MAKE A TALE
〜放課後夢幻ファイル〜
File 7
送られてきた日 = 7月3日
書いた人 = せりざわ倫
夕闇が段々と濃さを増してきて、辺り一面はすっかりと暗くなっていた。
犬神、九条、雫の3人は、帰りがあまり遅くにならないように、自然と急ぎ足になっ
ていた。と、急に生温い夜風が吹いてきた。
その時犬神は、初めて神楽と出会った時の事を思い出していた。
(そういえば、あの時もこんな風が吹いていたな……)
その時、犬神は体の何処かに、微かな違和感を覚えた。
「ちっ!」
犬神は、隣りにいる2人が、クエスチョンマークを浮かべた瞳で犬神を見ているの
に気が付くと、何でも無いような素振りをして表情を戻した。
そうしていると、雫が努めて明るくしながら口を開いた。
「こういうシチュエーションの場合、よくドラマなんかだと、変質者が襲ってくるパ
ターンですよね。キャ〜! なんて」
雫はちょっとした冗談のつもりで言ったが、今の状況下では逆効果である。
九条が、軽い咳払いをした後、雫をたしなめた。
「あのねえ……洒落になっていないからね」
「ご、ごめんなさい!」
雫は思わず顔を赤らめて下を向いてしまった。
辺りは、もう完全な夜になっていた。
「アイツらは無事だろうか……」
犬神はそう呟くと、星の無い夜空を見上げた。雲隠れの月がおぼろげな光を放ち
ながら、弱々しく夜空を照らしていた。
File 7 〜放課後夢幻ファイル〜
「……何でアンタがおるん?」
「お姫様を守るのは、王子様である俺の役目だろ?」
右京が横目で睨みつけると、桐原はひょうきんにおどけて見せた。
「王子様なんてキャラじゃねえだろ?」
永瀬が多少苦笑いで桐原を見た。
「ハハハハ、そうだな! いや、何! 部長に頼まれてさあ。俺も友人の事を思ってデ
ートをすっぽかして来たんだよ。だから冷たくしないでくれよ!」
「別に、アンタがいなくてもウチらは大丈夫だけど……」
「堅い事言うなよ! 俺とお前たちの仲じゃないか!」
「ハァ…………」
右京がため息をつくと同時に、電灯に明かりが点いた。それを合図に、次々と違う
電灯も明かりを灯し始めた。
「お! 綺麗なイルミネーションだねえ」
「何がイルミネーションだよ。ただの電灯じゃないか」
永瀬がそう突っ込むと、桐原は「こりゃまた失礼」と、額をぴしゃりと打った。
「アハハハハハ、何やそれ?」
右京は思わず吹き出してしまった。と、その時だった。以前ラーメン屋で感じたよう
な、悪寒みたいなものを右京は僅かに感じた。
「よお、桐原」
そう呼びかけられて、3人は思わず振りかえった。
File 7 〜放課後夢幻ファイル〜
犬神は鏡の前に立ち、そこに映る自分を見ていた。
鏡の中の自分も、こちらの目を見ている。
「……俺が気付かないかと思ったのか?」
犬神は、鏡の中の自分に問い掛けた。しかし、何も答えは返って来ない。
鏡に映る自分は、険しい表情をしていた。
「あの夜から、妙な違和感を感じていた。お前の仕業だろう」
しかし、返ってくるのは重い沈黙ばかりであった。
「何とか言ってみろ!」
今の犬神は、はたから見れば、奇行にしか見えないだろう。しかし、彼は諦めない
で必死に鏡の中の自分に問い掛けた。
…………その時だった。
「………お前が欲しいんだよ」
と、鏡の中の自分が、嫌な笑みを浮かべた。
「何者だ」
極めて冷静に、犬神は鏡に映る自分の姿をした何者かに問い詰めた。
すると、そいつは鏡に丁度手をつくような態勢を取った。すると、まるで水から手を
出した様に、鏡の中から手が出てきて、犬神の首を絞めた。
「…………!!」
犬神が気が付いたときには、体が宙に浮かび上がっていた。
「ううっ、くそお、ぐっ!!」
その、あまりの力に上手く抵抗が出来ず、犬神はされるがままになった。
「くぅ………………」
この日の夜、雫は妙な胸騒ぎがしていた。
その為、雫は自分の部屋に入ると、すぐに九条の携帯に電話をかけていた。
「犬神さんの様子。何か変でしたね」
「ええ。何かあったのかしら?」
「やっぱり、神楽さんのせいですかね?」
「それは……そう簡単に断定できないでしょうね」
「私、神楽さんに会ったことがあるんです。『たねいち』で」
「それでどうだったの?」
「怖かったです。でも、何て言うんでしょう? “殺される!”という感じじゃあない
んです。鬼気せまる感じ、と言ったらいいんでしょうか? 何かを探している様にも見
えました」
「そう…………」
「私、何となくですけど、神楽さんって、そんな悪い人じゃないと思うんです」
「ふうん……。あれ? 誰か来たみたい。こんな時間に誰かしら? ちょっと、ごめん
ね。また後でかけ直して」
「はい、分かりました」
「それじゃあ。プツッ、ツーツーツー」
「…………本当に誰だろう?」
File 7 〜放課後夢幻ファイル〜
3人が振りかえると、何時の間にかそこには神楽隆が立っていた。
「か、神楽?」
桐原は、しどろもどろしながら答えた。神楽は、そんな桐原の肩に手を乗っけた。
右京と永瀬は身構えながら、相手の出方を伺った。
それを見て取ると、神楽は肩をすくめた。
「フン、そんなに怖い顔をするな。別にお前等を獲って食おうなどと考えているわけ
じゃない」
そう言うと、神楽は首を鳴らした。
「俺は理由も無く暴力を振るうほど愚かではない。一先ず安心しろ。……と言っても
無理か」
そう言うと、神楽は桐原に顔を近づけた。桐原は神楽と目を逸らさない。
「何をしようとしているんだ?」
「何、大した事じゃない」
神楽は一瞬の間を置いてから、再び口を開いた。
「二、三。聞きたい事がある。犬神正登についてだ」
「ど、どうせお前は俺の考えていることがわかるんだろ!?」
小刻みに震えながら桐原は言った。すると神楽は、ハア? という顔になった。
「……? この期に及んでお前は何を言うんだ?」
「え? お前、サトリじゃないのか?」
「サトリ? 何だそれは? サトラレなら知っているがな」
「で、でも、部長に“お前の考えていることは俺にはわかる”とか言ったんだろ?」
「それは洞察力の問題だろ。下らないことを言っていると首を折るぞ」
「ちょ、ちょっと待て!」
桐原は首をちぎれんばかりに振った。
「じゃあ、お前には何が憑いているというんだ?」
桐原のその問いに、神楽はあえて答えようとはしなかった。
「…………それじゃあ、訊くぞ。いいな?」
桐原はごくりと唾を飲んだ。
「お前も気付いているはずだ。奴には“憑いてる”だろ?」
「!!」
桐原はあまりの驚きに、思わず咳き込んでしまった。
「お前、何でそれを知っているんだ?」
「やはりな……お前なら気付くと思っていた」
その時、右京がつと口を挟んだ。
「ちょ、ちょっと待って。何でコイツがそんなん分かるん?」
「俺は、昔から強い霊感を持っててな、そういうのが分かるんだよ」
桐原は、優しく説き伏せる様に右京に言った。
その会話が終わるのを見届けてから、神楽は続けた。
「さあ、次だ。ここ最近、奴は何かおかしい行動を取っていないか?」
「それは無い。何時も一緒にいるわけじゃないから、よくは知らないケド」
「そうか……。最後に、奴に憑いてるものに何時気付いた?」
「あの夜の日からだ」
桐原がそう言うと、神楽は何か考えこんだ。桐原は、普段は見せないくらいに真面
目な顔をして、神楽に言った。
「それを聞いて、どうするんだ? 部長に、犬神に何かあるのか?」
「……呼んでいる。奴に憑いているものが呼んでいるのさ」
神楽はそう言うと、うっすらと笑みさえも浮かべていた。右京と永瀬は、そんな神楽
に、恐怖心を越えて、何か得体の知れないものを感じた。そして、それは桐原も一
緒であった。
「俺の死神をな」
そう言った直後、神楽の後ろに、妙にぼやけた黒い何かが徐々に浮かび上がって
きた。やがて、それが形を作ると、それは正に“死神”であった。
「そいつにコイツを逢わせれば、俺は自由になれる」
神楽はそれだけ言ってから桐原の肩から手を離すと、そのまま踵を返して何処か
へ行ってしまった。
「お前は一体、何をするつもりなんだ!?」
しかし、神楽の姿は、もはや闇の中に消えてしまっていた。
桐原は、あまりのもどかしさに、頭をかきむしった。
「神楽を知ってるん?」
右京はふと疑問に浮かんだ事を、桐原に訊ねた。すると、桐原はうなじの辺りをぼ
りぼりと掻きながら答えた。
「昔、ちょっとな……」
桐原は珍しくシリアスな感じで、遠い目をした。まるで、その先にある何かを、必死
に見据えてやろうとしているかのように。
ふと鴉が鳴き始めた。
その鳴き声はまるで、黄泉の国へ誘おうとしているかのようだった。
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