私がスペインフリークになったわけ
料理教室をやっているといろいろな人との出会いがあります。そんな時、必ず聞かれるのが「なぜスペインなんですか?」「どうしてスペイン料理だったんですか?」という類のこと。常日頃から、明確な答えを持っていない私は、つい返答に困ってしまうのです。
  
私とスペインとの付き合いは、か
れこれ15年。始めてスペインを訪れたその年は、イベリア航空のスペイン〜日本間の直行便が開通された記念すべき年でした。本来はモロッコに行くために組んでいた10日間の旅行スケジュール。しかし、モロッコ1カ国だけのツアーはなく、モロッコ・スペインツアーは短くても12日間の日程が必要です。私は、忙しい駆け足の旅行に慣れていなかったのと歴史的にアラブの影響を受けたスペインにも興味があったので、いろいろ考えた末に選んだのがスペイン周遊の旅でした。スペインに行くと決めた時、その時友人が私にこう言いました。「スペインはヨーロッパの最後の砦、楽しみは最後ま
でとっておいたほうがいいよ。」友人の忠告も何のその、その時既に気分はスペイン。いつしか友人の言葉もどこかに消えてしまい、私は10日間のスペイン 旅行に出かけました。
  それまで、旅行会社のツアーというものに参加したこともなく、しかも始めてのヨーロッパ。全て始めて尽くしのスペイン旅行。期待に胸膨らませ飛行機に乗りこんだ私は、スチュワーデスを通して、スペイン人を知り、
恐らく生まれて始めて接しただろうスペイン人を通してカルチャーショックを受けたと同時に妙な親しみを感じたものでした。

 というのも、
こちらがスペイン語がわからなくてもお構いなしに、熟年スチューワーデスが、
機関銃のように巻き舌駆使のスペイン語でワゴンを引いてのお客様サービスをしたと思ったら、座席についておもむろに足を組み、タバコを取り出してスッパスパ。極めつけは隣に座っている同僚と始めた終わりのないおしゃべり。その光景は乗客が入り込む余地がないほどのド迫力でした。その一部始終を見ていた私と私の連れは、何があっても媚を売らずわが道を行くマイペース振りと、世界は自分中心に回っていると思っている厚顔無恥さはまさしく魔女だぁ・・・と思いつつ、「おー、これぞスペイン。さすがかつて大帝国を築いた国」と、それらの態度にあきれるのを通り越して、おみごと!と掛け声をかけたくなるくらい妙な感動を覚えたのであります。

 妙な感動で始まった私の始めてのスペイン旅行。コースはスペインの首都であり、プラド美術館や王宮がそびえるマドリッド、エル・グレコで有名なトレドの町、ガウディの建築物を始めピカソ、ミロなどスペイン有数の芸術家の美術館が立ち並ぶバルセロナ、イスラムの面影を残し、フラメンコ発祥の地といわれるアンダルシア地方セビージャ、グラナダにコルドバといったスペインのハイライトコースでした。想像以上の駆け足の旅でしたが、私が訪れた4つの土地は、それぞれに違った個性を持っていて、言葉こそスペイン語を話していたものの、同じ国に来ているという感覚を与えないほど歴史背景も風景も全て別のものでした。
  ツアーの最中立ち寄る事はありませんでしたが、ひとつだけどうしても気になったものが。それは町の至るところに見かけられたBARの看板でした。各地方、歴史や風景は違っても必ずといっていいほど街中にあるのがBAR。好奇心旺盛な私はどうしてもBARの正体を突き止めたくなり、いくつかのBARを遠目からみることに。

BARの中は、あのイベリア航空のスチュア−デスみたいに、機関銃のごとくスペイン語を捲し立て、まるで人の話なんて聞いちゃいないほど喋り捲っている淑女たちと、夏の風物詩ひまわりのように、一斉にサッカーの番組に集中している紳士たちの姿が。床には使ったあとのナプキンの残骸だらけで、どうもスペイン人は使ったナプキンを平気で床に捨てる民族らしい。 カウンターに目をやると豪快に並べられた料理が大皿にきれいに盛りつけられていて、ツアーについていたレストランの料理よりもはるかに小洒落ていて美味しそう。しかも、小皿料理みたいに、少しずついろんな種類の料理が試せるらしい。ワインを飲んで、料理をつまんでいる人たちは椅子があるのに皆立ち飲み、でも疲れてるどころか、とっても楽しそう。ひまわりさんたちの、つ〜んと突き出たお腹がいかにも幸せを物語ってるって感じ。
どうやらここは、スペイン版立ち飲み居酒屋。「入ってみたいけど、ちょっぴり怖そう。でもワイン飲みた〜い。小皿料理おいしそう。私もスペイン人の仲間に入りたいよ〜。」

  一度は入ってみたいと思いながら、その度胸もなく、結局私は最後までBARに入れず仕舞いに。たまたまツアーで一緒だった人の中には、スペイン語が話せる人がいて、その人達はすっかりBARで楽しんだり、お膳立てされた店やレストラン以外の場所に立ち寄って短い自由時間を堪能していたらしいのです。
  「やってみたかった事が、出来なかった。」スペインは素晴らしかったけど、自由がきかず欲求不満が残った始めてのスペイン旅行。その時の悔しさと大いなる好奇心は、のちのスペイン語を習うきっかけとなり、3年後にはガリシア、カンタブリア、バスクなどスペイン北部へ食べ歩きをし、5年後にははトレドを始めとするカスティージャ、バレンシアへの旅に出ました。年を重ねるごとにスペイン語も少しずつ上達(と思い込んでいましたが)し、なぜ、Barの床に大量のナプキンが落ちていたのか、つ〜んと突き出たお腹のおやじたちがなぜ幸せそうだったのか、そして最大の関心事であったカウンターに並べられた小皿料理のなぞが少しずつ解けてきました。なぞが解けるにつれ、もっと深く知りたいと思うのが女ごころ・・・スペインに魅了された私は、始めてスペインを訪れてから7年目、
ついにスペインに住みついてしまうまでになりました。その間、バルでの楽しみ方の奥義をスペイン人の友人たちから叩きこまれ、すっかりバルフリークになったことは言うまでもありませんが・・・
 何かに夢中になるきっかけは人それぞれ。私の場合は、始めてのスペイン旅行で実現できなかった事を次回こそは実現させたい・・・そんな思いが始まりでした。もちろん、スペインそのものがいろいろな顔を持っていて、また行ってみたいと思わせる国でしたから、こんなにも夢中になったんだと思います。
 「スペインはヨーロッパの最後の砦、楽しみは最後までとっておいたほうがいいと思うよ。」との友人のアドバイス。一理あるとは思うのですが、いろいろな料理が並んでいると、まず最初に好きなものからありつく魔女から言わせると、「楽しみは最初にもつべし。」なぜって、スペインとの出会いは、その後の私の人生に大きな活力を与えてくれましたし、「明日はどうなるかわからないから、今日一日を精一杯楽しく過ごしましょう!」といった生き方を私に教えてくれたからです。そういう人生の過ごし方って素敵だとは思いませんか?少なくとも、魔女はその生き方に大賛成です。

魔女のひとりごと その1  魔女のひとりごと 番外編

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