番外編

太平洋岸自転車道(鷲津〜伊良湖)   −その1−


 翌朝は、5時すぎに目を醒ました。
 サーファーたちの朝は早い。すでにみんな、ウェットスーツに着替えていて、ボードを抱えて、海に入っていく。

 こうやって、いい波を求めて、日本全国の海岸をクルマでめぐっているサーファーたちというのは、ある意味では純粋な旅人であると思う。けれども、彼らは決して、われわれのような、他のジャンルの旅人とは交流しようとしない。孤立主義なのである。どうやら、彼らは「世の中には2種類の人間がいる。波に乗るやつと乗らないやつだ。」と、考えているようだ。
 そして、彼らは波に乗らない人間、つまり、サーファーでない人間とは、決して交流しようとはしない。誇り高い、孤高の旅人たちであるといえよう。
 この日の波は、そんなに高くはなかった。サーファーたちはサンドバーのところに集まって、ボードの上に乗って漂流したまま、沖から高い波が来るのを待っている。なんだか、アザラシみたいだな、と思った。

 セブンイレブンに朝食を買いに行く。いつもの私の朝食は、カレーパンと飲み物だけなのだけど、この日は、おでん(たまご、厚揚げ、ソーセージ)とおにぎり2個にした。私にしては変わったメニューであるし、また、朝食にしては、ずいぶんと量が多い。サイクリングで1日中、からだを動かしていると、食事の嗜好が変わってしまうらしい。たっぷりと朝食をとり、テントを片付けて、ひと休みしてから、午前7時ごろ、出発した。


 潮見坂を登る。
 もう、30年も昔のことになるが、私は自転車で、この潮見坂をのぼったことがある。あのときは、国道1号線を西にむかって走っていた。現在の国道42号線の潮見坂は、かつての国道1号線なのである。

 30年という時間が、一気に短絡した。カーブのひとつひとつに、見覚えがあるような気がする。
 あれから、私は大学を卒業して、就職をして、結婚して、子どもたちができ、そして、その子どもたちも大人になりかけている。けれども、潮見坂はぜんぜん変わっていない。
 国道1号線の方は、ずいぶんと様変わりした。新道である潮見バイパスが完成し、潮見トンネルにより、坂の上まで一気に抜けるようになった。それにともなって、旧道の潮見坂は、国道42号線に格下げになってしまった。
 けれども、国道1号線の潮見バイパスは自動車専用道路だから、自転車および歩行者は通れない。だから、自転車の旅人は、いまもこうやって、潮見坂を登るしかないのである。自転車のギアを、前を38Tに、後ろを27Tにして、登っていく。

 ちかごろ、なんだか、どんどん若いころに戻っていくようである。遊びのスタイルが、若いころに似てきた。若い頃、私はこうして、ひとりで自転車に乗って旅をしていたのである。まさか、この年齢になって、また同じことをやるなんて、思いもしなかった。
 若い頃は、潮見坂を一気に駆け上がった記憶があるが、いまは息がきれる。たっぷり15分くらいかかって、やっと坂の上に出た。白須賀の交差点を右折すると、伊良湖岬まで49km、という案内標識があった。


潮見坂


 自転車は、意外とはやくすすむ。
 「亀は意外とはやく泳ぐ」という映画があったけど、自転車も意外とはやくすすむのである。
 伊良湖までの49キロメートルくらいであるが、自転車はだいたい4時間くらいで走ることができる。コースにもよるけれど、平均時速はだいたい12キロから15キロくらいというのが、経験的にいって、われわれ一般的な自転車乗りにおけるペースである。自転車に乗らない人からすると、意外とはやいと思われるのではないだろうか。

 もちろん、時速12キロから15キロというのは、私のような一般的な自転車乗りの場合であり、レースに出るような選手だと、まったく異なる。ツール・ド・フランスという世界最高峰の自転車ロードレースがあるが、そこに出る超一流選手たちは、平均時速50キロから60キロくらいでフランス国土を一周してしまう。決して平坦な道だけではない。かなりのアップダウンがあるにもかかわらず、そんな速度で、ぶっとんでいくである。

 競輪などでは、最高速度は時速70キロを超えるという。もちろん、そんなのはピストという特別な自転車で、平坦なオーバルコースを走る場合に限られるけれど。
 現在の私でも、がんばれば時速45キロくらいは出すことができる。けれど、そんな速度で長い距離を走ることはできないけど。ツーリング中の私は、ケガをしないように、平坦路では時速15キロから20キロ。下り坂でも、時速40キロくらいまでしか出さないようにしている。

リンク
亀は意外と速く泳ぐ


 小径車に乗ったサイクリストとすれ違う。おたがいに片手を上げて、軽く会釈しあった。
 いま、自転車乗りのあいだでは、小径車が流行っている。16インチとか20インチといった、小さなタイヤの自転車が主流になりつつあり、昔ながらの700C(27インチ)の自転車に乗っている私などは、急速に時代遅れになってしまった。
 いや、私が進歩していないのではない。私だって、ギア比を変更したり、コンポーネンツを交換したりして、それなりに進歩しているのである。けれども、世の中が勝手に新しいもの(小径車)をスタンダードにして、以前からのものに「時代遅れ」というステッカーを貼っていってしまうのである。

 タイヤの小さい小径車は、輪行のときに便利である。それで、私も欲しいなと、ずっと前から思ってはいるのだが。
 最近の小径車は、ずいぶんと進歩して、よくなったようだ。従来、小径車の大きな欠点であった路面の荒れを拾ってしまって、乗り心地が悪いうという問題は、サスペンションの普及が解決した。いまや入門車でもない限り、フロントおよびリアのサスペンションが付いているのは常識。それにより、タイヤが小さいことによる乗り心地の悪さは、ほぼ解消された。
 また、小径車には、ハンドルがふらつくという欠点もあったのだが、ホイールベースを長めにとり、かつキャスター角をねかせ気味にすることで、安定して走れるようになった。
 自転車の分野においても、技術の進歩と新素材の採用はすさまじく、あれほど使えなかった小径車が、急速に実用の域に達してきた感がある。そろそろ私も、ドロップハンドルの小径車を買ってみようかなと思う。




 高根小学校南という交差点を左に行こうと思っていたのだが、入りそびれてしまった。自転車道という標識が、まったくない。その先、伊古部東という交差点のところで、やっと渥美豊橋自転車道という案内標識を見つけ、入っていく。
 すると、なんと道が崩落して、通行止めであるという。
 しかも、いったい、いつから通行止めなのか。いつ解消する予定なのか。まったく書いていない。
 まあ、通れないんじゃ、仕方がない。国道42号線に戻る。少し走ったところで、自転車道を見つけたが、完全に草に埋もれていた。これじゃあ、通れるわけがないし、復旧するにも、かなりのコストがかかるだろう。ていうか、事実上、廃道状態である。


廃道状態となっていた自転車道
(豊橋市伊古部町)



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