豪首相、アボリジニに謝罪

豪首相 アボリジニ隔離謝罪

【シンガポール=藤本欣也】オーストラリアのラッド首相(写真APTN)は13日、首都キャンベラの下院で、過去の政権が先住民アボリジニに対して行った隔離政策について、「誇りある人々と文化が受けた侮辱を申し訳なく思う」などと公式に謝罪した。同国の首相が、アボリジニへの政策で謝罪したのは初めて。首相が表明した謝罪文書は同日、下院に動議として提出され、全会一致で採択された。

213167分配信 産経新聞)

 

白人からアボリジニ(先住民)と呼ばれる人々は、白人がオーストラリアと呼ぶ大陸で、5万年以上前から狩猟採集生活を続けてきました。農業を知らず、金属を知らず、文字を知らず、地面に残る動物のかすかな足跡を追い、石器で獲物を仕留め、何百種類もの動植物の効用を語り伝えてきました。

 

彼らの土地に、産業革命期の英国人がやってきて、ここは自分たちが発見したのだ、と宣言し、南東部の豊かな土地を柵で囲い、アボリジニを西北部の荒野へ追い立てました。オーストラリアは当初、英国の流刑植民地だったため、初期の入植者には犯罪者が多く、カンガルー狩りと並ぶスポーツとして、「アボリジニ狩り」も行われました。

 

アメリカ先住民(インディアン)が、白人に激しく抵抗したのとは対照的に、彼らはただ天災のようにふりかかった不幸を嘆き、死んでいくのみでした。白人が持ち込んだ伝染病と環境の変化で、アボリジニの90%が死滅します。

 

また、入植当初の白人は男ばかりだったので、アボリジニの女性を「現地妻」、もしくは「性奴隷」とする者も多く、大量の混血児(Half-Caste)が生まれました。彼らは父親から捨てられ、母方のアボリジニ社会で育てられました。

 

1910年代、オーストラリア政府は、白人の血を引く混血児が、先住民の野蛮な習慣に染まらないように隔離し、白人社会で養育すべきだ、と決定。これにはキリスト教会も協力します。「保護」という名の混血児の組織的拉致は、1970年まで続きました。母親と生き別れになり、伝統文化も言語も失い、根無し草の「黒い文明人」として生きることを余儀なくされた「失われた世代Lost Generation」は、10万人に達します。

 

 

 

オーストラリア映画『裸足の1500マイル』(Rabbit-proof Fence)http://www.gaga.ne.jp/hadashi/story.html

は、1930年代に拉致された3姉妹が体験した実話を映像化したものです。10歳の長女が、幼い妹2人を連れて施設を脱走します。母親のいる村は、北方にあるということしかわからない。

 

ただ一つの手がかりは、顔も知らない白人の父親が作ったというフェンス。野うさぎよけの長大なフェンスが、自分の村を縦断していたということ。このフェンスをたどれば、家へ帰れる。

 

フェンスは分断の象徴であり、アボリジニに対する白人政府の隔離政策を暗示します。彼女は混血児なので、その壁を自由に往来することができるのに、母親の世界から隔離されようとしている。しかし彼女は、負けない。ラストシーンは、衝撃的です。

 

印象的なシーンがいくつもあります。フェンス脇に、生活物資の配給所がある。衣類や食料品を、アボリジニの女性たちに配給している。そうやって、文明社会に染めていき、自然の恵みで生きている彼らを、「文明化」しようとする。

 

 

アボリジニ保護局長のネヴィルが保護施設にやってきて、子どもたちの服をまくりあげて背中の色をチェックする。色の白い子どもは、「知能が高く、文明化できる」と判断し、学校へ通わせる。

 

ネヴィル局長が、白人の夫人たちを相手に講演している。

「白人男性に聞かれます。混血と結婚したら、肌は何色か?その答えが、これです」

とスライド写真を見せる。

「3世代です。2分の1原住民の母親、4分の1の娘、8分の1の孫。人種交配が3代続くと、原住民の特徴が消滅します。白人の血が濃くなり、肌の黒さが消える」

だから、文明化の見込みのある混血児を、野蛮な原住民から救わなければならない、という悪魔のごとき善意。施設の子どもたちは、ネヴィル局長を「デヴィル」と呼ぶ。

 

南アフリカの人種隔離(アパルトヘイト)は、混血児を白人社会から隔離しましたが、オーストラリアの白豪主義(White Australian Policy)の場合は、混血児を先住民から隔離したのです。人種を隔離した、ということにおいて、両者に違いはありません。

 

 

ラッド首相が13日に連邦議会で謝罪を表明するのは、隔離・同化政策についてで、豪州の報道によると、「『盗まれた世代』とその家族たちが受けた苦しみや痛みに対し謝罪する」「誇りある人々と文化が受けた侮辱に対し謝罪する」などと表現されるという。

 

これまでハワード前保守連合政権は謝罪に応じてこなかったが、労働党のラッド党首は昨年(2007年)11月の総選挙でアボリジニへの謝罪を公約に掲げて圧勝、政権を奪取した。

 

ただ、ラッド首相はアボリジニに対する補償金の支払いには応じない方針で、その代わり、教育や医療、経済面における、アボリジニとその他豪州国民との格差是正に全力で取り組む決意を表明する見通しだ。

2008.2.12 19:30 産経ニュース)

 

ラッド首相は隔離同化政策を謝罪したのみで、虐殺や土地の没収については触れていません。それでも、当日、I an sorry.と繰り返す首相の姿を見たアボリジニたちは、歓喜の声を上げ、涙を流しました。ラッド政権は、捕鯨問題では日本にからんできて困ったものですが、このアボリジニに対する態度は立派です。

 

同じような問題は、アメリカ合衆国も、カナダも、ニュージーランドも抱えています。いずれも、国土そのものを先住民から奪って作った国ですから、それをすべて先住民に返すわけにはいかない。限定的な謝罪や保障をするしかないでしょう。

 

95年には、英のエリザベス女王が、ニュージーランド先住民(マオリ)との土地紛争に関して謝罪。カナダ政府は98年に、先住民のイヌイットに対する同化政策に関連して、寄宿舎で虐待が行われたことを認め、謝罪。

 

米国政府は、先住民にも黒人にも、いまだに謝罪していません。

 

日本政府は、人種隔離ではありませんが、北海道のアイヌ人や台湾先住民、沖縄の住民に対して同化政策を行ってきました。先住民の言葉を禁じ、日本語を強制しました。アイヌ同化の法的根拠となった「北海道旧土人保護法」は1997年まで存続し、日本政府は謝罪をしていません。

 

従軍慰安婦20万人の強制連行、などという、やっていないことを謝る必要はありませんが、先住民への同化政策は事実であり、行き過ぎがあったのなら謝罪すべきです。そうでなければ、ロシア政府や中国政府が、現在行っている少数民族抑圧に対して、批判できなくなります。

 

080221更新)