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(共著)『日本史小百科 神道』東京堂出版、2002年

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(共著)『日本史小百科 神道』東京堂出版、2002年
はじめに
 本書は、日本の神に新しい角度からの光をあてるためにあらわさ
れた。すなわち、われわれ著者は近代的な神道理解のいくつかの点
についての根本的な反省から出発している。
 ひとつには、神道を日本に固有かつ不変の精神伝統と想定するこ
とに対する懐疑がある。明治政府の宗教政策において、神々は記紀
を中心とした「神道古典」に登場する固有の神として性格づけられ
た。そこでは「神道」というカテゴリーは仏教や修験道などからの
するどい峻別によって削り出される。この流れからすれば、神仏習
合は神道の非本来的なあり方として否定されることになる。
 しかし、われわれは「神道」なるものを孤立した宗教伝統と考え
る立場をとらない。むしろ、仏教や儒教、道教、陰陽道など、今日
では一般に「神道」と別個の伝統とみなされるさまざまな信仰や思
想が渾然一体となる場にこそ神信仰は成立したと考える。本書では
この視点から開かれた論説をこころみた。
 また、教典的テキストや思想的文献のみから神道を理解しようと
する立場に対しても反省的でありたい。そのために、民俗社会の信
仰や儀礼芸能、また神祇信仰と関係の深い文学的作品まで視野に収
めている。
 本シリーズでは、すでに岡田米夫『神社』が刊行されている。本
書では重複をさけて個々の神社をとりあげず、神社以外の場で展開
された神々の問題に重点をおいて記述している。
 具体的な内容にふれておきたい。まず、神の観念と制度を概観す
る。すなわち、第一章では時代を区分したうえで各時代の神観念の
特徴をあきらかにし、第二章で祭祀制度の時代的変遷を説明する。
つづいて、第三章では、神道成立の重要な契機である神と仏の関係
を論じる。そして、神の多様な存在様態を開示するのが第四章であ
る。ここであつかう神信仰は神社のみならず、寺院での信仰や民俗
信仰にいたる広い範囲を対象とする。これら神に対する信仰はさま
ざまな言説や図像として人々に共有されていた。第五章では言説の
うち神話や物語、説話など、古典や文学について説明している。ま
た第六章では、図像にあらわされた神々について概観をこころみる。
他方、神に関する理解は時と場によって特定の教説や思想として結
実した。第七章では主要な神道説をとりあげて解説する。また、第
八章では神々が儀礼や芸能を通じて現実の日常空間のなかに登場し、
聖なる裂け目をあらわにする姿をえがく。
 これらの論説を通じてめざしたのは、神々を、それらが立ち現れ
る特定の時代と場に即して考えること、歴史的な変容のダイナミズ
ムをとらえることである。この両者をともに把握することによって、
現代の日本社会にくらす人々の生についての理解もいっそう深まる
であろう。
 われわれの企ては今はじまったばかりであり、本書もその最初の
試みにすぎない。しかしながら、この書がある方向性を示し、読者
が神々についてなんらかの新しい見方を開くきっかけとなることを、
われわれは切にねがっている。


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