川畑トモアキが初参加した「International Fingerstyle Guitar Championship」について

2010年に「Fingerpicking Day」のギター・コンテストで国内チャンピオンとなり、次いで2011年、川畑トモアキは、米国の権威あるギター・コンテスト「International Fingerstyle Guitar Championship(以下IFGCと略)」に初参加。見事2位を獲得した。「初参加でいきなりの2位獲得」がどれだけ凄いことか、少し詳しくお話したいと思う。

このコンテストは、カンザス州ウィンフィールドで毎年9月の第3週に催されるウォルナット・ヴァリー・フェスティヴァル(Walnut Valley Festival)という、1972年から続いている野外音楽フェスティヴァルが主催し、フェスの開催中に行われる。
同フェスは、フォーク、ブルーグラス、オールドタイム、ケルティックなどのアコースティック系のプロ・ミュージシャンが多数出演。4日間にわたって大小4つのステージで彼等のライヴ・パフォーマンスが同時進行で披露される。昨年のソロ・ギタリスト関係の出演者だけを挙げてみると、トミー・エマニュエル、スティーヴン・ベネット、ピート・ハットリンガー、パット・カートリーなどで、アコースティック系の音楽ファンにとって夢のような音楽フェスである。大抵の場合、各アーティストは出演日時を変えて4つあるステージそれぞれに登場して演奏するので、例えばトミー・エマニュエルのライヴをフェス期間中に4回見ることも可能だったりするのだ。

コンテストは、様々な楽器(ギター、バンジョー、マンドリン、フィドル、ダルシマーなど)の各部門に分かれていて、ギター部門は他にフラットピッキング・ギタリストの全米チャン ピオンを選ぶ「National Flatpicking Guitar Championship」部門もある。フィンガースタイル・ギタリスト部門のコンテストも当初は全米(ナショナル)チャンピオン選出のためのものだったが、米国以外からの参加者も増えてきた状況に鑑み、2004年のコンテストより世界(インターナショナル)チャンピオンを決定するIFGCとなった。

コンテスト参加者は毎年40名。1次予選として全員が2曲ずつ続けて演奏し、その40名からファイナリスト(Finalists)と呼ばれる5名の入賞者が先ず選ばれる。それから続けてすぐにその5名は新たな2曲を演奏して、その結果1位から3位までが決定されるのである。コンテスト参加者はステージで声を出すことを厳しく禁じられており、違反すると失格。エフェクター類の使用も認められておらず、ステージはマイク1本とイスが置いてあるのみ。司会者より 登録番号で呼ばれた各参加者は、自分のギターを手にステージへと登場し、最長で5分間以内に演奏を終え、退場する(5分以上の演奏を続けても5分を超えた部分は審査の対象とならない)。 審査員は参加者の演奏だけを別室で聴いて審査し、選考を続ける。お気づきの方がいるかもしれないが、日本の「Fingerpicking Day」のギター・コンテストの審査方法やコンテスト参加者が守るべきルールは、このIFGCをお手本にしているのである。

4日間にわたるフェス初日の午後から始まるIFGCのコンテスト本番は1次予選からファイナリスト選出、それからチャンピオン決定に至るまで実に6時間以上にも及ぶ長丁場となる。 参加者はコンテスト開始直前にクジ引きで演奏順番を決められ、トップバッターはその10分ほど後にステージに立つこととなり、最後の者は演奏までに3時間余りも待たねばならない。演奏までの待ち時間の緊張に耐えられず、出演をキャンセルする(順番の時間になってもバックステージに現れず、要するに逃げ出してしまう)参加者も毎年いるようだ。私が同フェスに行き、このコンテストの模様を見た時もそんな現場に出くわした。スタッフが幾度か名前を呼び、その場に居なければ次の参加者の順番となるのである。

同フェスは昔競馬場だった広大な土地に大小のステージを新たに設けて行われているのだが、コンテストが行われる第4ステージはもともと厩舎だったところを改装した木造の建物。IFGCは特に人気のあるコンテストであるため、馬小屋の雰囲気が残るその会場は、いつも観客で一杯となる。空調設備などは無論なく、映画の台風シーンのセットの時に使うような巨大な扇風機が会場内に幾つか設置され、観客に向かって風を送っているが、蒸し暑さは変わらず、観客も汗を拭きながらの観戦である。私語は一切禁じられているステージでの演奏者の緊張が観客にも伝わり、演奏中は静まりかえる場内。演奏が終わるや各ギタリストに大きな拍手が贈られる。

IFGCのコンテストのルールや雰囲気を理解して頂くために長々と書いたが、コンテスト当日の様子が少しはお解り頂けたかと思う。こういった状況の中で、チャンピオンになることを狙うIFGCのコンテスト参加者たちはファイナリストに選ばれた場合も考えて4曲をあらかじめ準備してコンテストに臨む。どの2曲を1次審査の為に先に弾くか、その年のライバルたちのギター・スタイルの傾向や彼等の演奏の出来ばえ、馴れない環境の中、出演までの待ち時間に心を乱す要素は幾つもある。そんなプレッシャーに耐えて普段の実力そのままにステージで演奏できるコンテスト参加者は、稀であろう。特に初参加、しかも海外からの参加者は大抵の場合、長旅を終えて会場入りし、フェス初日に行われるこのIFGCのコンテストに時差ボケの残る体調のままで演奏する訳である。
IFSC独特の会場の雰囲気に呑まれることなく、充分に実力を発揮した演奏をすることがいかに困難か容易に想像して頂けると思う。

これまで日本からのIFGCに参加したギタリストで3位以内を獲得したのは岸部眞明(2003年2位)と田中彬博(2009年2位・2010年1位)の2人のみ。両氏とも幾度目かのIFGCへの挑戦によって勝ち得た栄冠であったと聞いている。
言い換えれば、初参加の時に満足できる演奏をし、並みいる強豪と互角(あるいはそれ以上)に戦うというのは至難の業であったのである。因みにIFGCでチャンピオンに輝いた日本でもお馴染みのギタリスト、ダグ・スミス(2006年1位)とドン・アルダー(2007年1位)も参加の度に3位から2位、2位から1位と、数度の挑戦の末にチャンピオンになった。あのアンディ・マッキーは2004年「Kansas Fingerstyle Guitar Championships」で優勝、同年の「Canadian Fingerstyle Guitar Championships」で2位を獲得しているが、このIFGCでは2001年に参加したものの3位に終わっているのである。ちなみにこのウィンフィールドで行われる各部門での優勝者は「ウィンフィールドでの勝者」という意味で「ウィンフィールド・ウィナー(Winfield Winner)」と呼ばれ、一挙に注目を浴びる。このIFGCのコンテストで勝ち抜くことが、いかに特別な意味を持つことかお解り頂けるだろう。

しかるに、川畑トモアキは初参加にもかかわらず「IFGCの決勝戦で第2位を獲得」したのである。
この素晴らしい結果は、幾ら褒めても褒めすぎることはない、まさに快挙なのだ。誰もが初参加では良い結果を出せていない状況、しかしそれも当然と思われる程の厳しい雰囲気やプレッシャーの中で思い通りの演奏をし、願っていた結果を導き出す。それは、ギターを演奏する時に「いかに平常心がいられるか」ということでもあるし、まさにアーティストとして真剣に自らと対峙し、獲得したともいえるものだと思う。

今後もこのIFGCのコンテストに日本から参加するフィンガースタイル・ギタリストが続くと思う。以上のような訳で、ファイナリストの5人に選ばれただけでも凄いのだが、その上に3位までを獲得する日本人ギタリストが登場した時には絶賛してあげて頂きたいと思う。

2012年8月 プー横丁店主 POOH