若年パーキンソン病患者と社会保障

by はとぽっぽ

 パーキンソン病患者は様々な面で社会福祉の恩恵を受けている。若年患者も同様である。しかし高齢のパーキンソン病患者とは少しばかり違うところで社会福祉制度上の問題に遭遇することがある。私がこれまでに見聞きしてきた例を挙げて、若年パーキンソン病患者の社会保障制度とのかかわりについて考えるきっかけとしたい。

1.特定疾患治療研究事業

 特定疾患治療研究事業のもとで、今のところヤール3度以上のパーキンソン病患者が医療費助成を受けることができ、高価な抗パーキンソン薬を相当量飲み続けなければならないパーキンソン病患者にとって、この制度はとても重要だ。昭和47年、難病大綱にもとづいて4疾患を対象として特定疾患治療研究事業に基づく医療費助成が始められた。パーキンソン病がこの制度に含められたのは昭和53年である。

多くの患者は、まず、この制度によって医療費の助成を受け、進行していくにつれ、身体障害者手帳や障害年金の受給を申請する。ヤール度というのは、パーキンソン病の重症度分類で、1度(軽度)から5度(重度)の5段階に分かれており、ヤール3度は体のバランスがとりにくくなる姿勢反射障害がおきるようになった患者をいう。ヤール3度以上の進行した患者が申請し受理されれば、所得に応じた自己負担額を超える医療費を国及び地方自治体が助成する。特に若年患者の場合、比較的安い特効薬Lドーパではなく、ドーパミンアゴニストで治療を始めることがガイドラインで推奨されている。ドーパミンアゴニストは新薬が多く、なかには1錠350円もするものもあり、それを1日3錠以上飲むことがある。若年患者の場合は進行が比較的遅いことが多いため、ヤール1〜2度の期間が長く、この間の治療費の負担が家計を圧迫することも多い。医療費助成が受けられない場合、老人医療であれば1割負担であるが、若年患者は健康保険を適用しても3割負担であり経済的に困るケースが多いと思われる。

長い間ヤール2度を保ってきたある患者はアゴニストを中心とした治療であったため、薬の自己負担額の重さにやっとのことで耐え、ヤール3度と診断されて医療費助成が受けられると決まったとき病気が進行した悲しさよりも経済面のうれしさの方が大きかったとい う。

ただ、近年財政状況が逼迫しているせいか毎年の更新申請の折に窓口でかなり立ち入った内容の質問を受けることがあるようだ。ある独身の女性患者が「一人で暮らしているなら自立しており医療費助成の対象から外れる」ことを匂わせる質問を受けて戸惑ったという話を聞いたことがある。独身の女性が一人暮らしなのは当然のことで、既婚者にはないさまざまな不自由に耐えているのだ。このような心無い質問は若年患者の心を傷つける。

特定疾患治療研究事業に基づく医療費助成について

平成10年からは重症患者を除いて一部自己負担制が取り入れられている。自己負担分は患者が属する家計の所得に応じて7段階に分かれ最高額は月額で通院の場合11550円、入院では23100円となっている。国の補助金を受けて県が行う事業であり、窓口は多くの場合保健所。毎年更新が必要で、その際にはかかりつけ医師が記入した臨床調査票を添えなければならない。

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2.身体障害者手帳(身障者手帳)

パーキンソン病患者は体幹・四肢の運動障害により身障者手帳の支給を受けることができる。他の難病といわれる病気の中には、外に症状が現れず、そのために手帳をもらえない病気がいくつもある。パーキンソン病は、震え、ジスキネジア、歩行障害など運動障害がはっきりと外見にあらわれるため、身障者手帳を受給できることになる。

若年患者でもかなりの人数が身障者手帳を受給しているのではないかと思われる。若年患者では薬が十分に効いているときには健康人と大差なく見えるせいか手帳の受給申請のための診断書を医師に頼んでも、「あなたはまだ軽いから・・・。」と、もうしばらく待つように言われたという話も聞く。身障者手帳は1級か2級でなければ受給するメリットがないように言われることがままあり、上の医師の言葉もそのような考え方からでたものかもしれない。

実際には、3級ならばかなりのサービスが受けられ、4級から6級でも利用できるサービスが相当数ある。自動車運転中に急にジスキネジアがひどくなり運転を中断せざるをえない場合があった若年患者が、「あなたには手帳はまだ早い。」という主治医を説得して身障者手帳を受給して、駐車禁止区域でも短時間であれば駐車が許される「自動車の駐車禁止除外」を活用している例もある。

若年患者の場合、高齢の患者に比べてオン(薬が効いているとき)とオフ(薬が効いていないとき)の症状の差が著しいことが多い。ある程度進行するとオフの時にはすくんだり転倒したりする危険があるので、通院するときには患者はしっかり調子を整え、薬の効いた状態で受診するので実際に医師が患者のオフの状態をよく知らないことがある。若年患者のしっかりしたオンの状況だけ見たのでは手帳の受給は大変難しいだろう。思いがけないときに薬が切れてしまい動けなくなってしまうかもしれないという状態は著しくQOLを低下させる。身障者手帳申請のための 体幹四肢障害の診断書は、手足の切断や麻痺のような固定的障害を想定して作られており、パーキンソン病のように、1日のうちで症状の差が非常に激しい場合が考慮されていない。

診断書を書く際にオンとオフのどちらを書くのかについては統一した評価方法というものはない様で、診断書を書く認定医の気持ちひとつというふうにも見受けられる。

身体障害者手帳について

18歳以上の患者は身障者手帳の交付を申請できる。手続きは次のとおり。@市区町村の福祉事務所などで交付申請書と診断書用紙をもらう。A指定医師に診断書を書いてもらい、自分で記入した申請書と写真を添えて福祉事務所に提出する。
基本的に身障者手帳は有効期間の定めがなくいったん交付を受ければ一生有効である。
身障者手帳自体はごく薄い小さな手帳だがこれによって受けられるサービスは全国共通のもの、市町村独自のものなどまちまちだが多種多様にわたり相当の数にのぼる。

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3.障害年金

パーキンソン病は現在のところ、完治は難しく、発病すれば一生抱えていかなければならない。進行性の病気であるだけに若年で発症した場合には仕事を続けることが難しくなり、一方で治療等病気に伴う支出額は大きい。

老齢発症であればそれまでに蓄えた貯蓄で賄うことができる患者もいるが、若年患者で、十代で発症した場合は仕事に就くこと自体が難しい。たとえ10〜20歳代での発症でなくて働き盛りでありかつ育ち盛りの子供をもつ40歳代に、病気を抱えてしまうわけで、若年患者にとって障害年金は大きな救いとなる。

現実には、若年患者の障害年金受給率についてみると、女性は高いが男性では低い。これは、おそらく就業中の男性のなかには、障害年金が在職中でも受給できるにもかかわらず、職場での立場上受給をためらう人が多いのではないかと思われる。

若年患者が障害年金の受給のための診断書を医師に頼む際に、身障者手帳の場合と同様の問題点がある。つまり、診断書には「補装具を使用しない場合について記入すべき」ことは明記されているものの「服薬していない場合について記入すべき」とはされていないため診断書を書く医師の判断にゆだねられる部分が多い。あえて薬を飲まない状態で受診し、その状態で診断書を書いてもらうという話も時々耳にする。 ,

若年性パーキンソン病は10歳代から20歳代前半で発病することがかなりある。10歳代で発病し初診日が20歳未満であれば国民年金保険料を収めていなくても障害年金を受給できる。ただし、普通の障害年金と違い、二十歳未満発症の場合には保険料の納付なく年金を受給できる特例であることから、一定額以上の所得がある場合には年金を受給することができない。

また、発病したときに、20歳を過ぎていても学生であり、国民年金加入が義務でなく任意に任されていたために加入していなかった場合には、障害年金がもらえないことになり、問題になっていた。2004年にその救済のために「特別障害給付金」という制度が出来てからは、学生時代に保険料を納めていなかったとしても1級なら月額5万円、2級では月4万円の障害年金が支給されるようになった。 このような無年金者の問題については訴訟も多数起きているが司法上で無年金障害者の主張が認められる見込みは今のところ大きくはないようだ。

さらに若年患者で進行が遅い場合には、発病後長期間を経てから、病気がある程度進行した時点で障害年金を申請することも多く(事後重症と呼ばれる)、初診から長く経過しているため初診日が証明できないケースがある。社会保険労務士が、患者が一度だけ診察に訪れた大学病院の倉庫から、何十年も前のカルテを探し出したという、信じられないような話を聞いたことがある。

障害年金について

 障害年金は障害基礎年金、障害厚生年金、障害共済年金に分けられる。パーキンソン病の症状で受診した初診日に厚生年金保険や共済組合に加入していた場合にはそれぞれ障害厚生年金、障害共済年金に障害基礎年金を加えたもの、つまり2階建ての年金が支給される。初診日に国民年金に加入中または20歳未満だったときは1階部分の障害基礎年金が支給される。障害基礎年金は1級または2級、障害厚生年金と障害共済年金は1級と2級に加えて3級も支給される。窓口は、障害基礎年金については市区町村役場担当課(年金保険課など)障害厚生年金は社会保険事務所、障害共済年金は各共済組合である。

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4.サービス給付

パーキンソン病患者がホームヘルプやデイサービスを受ける際には、大まかに言うと、障害者自立支援法、介護保険法のいずれかの適用を受けることになる。基本的に40歳未満で身障者手帳を持っていれば、障害者自立支援法でサービスを受ける。40歳以上の患者はたとえ身障者手帳を持っていても、介護保険が優先的に適用される。

介護保険法で特定疾病として例外的に40歳以上であれば介護保険を利用できるいくつかの病気が決められたとき、その疾患の患者たちはとても喜んだと思う。身障者手帳がもらえずサービスをうけることができなかった病気でも、介護サービスを受けられるようになったのだ。

しかし40〜50歳代のまだ若いパーキンソンン病患者が受けるサービスはすべて介護保険によるものとなったため、患者は望んだサービスとは違ったサービスを受ける結果となっている。介護保険法では移動介助(外出の際の付き添い)は、役所や病院などごく限られた場所に行くときしか認められておらず、社会参加(友人との交流や患者活動など)の機会に使えないことがある。また、介護保険のサービスは老年者の介護を基本として考えているため、数の少ない若年患者はデイサービスなどでも、興味や関心が相当に違っていたとしても多くの場合高齢者用のプログラムにあわさざるをえない状況のようである。

また突然薬の効きがなくなり体が動かなくなるオフや、すくみがある患者の場合、通院介助では、病院内の長い診察待ち時間中も付き添いが不可欠だが、介護保険ではそのような長時間の付き添いは認められないことが多い。

また介護保険では、高齢者の運動不足のため体力を失うことを避けるため、ヘルパーが高齢者に代わり家事をするのではなく、高齢者が自ら家事をしヘルパーがその手助けをすることがある。現役の主婦である女性患者の体験だが、介護保険のヘルパーさんの指示で、ペルパーが見守り手助けするという形で、患者自身がてんぷらを揚げているときにオフになり危ない思いをしたそうだ。どうも若いパーキンソン病患者にとって介護保険制度は最適の制度とは言い難いように見える。突然オフになってしまうパーキンソン病患者と恒常的に体力が衰えていく高齢者では必要とされるサービスに違いがあるのではないか。

介護保険と自立支援給付について

介護保険は市町村担当窓口で申請する。要介護認定の後、ケアプランの作成を経て介護サービスが利用できる。自己負担は原則として利用額の10%である。自立支援給付も障害程度区分認定を経て給付限度が決められる。自己負担も介護保険同様原則10%とされているが、定年退職後の高齢者と異なり、障害者は労働能力が十分でなく資産も少ないところから10%の負担が重過ぎるとの指摘もある。

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5.ハンドル型電動車椅子とバリアフリー

介助者を頼まずに、ハンドル型電動車椅子(電動カート、シニアカー)を使う患者もいるが、この場合にはバリアフリーの問題が生じる。近頃、鉄道駅にはエレベーターが設置され、電動車椅子に乗ってホームまでは行けるところが多い。しかしホームと電車の床に高さに差があるために駅員に頼まなければ電車に乗ることができない。つまり、駅員にホームと電車床に広い板を渡してもらってやっと電車に乗ることができるのである。そのため乗客の多い時間帯をさけるなど患者側も配慮すべきであり、また秒刻みのダイヤで運行していることを考えると多くの人々の理解なしにはできないことだと思う。

東京都の場合を例にとると、一部の私鉄ではハンドル型電動車椅子での電車利用に便宜を図ってくれる。その手間と気配りをまのあたりにすると感謝せずにはいられない。しかし、大部分の鉄道会社は、身体障害者に対する補装具給付制度により(つまり身障者手帳受給を理由として)給付された電動車椅子にのみ電車の利用を認めることとしている。つまり、40歳以上のパーキンソン病患者では介護保険が優先適用されるので、たとえ手帳を持っていても、ハンドル型電動車椅子は介護保険で借りることになる。そのため電車利用は認められないということになってしまう。おそらく、その制度の趣旨は、手間と他の乗客に及ぼす影響を考え、障害によって車椅子が必要な場合には便宜を図るが、単に歩くのが億劫なのでシニアカーを使う高齢者による電車利用は控えてもらいたいということだろうと思う。だとすれば、パーキンソン病患者は病気によって歩行障害になりやむなくハンドル型電動車椅子を使うのであるから身体障害者手帳による貸与の場合と同じように取り扱っていただけたら有難いと思うのだが。

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6.終わりに

 若年パーキンソン病患者を取り巻く福祉環境を概観したが、次の点を行政に望むこととして締めくくりたい。

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2008年2月

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