水木しげる記念館へ>その2:鉄マニ戦隊キハレンジャー誕生

3月22日(土)、5時半起きで活動開始。早朝の三次駅前で朝食が買えそうなお店を探すが、やはりそんなお店はない。薄暗がりの駅構内には、すでに三江線の車両が停車している。

早朝の三次駅

三江線(さんごうせん)は、中国山地内の三次(みよし)から日本海に面した江津(ごうつ)を結ぶローカル線である。これがまた、鉄道マニア垂涎の的で、旅行マニア泣かせの路線なのである。何故「泣かせ」なのか? それは、極端に運行本数が少ないからである。

三次−江津は1日3往復しかない!! しかも朝・夕のみ・・・

江津方面行きの車両(当然1輌編成)に乗り込むと、すでに乗客が5人。最も前の座席を陣取ると、6時13分に出発である。三江線は、中国地方随一の大河である江川(ごうのかわ)沿いに終始走る。

江の川

・・・ ふと気づいた。三次を発ってすでに数駅過ぎたが、乗ってくる客はいない。三次から乗ったおばあちゃんが一人降りただけである。恐る恐る他の乗客を見てみた。 ・・・ どう見ても地元の客ではない。20代〜40代の男4名が、異様な目つきで車内を、車外を凝視している。4人の体からは、得体の知れない妖しいオーラが漂っている。
「ま、間違いない。こ、こいつら本物の鉄マニだっ! やばい、やばすぎっ!」
 いつしか車両は鉄マニ4人占領されていた。そ、そうだ、こいつらはきっと噂に聞いた、アノ集団に違いない!

4人揃って、鉄マニ戦隊キハレンジャー!!

え、お前も含めてちょうど5人揃うだろ、って? いやいやいやいや、私は単なる旅行好きに過ぎないし、ましてや鉄マニではないんで、あの4人とは一線は画さないと。それにさ、最近の戦隊ものは5人に限らない。例えば、現在放映中の「爆竜戦隊アバレンジャー」は4人だしさ。ここで、鉄マニを学問的に分類してみよう。(「キハ」とは気動車で普通車の車体記号である)
 ◆写真派・・・特別列車や引退する列車、新規投入される列車の写真を撮りまくる。主にプラットホームの両端や、線路の
         カーブ付近に群がる。時折線路内に入り警笛を鳴らされる。

 ◆運転派・・・「電車でGO」で擬似運転技術を極めた一派。運転台に異様な執着を見せる。ATS(自動列車制御装置)の
         ジリジリ音が鳴ると、体が反応してしまう。時折「ブレーキが甘い」と呟いている。

 ◆車体派・・・駆動部や内装・外装に激しい興味を示す。「やはり日本車輌製に限る」「○○社製はバネが甘い」といったコ
         メントをする。時折行き先案内板や吊革を強奪する。

 ◆時刻表派・・・時刻表を見て空想鉄道旅行にふける。JTB派と交通新聞社派に分かれる。無駄のない接続をすること快
         感を覚える。「1日でどこまで行けるか」「一筆書きで北から南までどこまで行けるか」と考えるのが大好き。

 ◆旅情派・・・鉄道による旅を純粋に楽しむ一派。ぼーっと車窓を眺めているだけで幸せを感じる性格で、鉄マニの中では
         最も穏健。

もし、もしだよ。100歩譲って自らを鉄マニと認めるならば、あえて言えば「旅情派」であろうか。100歩譲っての話だよ。こうして、しばらくの間彼ら鉄マニ戦隊キハレンジャーとの道中が続いた。途中、浜原で乗り換えて江津へと向かう。江川沿いに山間を下って行くが、集落は疎らにしか見えない。石州瓦の茶色の屋根がやけに目立つ。

石州瓦の集落

三次を早朝に発って3時間強。9時半に日本海に面した江津(ごうつ)の駅に到着。待ち時間6分の間に駅前の商店でパンを買い、遅めの朝食にありつく。江津から出雲市行きの列車(これも気動車)に乗り、日本海沿いに東に向かう。今日の日本海は大変穏やかで、春が近づいていることを感じる。余りの長閑さに眠気が襲ってくるが、それとひたすら格闘する。江津から1時間半揺られて、出雲市駅に到着。ここで確認したところ、三江線での鉄マニ戦隊キハレンジャー4人は、2人に減っていた。さては、2人は江津から西に向かったか。

穏やか日本海

出雲市駅に11時過ぎに到着。出雲大社への玄関駅らしく、駅の正面入り口には、出雲大社のように巨大な千鳥破風が取り付けられていた。で、でかい。出雲と言えば、蕎麦である。駅の案内所でおいしい蕎麦屋の場所を聞き、商店街を抜けてその店を探す。・・・ 3連休だというのに、この商店街の静かさなんだ・・・ 絵に描いたようなシャッター通り。

出雲市駅

商店街が一筋入った所に、お目当ての「そばの加儀」を発見。白壁に格子窓とは、いかにも蕎麦屋といった佇まいである。中に入ると客の姿はなく、どうやら1番乗りである。やりぃー! ここの定番「割子そば」を注文。赤い碗3枚に盛られたそばはやや色黒で、小麦粉2とそば粉8の割合で打たれているそうな。まずは薬味もだし汁もなしでそばをすすると、程よい水気と歯応えで、これだけで1杯食べれそう。紅葉おろしがピリリといいアクセントになる。思わずそば湯をもう1杯頼んでしまった。

そばの加儀出雲そば

駅に戻るが、次の列車に乗るまでには30分近くまだある。駅前にはこれといった店もなさそうなんで、駅構内のお店に入り、割子そばを注文。うーん・・・、加儀と比べると、そばに歯応えがなく、味も落ちるなぁ・・・

割子そば出雲市駅構内のそば屋

12時半前に出雲市駅を発ち、ビールをグビグビやりながら、20分程東へ進む。宍道(しんじ)で降りて駅前をぶらつく。駅の名前どおり、3分程歩いた所には宍道湖の湖水が拡がる。おお、この対岸に一畑電鉄が走っているのか。水際でぼーっとしていると、波のリズムに合わせて「ジャリッ、ジャリッ、ジャリッ」と妙な音が聞こえる。音のする方へ行って見ると、一所にシジミの貝殻が打ち寄せられていて、そこに波が寄せる度に鳴っていた。自然にこれだけ打ち寄せられてきたのか、誰かが大量に捨てたのか・・・

宍道湖宍道湖の貝殻

宍道での乗り換え待ち時間は1時間。駅前には何もないので、駅まで戻る。ビールとつまみを買い込んで、次の列車に乗ると、すでに1人乗り込んでいる。・・・ ヤツだ! ヤツこそは、鉄マニ戦隊キハレンジャーの隊長(推測)! そうか、出雲市駅を先に発っていたのか。あのデブい体格は忘れもしないよ。さすがは隊長、これから木次線チャレンジですか! 真性の鉄マニだ!

木次線(きすきせん)は三江線と並ぶ、中国地方の超ローカル線である。宍道備後落合の約80キロを全通するのは、1日に2〜3本しかない。運行本数もさることながら、道中に三段式スイッチバックがあることで密かなファンを集めている。13時44分に1輌編成の気動車は宍道駅を出発し、いきなり山中へとわけ入ってゆく。アップダウンを繰り返してゆくうちに、沿線の集落は数えるほどになり、徐々に寂しい景色になってゆく。木次を過ぎると、乗客は例の隊長を含めて、ほんの数人となった。

木次線沿線の様子

宍道から1時間半で出雲横田に到着。ここで1時間待たされ、備後落合行きに乗り換える。さて、木次線はここからが本番である。傾斜は更にきつくなり、いよいよ難関の山越えである。三段式スイッチバックとは、傾斜の急な山を越えるために、下図のように進行方向を二度切り替えて傾斜を登ろうというものである。スイッチバック自体が珍しいことなのに、それが2度もあるとは、もうヨダレもの。じゅるじゅる。

三段式スイッチバック解説図

八川駅からゆっくり谷を登ってゆくと、最初のスイッチバックの出雲坂根駅に到着。隊長は喜び勇んで車外へ飛び出してゆく。この駅には「延命水」という湧き水があり、ペットボトルやポリタンクを持った人達が水を汲んでいる。寿命目標120歳を目指す者としては、これは飲まずにはおれない。がぶ飲みでい!

出雲坂根駅の延命水

進行方向を変えて、出雲坂根駅を出る。進行方向左手にはさっき登ってきた線路が、右手にはこれから登る線路が見える。雪除けの屋根がついた折り返し点でもう1度進行方向を変えて、三段式スイッチバックの完了である。きっと、あの隊長の胸のうちには、熱いものがこみ上げている筈である。きっと叫びたい筈である。きっと踊りたい筈である。

出雲坂根駅 踏切の左下が八川 右上が三井野原

スイッチバックからしばらく進むと、車窓に国道341号線の巨大なループ橋(通称:おろちループ)が見えてくる。道の高低差を解消するために、巨大なループ状の道を設けて上下の道を繋いでいるのである。公共工事があれこれ言われているご時世では、恐らく作れなかった代物ではないか。ご丁寧なことに、おろちループが見える箇所では、列車は減速してくれるのである。

おろちおちろ

まだかなりの雪が残る県境を越えて、再び広島県に入る。トンネルと橋を幾つか越えると、昨日も芸備線に乗って訪れた備後落合(びんごおちあい)に到着する。17時過ぎのこの時間帯、夕暮れの備後落合の駅には芸備線の上下2本と木次線の1本が集まり、最も賑わうのでる。賑わう、と言っても、鉄マニ連中で賑わうのであるが・・・ ローカル線の接続駅ではよく見かける駅の雑記帳に、ここまで来たことの足跡を記す。よしっ、これで中国地方は全線制覇だっ!

夕暮れの備後落合

折り返しの木次線に乗り、17時49分に備後落合を出発する。木次線の往復など考えたくもないが、明日の行程の都合上、やむを得ない行動なのである。 ・・・ それにしても、・・・ 乗客が、・・・ いない・・・ 自分しか・・・ 乗ってない・・・  ぐおっ、これでは貸切ではないかっ! 今日朝から同じ空気を吸い続けたキハレンジャー隊長は、芸備線に乗り換えたようだ。さらば、隊長。あんたとはもう二度と会いたくない。

出雲横田までの1時間、乗り込んでくる客はいなかった・・・ 運転手さんに聞いたところ、乗客ナシで運行することもあるそうな。再び三段式スイッチバックを通過し、夜の8時半に宍道まで戻ってくる。木次線往復7時間、なかなか手強い敵であった・・・ 9時半に松江に到着し、本日の行程は終了。

今日の宿は松江駅から15分程歩いた所。腹が減ったのでラーメン屋を求めると、ちょうど道すがらに「八兵衛」なる中華料理屋を発見。入るか否か迷ったが、この先店があるか不安だったので、一度店の前を通り過ぎてから店に入った。ご主人と息子の家族経営でやっていて、いかにも駅前の中華料理屋といった雰囲気。出されたラーメンも、ごくごくあっさりめの変哲のないもの。記憶ナシ。

松江駅前の八兵衛八兵衛のラーメン

繁華街から1筋入った所に、赤い看板のラーメン屋を発見。ガラガラと戸を開けて入ると、客の姿はなし。カウンターの向こうに、森喜朗史上最も無能な前総理大臣に似たいかついご主人と、その弟子?が立っている。奥のホワイトボードに「醤油ラーメンはじめました」と書いてあるが、醤油は定番ではないのか? 醤油を注文したが、ご主人の作り方は、はっきり言って雑。具を投げるように入れてゆく。あと、冷蔵庫から出したての玉子はやめてー 食べてみると、こちらもごくあっさり目の味付けで食べやすい。チャーシューに若干の苦味?らしきものを感じたのを除けば、なかなか美味しかった。

かかしの家かかしの家 醤油ラーメン

本日のお宿は、松江大橋近くのヤングイン松江。ここの料金はナント2,000円。こんな低料金の宿泊先って始めてだ。安くても一通りの設備は揃っているので、これはお得であった。

結局今日は、ローカル線との格闘に明け暮れただけであった。やっぱり中国地方は懐が広い・・・



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