音量を自在に調整できる電気録音の登場は
レコード会社として悲願だったのでしょう。また電気録音は
音量だけでなく、音質の向上も同時に果たすことが出来ました。
周波数レンジを飛躍的に広げる事ができ、Hi−Fiという言葉も
この頃産まれています。電気録音用に再生機も広い周波数特性を
考慮したものが登場し始め、有名なビクトローラ・クレデンザと呼ばれる
蓄音機などがその例です。しかし、既に再生機にも
電気の応用が進み始めており、その後は電気蓄音機(略して電蓄)にバトン
タッチしていく事となります。ラジオの低周波増幅回路を応用し、
電蓄とラジオの複合商品がヒットしていたようです。
その後、第2次大戦をにらんで樹脂成形技術が発達したおかげで、
塩化ビニールによる長時間レコード開発に至り、33回転レコードが
一部で発売されたりしましたが、本格的な長時間レコード普及は、戦後の
LPレコード登場まで待たなければなりません。1930年代の長時間
レコードは、民生用としては失敗に終わりましたが、放送用録音盤など
に応用されて、いまでも鮮明な録音が残っていたりします。
SPレコードの材質はシェラックと呼ばれるもので、ラック虫といわれる
昆虫の分泌物が主な材料となっているとの事です。
材質上、衝撃に非常に弱いため、取り扱いには細心の注意が必要です。
硬い性質故に、ダイヤ針による電気再生ではほとんど磨耗しませんが、
当時の蓄音機による再生では、磨耗しやすい鋼鉄針を用いた事や、
針圧が150g程度も掛かる事から、音溝の磨耗はかなりのものでした。
現在残っている盤は、その再生履歴により音質がまちまちです。
磨耗の少ないものは、これが本当に半世紀以上も前の録音なのか!
と、ビックリするほどのなまなましい音を聴かせる場合もありますが、
盤面が白くなるほどに磨耗したものは、雑音の中にようやく音楽が鳴っている、
という感じだったりします。

1950年代には、LP盤、EP盤と並行して発売されていた事もあり、
LPの録音技術を応用した、テープ音源によるSP盤もありました。
本当の末期には、録音特性もLPと同じRIAAが採用された盤もあった様ですが、
それ以前の盤では各社各様の録音特性が採用されていましたので、
今、電気再生を試みる際には、盤に合わせてのイコライジングを考慮しなくては
なりません。LP用のイコライザーをそのまま用いたのでは、録音時の
周波数特性を再現しているとは言えないからです。
しかし、このイコライジングカーブを特定するのは非常に厄介で、
同じレーベルでも録音時期によっては全然違うカーブが採用されていたり、
場合によってはカッティング機以前の機器特性まで考慮しなければならないなど、
カーブを完全に一致させることはほぼ不可能といっても過言ではないでしょう。

SP盤用フォノイコライザーという商品も、僅かながら市場には存在しています。
モノラル仕様で数種類のイコライザーカーブ切り替えスイッチを備えているものが多く、
その少ない需要からか、ガレージメーカーによる少量生産品となっており、
価格もそれなりです。
とりあえず、今お持ちのRIAAフォノイコライザーを用いる場合には、
グラフィックイコライザーで補正しつつ使用する手があります。
ただし、そのイコライジングカーブは自分の耳で決める事となります。
実際にやってみると、補正量は意外と小さく済むものですが、
それが正しいかどうかは誰にもわかりません。好みの入る余地といえます。
心地よく聴ければよし、とします。
かく言う私も、SP用のイコライザーは未だ持っておらず、
RIAA用イコライザーとビクターの古いグライコを併用して再生しています。
将来的には各種カーブ切り替え付きのイコライザーを自作したいと
思っているのですが・・・
しかし、手持ちのSP盤は主に1950年代の物が多いので、
イコライジングはしやすく、今の所はこの組み合わせで充分満足しています。

現在はむしろ、SP盤に対応したカートリッジを探す事の方が大変。
私が使っているのは、シュアーのSC35CにN78S針を取り付けたもの、と
デンオンDL−102SDを使い分けています。
シュアーの方は、針圧が1,5g〜3gとLP用並みですので、
普通のアームで対応できます。しかし、78回転という高速で回転するSP盤に、
大きなソリがある場合は全くトレース不能となります。
これは、本来横振動のみのSP盤に、縦方向のトレースまで考慮されたステレオ
カートリッジを転用する際の「弊害」です。
一方、DL−102SDの方は針圧19gで使用する本格的なSP用カートリッジ、
トーンアームを選ぶのが難点ですが、ソリ盤でもトレースは非常に安定しています。
針圧19gを受け止める振動系の構造を観察してみると、LP用のDL−102の
スタイラスチップをSP用に変更し、カンチレバーとボディ間に、縦長のゴム片が
接着されています。これにより、縦方向の運動を拒絶しつつ、横方向には
大きなコンプライアンスを確保し、安定したトレースを実現しているのです。

さっそくマネしてみました。シュアーにも同様の改造をしてみたのです。
テクニカのVM型振動系の根元に付いている、円盤状のゴムダンパーを拝借、
102SD同様の構造を、シュアーにも再現してみました。
決してオススメしませんが、慎重に作業すれば、誰にでも簡単に改造できます。
振動系にダメージを与えない様、注意します。

改造後は針圧を6g程度まで上げて使用することとなり、ソリ盤でも安定した
トレースとなります。ソリによってカートリッジが上下動する事により発生する
音揺れも極小となり、実に快適です。

なお、ステレオカートリッジでモノラル再生する場合は、あらかじめ
シェル内で両チャンネルをL+R接続しておきます。
こうしておきますと、縦方向の余計なノイズを拾わなくなりますので、
モノラル用カートリッジとほぼ等価になります。
更に、SC35CにM44GX用の針を付ければ、そのままモノLP用として
使用する事も出来ますので、大変好都合です。

さて、更に問題なのはターンテーブルです。
現在、SP盤対応として販売されているプレーヤーシステムは
テクニクスSL−1200MK4をはじめ、数機種だけと思われます。
最も安価なところでは、コロムビアの音聴箱シリーズがあります。
海外ではトーレンス、デュアルに対応機が用意されているほか、
古いガラード301、401でも78回転があります。

私の場合、ビクターのプレーヤーシステムJL−F55Rの制御回路を改造し、
78回転に調整した物を用いています。他、テクニクスSL−55も
同様の改造が可能でしたが、初期DDの全てが改造可能という訳ではありません。
78回転がサーボ範囲から外れる場合は無理しない方が良いでしょう。
なお、オートプレーヤー機を改造する場合は、オート機能を取り去る事を
お薦めします。SP盤はエンド溝の位置が盤によってまちまちの為、
オート機能が誤動作する事が多いからです。
針を降ろす際も、リフター等は使用しない方が確実です。

このように、現代のプレーヤーでSP盤を聴く為には、
かなりマニアックな改造が必要となりますが、
苦労して改造したこれらのシステムでSP盤を聴きますと、
歪み、ノイズともかなりのレベルながら、
何よりもいきいきとした音楽を拾い上げてくれる事に、ビックリします。
半世紀以上前でも、レコードはホーム・エンタテインメントとしての
役割を充分に果たしていたのだな、と妙に感心してしまいます。

しかし、整備された良質な蓄音機で『演奏』されるSP盤の音は
物凄く素晴らしいもので、我が家の音など全然かなうものではありません。
電気再生であのレベルに到達するのには、更に研究が必要の様です。
音の「張り」が全然違います。
本物のピアノと、デジタルピアノの違いみたいなモンです。
似て非なるもの、でしょうか?

 

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