ほのぼのしていて、ちょっぴり悲しい
天使の卵のお部屋

              



2002年3月6日(4週5日)

 月のものが遅れている。もう6日も…。もしかして、もしや?でも、先月子作り開始したばかりなのに、もう?!もし本当にそうなら モルディブベイビーだあ〜!まあいくら考えていても何もわからないので、検査薬をやってみることにした。一昨年プーケットに行く前も、 生まれて初めて1週間ほど遅れて検査したことがある。その時はお恥かしながら、どうやら旅行を楽しみにしすぎたあまり遅れたみたい。 その時の残りの1本でやってみることにした。2年近く前のだけど大丈夫?でも有効期限まで、まだ2ヶ月あるしやってみよう。
 ドキドキの瞬間…!クリポンと2人で検査薬を見つめながら1分間待つ…。でも何も変わらない。終了マークさえ出ないぞ。やっぱり古かったのか?説明書を見ずに焦ってやってたけど、よく読んでみたら持ち方が間違っていた…。もう1回挑戦だ!えい!
 す、すると…!15秒くらいで、もううっすらと陽性の青が出てきた!終了マークが出る頃には、くっきりと青い線が出てたのだった。うお〜!このお腹の中に赤ちゃんがいるの?!信じられなーい! クリポンが「ちょっと待ってて」と言うから何かと思ったら、デジカメを持って戻ってきた。「記念に写真を撮るんだ!」と言って青い線が出た検査薬をパチリ。2人でトイレの中で堅い握手を交わしたのであった。


                  


2002年3月7日(4週6日)

 まずは靴屋に平らな靴を買いに行った。りっちゃんは背が低いからってこともあるけど、実はヒールが10cm以下の靴を持ってないのだ〜。中学生以来、初めてスニーカーを買ってきたよ。
 でもでも、あの検査薬は古かったから間違ってる可能性も!と言うことでクリポンと薬局へ行った。昨日とは違う種類の、高いやつを購入。
 また昨日と同じシチュエーションで、検査薬を見つめるクリポンとりっちゃん。今度は鮮やかな赤紫色が出てきた。これで、ほぼ100%確実だね!クリポンはまたしてもデジカメを持ってきて記念写真を撮っていた。検査薬の箱には2本入ってたので、今度はクリポンが試してみたよ。でも、やっぱりクリポンのお腹には赤ちゃんは入ってないようだった。(ヘンな夫婦?)
 早速りっちゃんとクリポンの両親に電話で報告!みんな大喜びしてくれた。りっちゃんのお父さんとお母さんにとっては、もうすぐりっちゃんのお兄ちゃんに赤ちゃんが生まれるのでそっちが初孫になるけど、今年は孫ラッシュだ!と言って嬉しい悲鳴を上げてたよ。
 りっちゃんは、お酒はとても弱いけど、仕事を辞めてからは毎晩のように赤ワインを飲んでいる。それを1年以上続けてたので、習慣になっていた。母体が酔っ払うと赤ちゃんも酔っ払うので良くないんだって。あのグラスが最後の1杯だったのね…、と思うとなんかアルコール断ちが辛い感じがしたので「最後の1杯の儀式」をすることにした。小さなグラスに半分だけ注いで、お腹の赤ちゃんに「これを飲んだら、君が出てくるまでは一切お酒は飲まないからね」と話しかけながら味わってみたよ。なんか私ってばアル中みたい?


                  


2002年3月12日(5週4日)

 りっちゃんは産婦人科に行ったことがない。今回、生まれて初めて行くのだぁ。噂を聞くとやっぱり、とってもイヤなものらしい。え〜ん、ヤダなぁ…。もちろん、どこに産婦人科があるのかも、どこが評判がいいのかも全くわからない。妊娠が判明してから今日までインターネットで毎日調べまくった。
 そこでたどり着いた1つの病院。うちから歩いて10分位で、設備の整った大きい評判のいい病院を発見。とりあえず場所と雰囲気を見に、クリポンと下見に出かけたよ。家から近いし、思ってたよりずっと立派で綺麗だった。入った所でパンフレットをもらって、おうちで研究してみると、お値段も結構お手頃でいいみたい。クリポン希望の立会い分娩もできるみたいだし、食事もおいしいらしい。よし、ここに決定だ〜!


                  


2002年3月14日(5週6日)

 今日は、友達2人と一緒に、会社時代に仲の良かった友達の家へ先月生まれたばかりの赤ちゃんを見に行った。その友達は、りっちゃん と同い年なのに4児の母で、前回は双子も生んでいる大先輩だ。りっちゃんは慣れない手つきで恐々と赤ちゃんを抱っこしてみる。なんて、 ちっちゃいの〜っ!こんなに小さいのに、指には3mmくらいの爪がちゃんと付いてるよ〜。この子が先月までは、友達のお腹に入ってい たのかと思うと、とっても不思議な感じ…。私のお腹でも、こんな子が育っていくのかと思ったら、いてもたってもいられないほど不思議 な気分になっちゃった。
 みんなに「多分妊婦だよ宣言」をしたら、とっても喜んでくれて「おめでとう!」って言ってくれた。でも、りっちゃんはまだ全然実感が沸かないの。


                  


2002年3月15日(6週0日)

 今日はついに産婦人科へ行くのだ〜。初めて行くドキドキと正式な結果を聞くドキドキで、りっちゃんの心臓はバクバクいってるよ。内 診は噂に違わずイヤなものだった。先生とデスクの方へ戻ると「ご妊娠ですね。今2ヶ月です。予定日は11月8日ですよ」と言われた。 やっぱり、このお腹には赤ちゃんがいるんだぁ〜。先生が「まだ小さいですけど、この黒い丸の部分が妊娠してる所です」と言って写真を 見せてくれた。この小さい黒丸が私の赤ちゃん…。でもちょっとブラックホールみたい。「次は2〜3週後に来てください」と言われて席 を立ったけど、写真が欲しくて看護婦さんの方をちらちら見ると、先生に「もう行っていいですよ」って言われちゃった。「写真は貰えな いんですか?」と聞くと、先生は「え?あんなのが欲しいの?」なんて言うんだよー。めげずにハッキリと「はい!」と言ったら「はいど うぞ」とくれたのだ。黒丸だって、私の赤ちゃんなんだぞ。記念に欲しいもん。この件もあって、この先生は印象がイマイチ。この病院は 毎日先生が違うので、もうこの先生の時は来ないぞ、と心に誓う。
 クリポンは「やっぱり、おめでただったよ」とかいう言葉よりも、写真に感動していた。やっぱり無理やり貰ってきて良かった〜。家に帰っても写真に見入るクリポン。額縁に入れて飾る?なんて言ってるし。ただの黒丸なのに…。でも「これが赤ちゃんかぁ。虫みたい…」と呟いてたけど。でもまだ6.9mmだから虫よりも小さいのだ。
 その晩、うちに遊びに来たクリポンの友達に写真を見せて、いつまでも「これが赤ちゃんなんだよー」と説明するクリポン。そのうち無言になって、じーっと写真を見つめてる。その友達に「これは生まれてきたら大変な子煩悩になっちゃいますよ」って今から言われちゃった。
 写真は今、クリポンのパソコンデスクにマグネットでとめてある。


                  


2002年3月21日(6週6日)

 最近おならが臭い。異常に臭い。クリポンにも「そんな有毒ガスが体内に充満してたら、お腹の子にも悪いから病院に行け」とまで言われちゃったよ…。くすん。最初は「隣の部屋でしろ命令」が下ったけど全く効果ナシで、次は「廊下でして1分間戻ってくるな命令」が出たけどやっぱり臭いので、結局クリポンがしばらく外に行く、というので落ちついた。レンタルビデオの映画を2人で見てる時は、なかなか先に進まないので困るんだけどさ。妊婦は便秘になるって本に書いてあったけど、早くもその症状が出たのかなぁ?生まれるまでこれが続いたら、離婚問題に発展してしまうかもしれない…。


                  


2002年3月23日(7週1日)

 3日間続いた臭いおならも、プルーンを大量に食べたおかげで昨日問題は解消された。あー良かった。
 今日は東子が彼氏と一緒にうちに来る予定になっている。画家の彼が書いてくれた、ふすま1個分位ありそうなでっか い絵を持ってきてくれるの。大迫力の絵をリビングに飾って、クリポンと東子と彼の3大のんべえ達の飲み会が早くもダイニングで 始まる。りっちゃんはグレープジュースをワイングラスに注いで赤ワインを飲んでるフリ♪その後も、その飲み会は地元の店に移動して 夜遅くまで続いたのであった。りっちゃんはオレンジジュースでファジーネーブルを飲んでるフリ♪まだ全然お腹は出てないから、お酒を 飲んでる様に見えるよね。


                  


2002年3月25日(7週3日)

 妊婦は散歩がいいらしい。1日2時間位歩くといいみたい。でも2時間って結構あるよねぇ。普段ほとんど散歩なんてしないりっちゃん には1時間だって大変だ。でもお腹の赤ちゃんの為にクリポンと一緒にお散歩に行くことにした。ちょうど今の時期、桜が満開だし近くに あるでっかい公園へ行こう♪
 公園には満開の桜がたくさんあった。手をつないで、その中を歩いていく。噴水にはカモのカップルが仲良く泳いでいた。「かわいいね」 と見ていると、いきなりクチバシを水の中に突っ込んだと思ったら、泳いでいたでっかい金魚みたいな魚を食べていた…。げげっ。気を取り直して、 今度は山道にある木の階段を上ってみよう。最後の方は足がもう上がらないほど、ゼイゼイしちゃったのだぁ。展望台でたくさんの桜 を見物して下りてきたよ。
 結局2時間近くお散歩してきたものの、夜には筋肉痛で苦しんでいた…。これから先、お散歩は続くのか?!


                  


2002年3月28日(7週6日)

 明日から3ヶ月目に突入だと言うのに、りっちゃんはつわりが全くない。そんな人っているの?生理がない以外全くいつもと変わらないので、来週2回目の検診に行った時に「あれ?赤ちゃん、いなくなっちゃいましたねぇ」なんて先生に言われたらどうしよう!なんてことを真剣に悩んでいるほどだ。妊婦はご飯が炊ける匂いを嗅ぐと気分が悪くなる、と聞いたので炊きたてのご飯をクンクン嗅いでみる。ん〜、なんて幸せな匂い…。あ、これじゃダメだ。妊婦失格?いやいや、りっちゃんはきっと、とてつもなくラッキーに違いない。
 でも1つだけ何かあるとしたら、ものすご〜く眠い。前から1年中眠い人だったけど、心なしか最近は特に眠い気がする。今日は起きるとクリポンが洗濯を干していた。なんて優しいの、と思ってると「お腹すいた?朝ご飯作って持ってくから待ってて」だって。朝食にはミキサーで作ったクリポンお手製の、バナナ・イチゴ・ヨーグルト入りミルクセーキもついていた。もう感動でウルウルだよん。
 食後は腹ごなしに川の方まで歩いて散歩した。鳥さんにあげよう、と言って途中のコンビニでバターロールを買った。川でカモが集団で泳いでたので嬉しくクリポンがパンを投げたら、石でもぶつけられると思ったのか、いっせいに飛んでってしまった…。クリポン、しょんぼり。今日は1時間半ほど、お散歩してきたけど筋肉痛は大丈夫そう。妊婦は筋肉痛になるような、ハードなお散歩はしちゃいけないのね。


                  


2002年4月1日(8週3日)

 夜、お母さんから「調子はどう?」という電話があって、ついつい長話をしていた。途中でおトイレに行きたくなったのでこっそりした後、拭いたトイレットペーパーを見ると心なしかほんのりピンク色っぽいような気がする…。お母さんにその旨を告げると心配して病院に聞いてみれば?と言われたけど、普通だったら見逃しちゃう位だから大丈夫だよ、と言っていた。さらにその後トイレに行くと、やっぱりちょっとかすかにピンクみたい。クリポンも病院に電話してみろ!と言ってたけど私は大丈夫だよ〜、と楽観視していた。でも一応今日の夜のお散歩はやめておこう。ソファーの上で安静にして、夜ご飯もクリポンが作って運んできてくれた。
 夜中の1時。そろそろ寝ようかとトイレに行ってみると、拭いた紙に多めの赤い血がついた!ショックで思わずトイレの中で悲鳴を上げると、クリポンが飛んできた。思ってもない展開に頭が動転して、どうしていいかわからない…!とりあえず病院に電話…。泣きそうな声で看護婦さんに質問すると「妊娠初期の出血は頻繁にあることなので心配しなくていいです」だって。本当??出血量も色も聞かれないのに大丈夫?おおげさに「かなり出血してるんです!」と言ったけど「心配しないで下さい」と言われただけで、明日朝一で来るようにも安静にするようにも何も指示はなかった。不安がいまいち消えないまま、まあプロが言うならそうなんだろう…、と信じて眠ることにした。とりあえず明日の朝は病院に行こう。


                  


2002年4月2日(8週4日)

 目が覚めた。昨日の夜心配で明け方4時頃まで眠れなかったので少し寝坊しちゃった。9時の診察開始時間には間に合わなそう。眠い目 をこすりながらトイレへ。拭いた紙を見て、りっちゃんは絶望した…。生理の2日目のような出血だった。頭の中で「やっぱり赤ちゃんは どっかに行っちゃってたんだ。だから通常の生理が始まったんだ」と思った。涙を溜めた目で、寝ているクリポンの所に報告に行くとクリ ポンは「病院で診てもらうまでわからないよ!」と言ってくれた。

 準備をして9時半に病院へ。受付で出血していることを告げると、早めに診察できるように手配してくれるとのことだった。待合室でク リポンと待っていたこの時間は、不安と恐怖でいっぱいだった。しばらくして名前が呼ばれる。クリポンがギュっと手を握って「頑張って」 と言ってくれた。
 診察室へ入り、先生に状況を伝える。早速内診だ。横にあるモニターを見ると、この前より少し大きい黒丸が見える。あ、 赤ちゃんがまだいる!いなくなってなかったんだ!と、ちょっと気持ちが明るくなる。でも今回の診察では、赤ちゃんの形が見えるハズだ と期待してたのにやっぱり黒丸だ…。内診が終わると、赤ちゃんが見えた安心と、まだ形になってない不安を抱えて先生の待つデスクへ…。 「残念ですが赤ちゃんが育ってないようですね…」と先生が言った。え?どういうこと?それって、もうダメってこと?頭で考えると同時に口からも同じ質 問が出ていた。先生は「残念ですが…」と言った。一気に先生の顔が霞んで見えた。ぽろぽろと流れ落ちる涙をハンカチで押さえているり っちゃんの横で、先生の声が聞こえる。「赤ちゃんが育っていなかったので、体が赤ちゃんを排出する準備を始めたんですよ。このまま放っ ておくと大出血の可能性がありますから、子宮内を綺麗にする手術を今日中にすることをお薦めします。」昨日までは元気に育っていると 思っていた赤ちゃんが、今日はもうりっちゃんのお腹から取り去られる。なんか何を言われているのか、よくわからなかった。横で先生の 「10人に1人の人に、自然に起こることなんですよ」という声が聞こえるけど、心の中では「なんで私に?!」と叫んでいた。先生に 「ご主人に報告して、手術の件に同意されたらまた戻ってきてください」と言われて診察室を出た。
 ドアを出るとソファーに座っているクリポンが、こっちを見た。ハンカチで、流れる涙を押さえるりっちゃんを見てクリポンはもう答えがわかっている。クリポンの所まで歩いて行き、前に立つと一言「ダ…メ…だった…」と言うことしかできなかった。りっちゃんの肩を強く抱きしめて慰めてくれるクリポン。口に出したことによって少し実感が沸いてきたりっちゃんは、周りにいるたくさんの妊婦さん達の目も気にせず、しゃくりあげながら泣いた。
 30分ほどで少し冷静を取り戻したりっちゃんは、クリポンに状況を説明して手術のことを話した。手術を受けることを決めて、2人の今回の流産に関する疑問点や、手術の質問を紙に箇条書きにしてから再度診察室へ入った。今度はクリポンも一緒に。先生の十分な説明を受けてから、すぐに手術することになった。

 待合室で待った後、看護婦さんに呼ばれて質問に答える。アレルギーの出る薬はないか、血が固まりにくい等の問題はないか、今日食べたものなど(食事をしていると、すぐ手術はできないらしい。今日はお茶2口とイチゴ1個だけだったのでOK)。りっちゃんと、クリポンの署名と拇印(印鑑を持っていなかったので)を書類にして準備完了。その後、心電図をとった後、上の階の病室へ案内された。手術を受ける病院着に着替えて、お化粧を水で落とし、おトイレを済ませて待つように指示を受けた。りっちゃんは、もう流産が始まっていて子宮口が開いているから、子宮口を開く処置をしないで手術を始められる為、通常の手術よりいいらしい。病室でクリポンと待っている30分ほどの間、悲しいのだけどやっぱりあまり実感が沸かなくて、りっちゃんは平静を装っていた。しばらくして部屋の電話が鳴ったので出ると、2階のエレベーター前の椅子で待つように指示があった。
 クリポンと部屋を出てエレベーター前に行ったけど椅子がない。この時、気が動転していて思考能力があまり働いていなかったのだと思うけど、りっちゃんは4階にいた。そう言えば2階って言ってたかな?と、ぼーと考えていると近くにいたお掃除のお姉さんに「どうしたの?」と声をかけられた。「ひょっとして2階じゃないかしら?これから何か処置を受けられるんでしょ?」と言われて、その「処置」という言葉を聞いた瞬間「は…い」と返事をしたと同時に、せきを切ったように涙が目から溢れ出した。止めたくても止められない。そのまま掃除のお姉さんは一緒にエレベーターに乗ってくれて「たくさんの人が同じことを経験しているのよ。あなただけじゃないのだから頑張って。」と優しく慰めてくれて心がだいぶ休まった気がする。お姉さん、ありがとう。2階につくと、すぐそこに看護婦さんが待っていてくれた。クリポンはこれから先には行けないので、お部屋で待っていることになる。クリポンとバイバイをして、涙を拭きながら看護婦さんにも慰められて手術室へと向かう。
 手術台に横になると左腕に血圧測定の機械が付けられ、右腕に点滴の針がチクっと刺された。右手の中指に何かを測定するクリップを付けられて、目隠しをされた。酸素吸入を口に当てられると先生が部屋に入ってきて「今回の手術を担当する○○です」という挨拶があった。鼻の下がかゆいけど酸素吸入が邪魔でかけないな、どうしよう、などと考えている横で看護婦さんが「これから点滴に麻酔を注入します」という声が聞こえた。今回は全身麻酔だけど、麻酔が効かなくて痛かったらどうしよう、鼻の下をかいてもいいかなぁ、なんて考えているうちに多分1分もしないうちにりっちゃんは眠りについていた。

 ………何かの音で目が覚める。でも目を開けようとするけど、開けても瞼がすぐ落ちてくるから目を開けていられない。一瞬クリポンの姿が見 えて安心してまた目を閉じる。
 それから少しして、また目が覚めた。怖い夢を見ていた。目が覚めて本当に嬉しかった。でも目はまだどん なに開けようとしても、黒目が上に行ってしまって焦点が定まってくれない。クリポンに「悪夢を見てたよ…。目が覚めて良かった…」と 呟いた。クリポンが「どんな夢?」と聞くと、りっちゃんは「赤ちゃんを失う夢…」と答えていた。以後はりっちゃんは覚えていないのだけど、クリポンが後で教えてくれた話である。クリポンは、りっちゃんがどこにいるのかも分かっていないことにショックを受けて、真実を話すべきか迷った挙句「それは夢じゃないんだよ」と言った。りっちゃんは現実を受け入れられず、急に大粒の涙を流しながら呼吸困難のようになってしまったそうだ。その後、痙攣のように震え出して、どんなに押さえても震えは止まらずに無言のまま涙を流していたらしい。りっちゃんは悪夢から目覚めて本当に嬉しかったことは覚えているが(実際は夢ではないのだけど)、その後1時間ほどのことはほとんど覚えていない。頭がはっきりしてきて現実が把握できてきた頃、看護婦さんが入ってきて出血を止めていたガーゼを抜きに来てくれた。しばらくしたら先生が来る旨を告げて部屋を出ていった。  先生が来た時には頭はハッキリしていたけど、でもまだ別の世界にいる気分だった。一通りの説明を受けた後、歩けるようになったらいつでも帰って良いと言われた。さらに30分ほどして、足元がまだ少しフラフラしていたけど、少しでも早くこの悪夢の場所からおうちへ帰りたくてクリポンに頼んで病院を出た。


                  


手術後1週間

 おうちで、どこか遠くを見つめながらひたすらりっちゃんは泣いていた。どうしていいのか全く分からな かった。短い期間ではあったけど、行動の全てが赤ちゃんの為になっていたりっちゃんは、何かとてつもな く大きな目標地点を失って、まるで360度見渡しても何もない道に放り出されてどっちへ進めば良いのか も分からないという状態だった。何かを考えようとすると、心が空洞になっていることだけがはっきりと分 かり、とてつもない喪失感に襲われる。助けて、心が苦しいよ…。何も考えることができない…。
 目覚めた時にこれは夢に違いないと逃避して、またショックを受けるかと思うと夜は怖くて眠れなかった。や っと空が明るくなってきた頃、限界になって眠りにつく。目が覚めると毎日のように「赤ちゃんを失ったのは夢の中の出来事だったのでは ?」と自分に問いかけていた。やはり現実のことだと分かると、 起きれば辛くて泣き通しになるのが分かってい るから、無理やり目をつぶって苦痛から逃れようと、それ以上眠れないという限界まで寝ていた。クリポン は私が精神病院へ入ることのないように祈りながら、3食の食事を作って私に食べさせてくれていた。


                  


手術から1ヵ月後

 眠るのが怖くて迎えたある明け方、霧がすぅ〜っと晴れるようにりっちゃんは何かを悟った。その「何 か」は具体的な物ではないけど、漠然と「このままではいけない。前に進まなくては。少し待てば赤ちゃん は戻ってくる」という事だった。カーテンの隙間から明るみ始める空を感じながら、ある瞬間に突然わかっ たことだった。それからは、りっちゃんは泣くことをやめた。次にやってくる赤ちゃんの為に前向きな考え 方をするようになった。そのお陰で、短期間で飛躍的に元気になったよ。
 先生に3回生理を見たら子作り再開OKと言われた。体のことも考えて少しだけ余裕を持って9月から子作 り再開することにクリポンと決定した。これから、やってくる子の為に最良の準備を整えて迎えてあげた い。今回のことは考えてもいなかったことだったけど、自分も精神的に成長したし、これからやってくる我 子をより深く愛する確信を与えてくれたのだと思っている。


                  


おまけのお話

その1

 りっちゃんの妊娠にクリポンのお母さんは本当に喜んでくれた。信仰深いお母さんは毎日、教会でも家で も神様にお祈りしてくださった。りっちゃんが流産する1週間前、いつものようにクリポンのお母さんは、 家に置いてある神様の像に向かって「りっちゃんが元気な子を授かりますように…」とお祈りしていた。す ると、どうしたことか誰も触っていないのにその像が床に落ちたのだ。不思議に思いつつも元の場所に戻し 再び同じ様にお祈りすると、またしても像は床に落ちた。不安に思ったクリポンのお母さんは、すぐにクリ ポンに電話をした。もちろんその時は元気に育っていると思っていたので「順調だよ」と答えたクリポン。 でもりっちゃんが変に心配するといけないので、その話は秘密にしていた。でもその時、赤ちゃんはすでに 育っていなかったはずなので、神様は熱心に祈っているお母さんに少し早めに知らせてくださったに違いな い。


その2

 りっちゃんは、どちらかと言うと女の子が欲しいなぁ、と思っていた。 クリポンのお母さんも、クリポンのおばあちゃんも女の子が欲しかっ た。みんな神様に「元気な女の子を授かりますように…」って祈ってたから、りっちゃんのお腹の中にいた 男の子は「あれ?余計なもの持って来ちゃった!」とあわてて、天国におちんちんを置きに戻ったのだと思っ ている。次は「男の子でも女の子でもいいので、元気な子を授かりますように」ってお祈りするから、もし おちんちんを天国に置いてくるのを忘れちゃっても、もう置きに戻らなくていいからね。クリポンとりっちゃん、 2人で待ってるよ〜。


そして、おちんちんを置いてくるのを忘れたユズポンがやってきたのでした(*^-^*)




この妊婦日記は、3月28日分まではリアルタイムで書いたものです。
4月1日と2日は2ヵ月後に、「手術後1週間」と「手術から1ヵ月後」は4ヵ月後に、
「おまけの話」は6ヵ月後に書いたものです。



                  



さいごに

りっちゃんは流産を経験した人の中では、一番ショックの少ないパターンだったのだと思います。
世の中には、赤ちゃんがもっと大きく育ってから流産・死産された方や、
長い不妊治療の末にやっと妊娠されたのに流産された方など、りっちゃんよりもずっとずっと
辛い経験をされた方がたくさんいるのだと思うと、心が締め付けられる思いです。
そのような方達の辛さを和らげる力は全くないと思いますが、せめて、りっちゃんと同じような
状況で流産された方達が、これを読んで少しでも元気が戻ってくればいいな、と願っています。



妊婦日記のTOPへ