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七つの科学事件ファイル―科学論争の顛末

[2001/07/30 Up]

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 内容は題名のとおり7つの科学論争をテーマに、学説の真偽が揺れ動くさまが書かれています。各章の見出しは

・記憶物質の謎
・試験管の中の疑惑
・相対性理論は絶対か
・正体の見えない重力波
・自然発生説はなぜ葬られたのか
・ムチオトカゲの性生活
・太陽ニュートリノの謎
 という感じで、常温核融合の研究競争についての抜け駆け記者会見の話や、相対性理論の発表直後の混乱についてなどが書かれていますが、その中でも「記憶物質の謎」という話がとても興味を持ちましたので、その部分を中心にお話します。

 記憶を司る物質を抽出することができれば、その物質を飲んだり注射したりすることで記憶を手に入れることができるのではないかという仮説が立てられました。そこで、プラナリアという原生動物を教育し、そのプラナリアを磨り潰して別のプラナリアに食べさせるという実験を行ったところ、餌になったプラナリアの記憶が伝授されたという結果が得られました。

 当然、速攻で反論が出されました。「本当に記憶物質が移植されたのか?」「そもそもプラナリアに教育というものが可能か?」等など。追試を行い、検証できなかった批判的研究チームと実験の正当性を主張する研究者の対立。プラナリアの教育には愛情が必要で、実験に失敗したチームは愛情が足りなかったという少々トンデモ理論のような話も出て論争は泥沼化していきます。しかし、プラナリア論争が盛り上がる中、そんな論争を吹っ飛ばす報告がなされました。ラットでの実験成功という報告です。

 迷路を記憶したラットの脳から抽出された物質を別のラットに注射することにより、記憶の伝達に成功したとの研究報告が四つの研究グループから別々に発表されました。結局、研究費の不足や、記憶物質単体の抽出には失敗したこと、そして何よりその仮説が突飛な事から、尻つぼみになっていったと書かれています。

 その他にもジェフ・ウェーバーが発見したとされるウェーバー波の論争と、その追試に関する研究機関とその実験結果に関する評価(信憑性や正当性など)が極端に分かれたさま等も書かれていますが、概ね「検証や追実験は思ったより行われていない(どんなに苦労して実験に成功しても、他の研究者の成果を支援する結果にしかならないのは自身の得にならない)」「研究報告の奇抜さよりも、その研究機関のランクが信憑性を左右する」との2点がとても印象に残りました。

 ある日突然、新聞を通じて発表される一般人には難解な新しい学説。あたかも「お上の御触れ」が如くありがたく受け取ってしまっていますが、実は検証前の先走りだったり、取るに足らないものだったりすることもあるということが良くわかります。(ところで、ニホンオオカミの話は結局犬だったという風の噂を聞きましたが、発表するだけしておいてその後はほったらかし。マスコミは追跡調査が苦手なのかな?)

 まぁ、(やらしい言い方をすると)即席で頭がいい人のように見せかけるのにも使える本です。


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