全国民必読 「国富消尽」

吉川元忠さんと関岡英之さんの対談の形式を取った「国富消尽」(PHP・1500円(税別))
が出版されたので、目を通しました。

アメリカが進めるグローバリズムの本質、そして、それにより、日本人のお金がいわば
アメリカに巻き上げられていく構造をよく分析しています。構造改革というものが、
さも内政問題のような装いで進められてきたが、実はアメリカからの要求に基づいて
いる。そして、日本は次第に身動きが取れない状況に追い込まれているというわけです。

全部で7章からなります。

■都合の良いルールを押し付けるアメリカ

1、2章は、外資による日本企業買収についてです。

 日本企業買収に使われているお金は、そもそも、日本から出ているのです。日本が
大量のお金を、アメリカに貸し、それが回りまわってその一部が日本に戻ってきて、
日本企業を買いまくるという構図です。債権国日本の企業が、債務国アメリカに買収
されるという一見すると不可解な構図がある。日本の超低金利政策もこれを
後押しています。

日本政府は外国株を対価として日本企業を買収できる(三角合併)の解禁を進めたが、
ホリエモン問題を契機に、自民党内の反発で一年延期しました。

しかし、この解禁は、「対日投資会議」という日本企業を買収させることを後押する
政府の組織が言っていたことのごく一部に過ぎません。国を挙げて、企業の買収を
後押している。時価会計、減損会計の導入、社外取締役制度の導入など多くのメニュー
が他にもある。


また、金融庁が不良債権処理加速化や持合解消を指導したことで銀行の持ち株比率が
下がり、外国人が上場企業の株の24%を保有するに至っています。

そもそも会計の国際基準を決めるのは、国際会計基準理事会という民間組織ですが、
定員14名のうち、英国人が4名、米国人が3名。カナダ、オーストラリア、南アフリカ
を含むとアングロサクソン系だけで10名に上る。時価会計制度などは大陸欧州には
ない考え方なのですが、この組織でアンフェアに決まった。そしてそれを日本は
受け入れた。持ち合い解消にもつながり、結果として外資による企業買収はやりやすく
なったわけです。

そして、メディアなどでは「外資に見放されたら日本はおしまいだ」などといわれ
ていますが、日本はそもそも債権国でお金が余っている。
それに、新規投資や合弁なら雇用の創出や技術の導入につながるが、今政府が進め
ているのはアメリカの意向を受けてM&A一辺倒です。企業を安く買って資産を高く
売り飛ばすことしか考えていない場合も多い。長期的に日本で経営を続けようと
いう考え方ではない。これでは、むしろ雇用が損なわれ、また技術も流出すること
になりかねない。

また、三角合併で、外国株に交換されての買収だと、日本人は、結局ドル資産を
もたされることになる。ドルは、下落が確実なので、財産権の侵害にもつながる
と吉川さんはいいます。

企業価値を上げるのだ、とアメリカは言うでしょう。しかし、アメリカのいう
企業価値とは、二枚舌もよいところです。当期利益を「包括利益」(純利益に
売買可能な有価証券の評価損益やデリバティブなどの金融商品の評価損益を加え
たもの)にしようと画策しているそうです。市場のちょっとした動きに左右される
評価損益も事業本体の利益もごちゃ混ぜにしようというわけです。これは、アメリカ
の企業が、本業が長期的に見て上がらない。産業が空洞化している。それを糊塗
するために金融収益で儲けようといしている。むろん、これでは対外赤字問題は
解決しないのですが、そんなことはどうでもよい。とにかく、アメリカ企業の
「価値」が世界に通用するようにルールをごり押しして変えればよい、というわけです。

結局アメリカの進めるグローバリズムとは、関岡さんが言うとおり、モノ作り
では日本に負けたので、金融や会計の部門でアメリカが有利なような制度設計
をしてそれを日本をはじめ世界に押し付ける、それを通じてお金を巻き上げる
という按配です。

■「官から民へ」ではなく「日から米へ」、「公から私へ」

第3章は郵政民営化問題です。

アメリカは、一貫して、簡保の廃止を「年次改革要望書」で要求してきました。
保険市場の開放をアメリカは要求し、日本にそれを実行させてきた。そして、破綻
した日本の保険会社を外資が買収するという構図ができた。その延長線上に今回の
民営化があるというわけです。

総理は、お金を官から民へ流すのだ、といって郵政民営化を強行しました。しかし、
お金は「官から民へ」ではなく「日から米へ」流れるというわけです。

郵貯についても同様で、アメリカへ流れる可能性がある。しかし、アメリカで設備
投資などに使われるならまだしも浪費の穴埋めに使われるのだから、戻ってくる
保障は無いというわけです。

こうした問題の多い法案に反対した自民党議員こそ、愛国者だと筆者らはいいます。
族議員などというレッテルを貼られているが、たとえば小林興起さんなどは、関東が
選挙区であり、あまり郵政の票は関係ない。そもそも通産省出身で、郵政省とは
現職時代、厳しい対立関係にさえあった人です。ですから、郵政族などという
ことはない。城内実さんにしても、郵政民営化法案に反対したのは中身をよく勉強
してしまったからだ、というわけです。

そもそも、民営化とは、ウォール街ビジネスにとって「金のなる木」である。国有企業
を売却すれば様々な仕事が生じてくる。そこに群がる人々(投資銀行、会計事務所、
コンサルタント)がいるというわけです。

発展途上国では民営化された公共セクターが欧米資本に買収され、利潤追求の道具と
なっている。ボリビアでは水道公社が民営化されべクテルが経営するようになり、料金
を大幅値上げした。暴動まで起きたわけです。

「官から民へ」といっても、「民」は国民の「民」でも、「民主主義」の「民」
でもない。民間会社や民間金融業者の「民」を意味しているのです。民営化とは
「公から私」へ、であって、「官から民へ」のすり替えをは、官尊民卑に反発する
世論の取り込みのためにやっているだけです。

■司法や医療もアメリカ型に

第4章では、司法、医療、教育にアメリカが要求をつきつけていることを取り上げています。

司法では、結局、日本をアメリカ並みの訴訟社会に変えろと言ってきているわけです。
裁判手続きの迅速化などを通じてです。そして、アメリカ法律事務所が日本人をやと
って、日本の訴訟市場でぼろもうけ、というわけです。ちなみにアメリカ自身は、国内
での過剰訴訟に嫌気が差して是正の方向に向かっているのですが、日本に対してはダブル
スタンダードなわけです。

医療では、アメリカの医療市場ではこれ以上儲けは望めない。アメリカの医療費は
世界一高い状態です。そこで、日本の医療市場に進出することで儲けようというわけです。
さすがに、オリックスの会長が、議長をつとめる規制改革会議が進めるのは問題がある
との批判もあって混合診療解禁などはいまのところ行われていませんが、公的医療費を
抑制することで、民間医療保険にビジネスチャンスをという改革を進めようとしています。
アメリカ型にすることは、何一つ良いことはない(アメリカのほうが平均寿命も短い)
のですが、強引に進めようとしています。

■対日圧力と日本からのお金流出

第5章では、アメリカの対日圧力の歴史を振り返っています。

アメリカは、日本のシステムを、「構造問題」として糾弾し、「是正」を求めてきました。
その始まりは、日米構造協議(父ブッシュ政権時代)のわけです。さらにさかのぼれば、
「日米円ドル委員会」がその走りだったそうです。

それは、今は「年次改革要望書」として、続いています。

また、日本の銀行を押さえ込むため、BIS規制(自己資本8%)を導入した。

とにかく、アメリカに都合が良いように、ルールを決めるという按配です。

また、バブルを急激に潰したのもアメリカの圧力があったといいます。世論の土地値
上がりへの反発とアメリカの圧力が「共闘」した形です。

第6章では、日米の「金融バトル」に触れています。

アメリカはアメリカで、借金と赤字でどうにもならないから、日本のお金を吸い上げて
生き延びようとする。

日本は、1980年代以来、アメリカ国債を必死で買い支えてきた。西ドイツは途中で離脱
しても日本は頑張ったわけです。

クリントン政権になると、円高攻勢で日本を締め上げます。為替差損は大量になります。

ただ、95年以降は、アメリカは政策を転換。日本からお金を吸い上げる構造に再び転換
します。貿易収支・経常収支は赤字でもその分日本からお金を集めればよいという按配です。

そして、それを背景に、1999年から2000年ころ、バブル景気を演出しました。その後
2001年に掛けて、バブルは崩壊した。アメリカの財政赤字は戦争もあって再び拡大し
ました。

日本政府は2003年から翌年に掛け、35兆円もの為替介入を行った。国家を挙げて、
アメリカの財政赤字を支えたのです。異常事態です。

債権国として当然なすべき円建てでの投資対象をつくることもせず、ひたすら、
ジャパン・マネーを米国債漬けにしてしまったのです。にっちもさっちも行かない
状態です。ドルが暴落すれば、日本人が被害を受けます。

そのうち、「円のドル化」がくる可能性もあると、吉川さんは言います。究極の
「マネー敗戦」(吉川さんの著書の題名でもある)です。日本はアメリカの属領
になりかねないのです。

■どう対抗すべきか?

第7章ではアメリカの戦略に対してどう対抗すべきかを考えます。

関岡さんは、経済財政諮問会議で事実上なにもかも決まってしまう現状を改め、国会
に議論の中心を戻すべきではないか、といいます。

また、関岡さんは、対米依存を低減しつつ、汎アジア共同体をつくっていくべきでは
ないか、といいます。中国、インド、イスラムの3大文明圏の調整役になればよいの
ではないか、というわけです。

また、ドル一辺倒を改め、ドル・ユーロに比肩するアジア通貨をつくっていくべき
ではないか、といいます。

吉川さんは、アジアに訴えるべき思想が必要ではないか、グローバリズムに対抗する
思想が必要ではないか、といいます。

関岡さんは、(良い意味での)集団主義がひとつの共有可能な価値観ではないか、
アングロサクソン的個人主義は世界でもむしろ例外ではないか、といいます。

■感想

どの章も読み応えがあり、現代日本の問題点を鋭く抉るものです。

結局アメリカのために、お金を献上し、結果、国内は経済が停滞する。全く、歯がゆい限りです。

そんな状況を打破せねばならないと思います。

1990年代以降は、とくにマスコミはアメリカ的なものが良いと持ち上げ(大昔は日本社会党
を持ち上げていたのを手のひらを返したように)、新進党など保守野党もそれに迎合して、
改革を叫び、右から自民党を改革路線に引きずり込んできました。

国民は、「改革」というだけで、何か、良いことのように刷り込まれてきた。反権力、
クリーンなものを求める世論が、改革を後押してきたと思います(かつてはこうした人々
は日本社会党を押し上げてきた)。「官から民へ」が受け入れられているように見えるの
もそのためです。

しかし、実際は、本書で述べているように「改革」は、アメリカの国益のためなのです
(それに、経団連も便乗している)。「消費者の利益」ということをアメリカは常套句
で日本に圧力を掛けてきたそうですが、だまされてはいけないのです。

このまま行けば、日本の景気回復は難しいとおもいます。それどころか、お金をアメリカ
にことごとく吸い取られてしまうでしょう。公共サービスも解体され、日本の庶民生活は
ガタガタにされていくことでしょう。

それらのことをきちんと広めていかねばならないと思います。この本は、一人でも多くの
日本国民に読んでいただきたいと心から思います。

さて、著者の一方である吉川さんは、本書の上梓を待たずに、2005年10月、永眠されました。
惜しい方をなくしたと思います。謹んでご冥福をお祈りします。