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世界が終わる時、僕らはここにいた/LAST FEEL

written by せりざわ倫

避けようと思えば避けられた運命だったのかもしれない。と、未だに思う。
そのチャンスは幾らでもあった筈だ。
でも、結局の所、人々は自分たちの愚行を反省しきれなかった。
いつから地球はこんなに空気の薄い惑星になったのだろうか・・・・。


「早く宇宙船に乗らないと置いていかれるよ?」
麻美はぽかんと口をあけながら空を眺めている僕に話しかけた。
絹のような亜麻色の髪が、風に揺れている。
僕はそれに見とれていて、反応が遅くなってしまった。
「うん。もうちょっとだけ・・・・」
「もう!」
僕の素っ気無い返答に多少彼女は怒ったようだ。可愛らしい瞳が吊り上がる。
そんな彼女の表情を見ていると楽しい。ああ、生きている。と、そう思えるからだ。
「今がどんな状態なのかわかっているの?」
「うん・・・・、一応」
相変わらず態度を変えないでいる僕を見て、彼女は大きく肩をすくめた。
「もう、本当に呑気なんだから」
そして、一呼吸おいてから、呟く様に言った。
「ま、そんな所が好きなんだケド・・・・」
「ん?何か言った?」
「ぜ〜んぜん」
僕が聞き返すと、彼女は少し顔を赤めながら、うつむいてしまった。
その姿を見て、僕は思わず吹き出してしまった。
すると彼女の瞳が、再び吊り上がっていくのが見えた。
「じゃあ先に行ってるからね」と、麻美は少しきつめに僕に言い残し、この場から離 れていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで、僕は彼女をずっと見ていた。
そうして見送った後、僕は相変わらず、雲の無い、安っぽい銀細工のような色をし た空を仰いだ。

地球はもう死に絶えていた。
空は異様に曇り、海は濁り、平原は無残にはげ、森は枯れた。
人類が行なってきた、様々な環境破壊は、徐々に地球を蝕んでいたのだ。
それでも人々は、そのスピードを緩めることは無かった。
生物が絶滅し、緑が消え去って、初めて地球の事を救おうとした。
だが、もう既に手遅れだった。やがて人々の数も減り始めた時、ある1つの朗報が 人々を震撼させた。
地球と良く似た、生物が住める惑星を発見したのだ。
そして人類が出した結論がこの地球を捨ててその惑星へ移住するという、極めて薄 情なものだった。しかし、それ以外に方法が無いのもまた事実であった。
今日は、僅かに生き残った人類が宇宙船『メシア』に乗りこみ、地球から旅立つ日 であった。

僕はあまり気乗りしていなかった。
生まれ故郷を捨ててまで、こんなになった地球に何1つの謝罪もしないままで、どう して簡単に他の惑星に移住できるのだろうか?
どうして、地球を惜しむ人がいないのだろうか?人間は恐ろしい生き物だという事を 改めて僕は思った。
あ、麻美は除いておこう。
そういえば彼女と付き合ってもう2年か・・・・。長い様で短かったなあ。
彼女の自転車のチェーンが外れて、立ち往生していた所を、たまたま通りかかった 僕が直してあげたのが、2人の出逢いであった。
それからちょくちょくと会うようになり、色々話をするようになって、僕は彼女の事 を好きになっていた事に気付いた。
でも、僕には告白する勇気が無く、2人はただの友達で終わりかけていた。
ところがある日、いきなり彼女は僕に向かって「好きです」と告白したのだった。
呆気にとられていた僕の唇に彼女の唇が触れた。
まだ、空に青の残っていた日の事であった。

思えば麻美は不思議な少女だ。例えは悪いかもしれないが、古い洋館に住む幽 霊みたいだ。どこか幼くて、それでいて透き通っているような感じで。
掴み所が無いのだ。いつも、子供の様に無邪気で、それでも僕よりも大人びてい て、こんな僕なんかよりも、ずっとずっと優秀で、でも時には抜けていて・・・・。

僕はすっと立ちあがると宇宙船とは反対の方へ歩き始めた。
やがて、舗装された道路から外れて、色の薄い土を踏みしめている。
ここは元々、森だったのだろう。木々が揃って立ち枯れしていて、痛々しかった。
やがてだだっ広い空き地に辿り着いた。ここにはほんの僅かながら緑が残ってい た。僕はその緑の中へ寝転んだ。

このまま僕は一人でも地球に残ろう。その時僕は本気でそう思った。
これが僕がこの地球に出来る唯一の謝罪だから。
やがてそのまま眠り込んでしまった。

僕はけたたましい轟音で目が覚めた。見上げると宇宙船『メシア』が空をどんどん 翔け上がっていた。
飛行機雲のような煙が、この陳腐な空に、『メシア』の軌道を刻んでいる。
僕は、それが消えるまでの過程を、ほとんど瞬きもせずに眺めていた。
ああ、これで僕は地球に独りぼっちだ。
そう思うと、やけに清々しくなって、僕は再び目を閉じようとした。
「もう!やっぱりこんな所にいた!」
え?もう地球には誰もいないはずだ。そう思い、声のした方を振りかえると、信じら れない事に、そこには麻美が立っていた。相変わらず彼女の可愛らしい瞳がこちら を睨みつけている。
僕は、驚きと困惑の入り混じった声で彼女に尋ねた。
「ま、麻美?ど、どうしてここに?」
すると彼女は、さも当然の様に言った。
「あなたを置いて地球を去るわけにはいかないでしょ?」
「で、でも・・・」
「ほら、つべこべ言わない!」
「あ、う、うん」
彼女はまるで母親の様に僕を宥めた。
僕は今にも泣き出しそうになっていた。涙がどうにも止まりそうに無い。
気付くと僕は彼女を抱きしめていた。僕は思わず彼女がとても愛しくなった。抱きし められずにいられなかった。
「麻美・・・・!!」
「・・・・・・・・!!」
そして2人の唇はあの日のように再び触れ合った。






この壊れかけた地球はもう永くは無いだろう。
でも、それは仕方が無い。それが僕ら地球人への報いなのだから。
だから、せめて僕と麻美は地球の土に眠ろう。

世界が終わる時、僕らはここにいた。