第四章 ハジメとミーコウ


         一

 朝になって、ミーコウは目を覚ました。隣 のハジメは、まだ眠っていた。ハジメの手を 握っているのに気付いて、ミーコウは慌てて 手を引っ込めた。
「ふぁーあ」
 ハジメは、ようやく目を覚ました。大あく びをしながらハジメは伸びをした。どうやら、 ミーコウが手を握っていたのは知らないよう だった。
「あ、おはようミーコウ。わっ! おいら何 でこんな格好してるんだ……。て、昨日この 服のまんま寝ちまったんだ」
 ハジメは慌ててドレスを脱ぎ捨てると、ク ローゼットに用意してあった新しい作業着を 取り出した。ツヴァイバッハの作業着は、く すんだ緑色だった。それを、ハジメのサイズ にわざわざオーダーメイドしてあった。
「やっぱり、おいらはこれでなくっちゃな。 帽子も絶対取り戻してやる!」
 ミーコウも、しわの入ったドレスを脱いで 新しい服を取り出した。着替えながら、ミー コウはハジメに聞いてみる。
「ねえ、ハジメ。帽子を取り戻すって、何か 作戦はあるの?」
 ミーコウに言われて、ハジメは作業着のボ タンを止めながら首をかしげた。
「そこなんだよな。おいら、何か大事なこと を忘れているような気がするんだ。それが何 なのか判れば……」
 言ってる本人も、何も判っていないようだ った。着替えの終わった二人は、向かい合っ てテーブルに座った。
「たぶん、どっかが間違ってるんだよ。それ が引っ掛かってるに違いないんだ」
 天井を見上げながら考えているハジメを見 ていて、ミーコウは退屈しなかった。
 そこへメイドがやって来て、朝食をテーブ ルに並べ出した。ハジメは、考えるのを中断 することにした。

 ハジメが考え事をしていたその頃、隊長は ケインに脱出する計画を説明していた。
「ドアの小窓から見える向かいのドアには、 402とゆう番号が入っている。昨日のディ ナーで、フィルたちのドアからは409とゆ う番号が見えたそうだ」
 隊長は、ヘルマンがハジメに注目していた 僅かな間に、フィルやマルコと情報交換して いたのだ。
「フィルとマルコは同じ牢屋にいて、しかも 俺たちと同じ階にいる。時計を取り上げられ て今まで把握出来なかった時間も、食堂にあ ったでかい柱時計を基準にして頭の中で時間 をカウントすることで解決した。今から三時 間後に、フィルと同時に行動開始だ」
 隊長は、扉のノブをいじり出した。既に鍵 を外す方法もつかんでいたのだ。
「隊長、ハジメはどうするんですか?」
「そうだな。ハジメたちはけっこういい部屋 にいるそうだ。待遇も悪くないそうだし」
「だから、放っておけとゆうのですか?」
 肩にかかったケインの手を、隊長は軽く振 り払った。
「そう慌てるな。ハジメはディナーの時、テ ーブルの裏に地図を刻んでいた。俺はスプー ンを鏡の代わりにして、こっそり地図を見た んだ。ハジメの居場所は判っている」
 隊長の言葉を聞いて、ケインの表情が明る くなった。
「隊長、見直しました。ハジメも助けるつも りなんですね」
「お前、そんなにハジメが気になるか?」
「い、いや。僕はハジメを巻き込んだ責任が あるので……」
 隊長の意地悪な質問に、ケインは困った顔 になった。
「そ、それよりも隊長、気になりませんか?」
「ん、何がだ?」
「昨日のヘルマンの言葉ですよ」
 ケインは、ヘルマンの言葉が不思議に思え たと隊長に言った。

 朝食の最中に、ハジメは大声を挙げた。
「思い出した!」
 ハジメの口からはじけ飛んだ食べかすが、 ミーコウを直撃した。ミーコウは、ナプキン で自分の顔をふいた。
「全く、何を思い出したのよ」
 ハジメは、自分の頭を叩きながら言った。
「時間だよ。何かおかしいと思ったら、そう ゆうことなんだ」
「だから、何なのよ」
「ツヴァイバッハは、潜水艦の搭乗者を変更 していないんだ」
「ええっ?」
 ミーコウには、ハジメの言っていることが 判らなかった。

 ケインは、隊長に説明した。
「敵は、マーライガーでアイアンホエールを 攻撃しましたよね」
 隊長は、うなずいた。
「それは、ツヴァイバッハが潜水艦の搭乗者 を変更してしまったからだ」
「そこなんですよ、変なのは」
「変? 一体どこが?」
 隊長は、目を丸くした。
「潜水艦の搭乗者が変更されたなら、ヘルマ ンはどうして我々に味方になれと言う必要が あるんでしょう?」
 ケインの言うことはもっともだった。隊長 は、手を休めて今までのことを考えてみた。
「ツヴァイバッハに攻撃された俺が目が覚ま したのは、牢屋の中だった。つまり、奴らは ハッチを開けられるようにマーライオン命令 したということだ」
 ヘルメットは、艦内にいるおれがかぶって いたのに。確かに、これはおかしかった。

 ハジメは自分の推理を、つばを飛ばしなが らミーコウに話した。
「あいつら、一週間前までは潜水艦を動かす ことも出来なかったんだ。新星共和国の潜水 艦を手に入れたのは、三日前だ。搭乗者を変 更する方法がこんなに早く判るなんて、絶対 変だよ」
 最初は聞き流していたミーコウも、今はハ ジメの言葉に熱心に耳を傾けていた。
「古代文明の潜水艦には、全て異なる能力が あった。でもツヴァイバッハの潜水艦の能力 を、おいらはまだ知らない」
「その潜水艦の能力が、秘密を握っていると ゆうのね」
 ハジメは首を縦に振った。

 ヘルマンは、潜水艦格納庫に来ていた。そ こには、六隻の潜水艦が並んでいた。
「この潜水艦が全て私の物。東栄帝国にして やられたツヴァイバッハが、再び頂点に君臨 する時は近い」
 自分の乗艦『アイゼンヌ』を自分の部屋か ら見下ろしながら、ヘルマンは静かに笑った。
「それにしても、この胸騒ぎは何なのだ?」
 一抹の不安を、ヘルマンは感じていた。そ れが何なのか、本人にも判らなかったが。

         二

 マルコは、フィルをせかした。
「なにやってんだ。もうすぐ時間だぞ」
「静かにしてくださいよ。もう少しなんです から」
 扉のノブをいじっていたフィルは、ついに 鍵をこじ開けることに成功した。
「開きましたよ」
 フィルが言いおわるより先に、マルコが扉 を開けた。廊下に出て左右を確認すると、右 の奥の方の扉が開き出した。慌てて扉のかげ に隠れたマルコがよく見ると、そこから出て 来たのは隊長とケインだった。
「隊長」
 小声で、マルコは隊長を呼んだ。隊長は気 付いて、振り返った。
「時間通りだな」
 四人は、階段の前に集合した。
「俺とケインは、ハジメを救出する。マルコ とフィルは、武器を探すんだ」
 ケインたちは、合流する場所を食堂に決め て二手に別れた。

 ハジメはこの時、部屋の中を調べていた。
「本当に出口があると思ってるの?」
 ミーコウは、カーペットを裏返しているハ ジメにあきれていた。壁の方を見ると、クロ ーゼットは倒され壁紙ははがれ落ちていた。
 元々軍事基地の一室だったせいか、カーペ ットの下はむき出しのコンクリートになって いた。ハジメが丹念に床を調べても、隠し扉 のたぐいは全く無かった。
「よし、今度は天井だ」
 ハジメはうつぶせになったクローゼットの 上にテーブルを置き、その上に椅子を置いた。 椅子に上っているハジメをミーコウが見上げ ていると、騒々しい音とともに扉が破壊され た。その音に驚いたハジメが、バランスを崩 して椅子と一緒に落ちて来た。
「ハジメ、何やってんだ?」
 扉を破壊したケインが見たのは、異様に散 らかっている部屋と椅子とテーブルの下じき になっているハジメたちだった。

 フィルたちは、武器の調達をしていた。し かし、武器庫は警備が厳重だったので、兵士 を襲って武器を手に入れていた。
「ほら、フィルも早く着替えろ」
「でも、この服全然サイズが合わないんです」
 二人は、ツヴァイバッハの兵士から軍服を 奪って着ている所だった。

 ハジメたちは、食堂に向かっていた。
「そろそろ脱走したのがばれている頃だ。潜 水艦を奪回して急いで脱出するぞ」
 隊長の言葉に、ミーコウは尋ねた。
「でも、潜水艦って通信装置が必要なんでし ょ? どこにあるのか知ってるの?」
 ハジメが、ミーコウの疑問に答えた。
「そんなの、簡単さ。隊長さんは、おいらの 帽子をどこにしまったんだい」
「俺の部屋の、金庫の中だ」
「そうゆうことさ。こんなの、みんな考える ことに大差ないよ。どうも潜水艦にはヘルマンが 乗っているみたいだから、指令室にあるんじゃな いかな」
 それでも、ミーコウにはまだ疑問が残って いた。
「それで、この基地の指令室の場所は誰が知 っているの?」
 今度は、ケインがミーコウに説明した。
「食堂や君の部屋があるこの区画は、他の場 所よりも内装が豪華だ。廊下にカーペットま でしいてあるしな。指令室も、ヘルマンの性 格からいって豪華な部屋のはずだから、この 狭い区画のどこかにあるはずだ」
 結構、みんな考えてるんだ。ミーコウは、 感心した。

 食堂の扉の前に、四人は到着した。ケイン は、扉をすこし開けて中をうかがった。
「ケイン、中の様子はどうだ?」
「隊長、兵士が二人います。まだこちらには 気付いていません」
「よし、隙を見て一気に行くぞ」
 隊長はケインとハジメを両脇にしたがえて、 扉の前でタイミングを計った。ミーコウは、 一歩下がった場所から三人を見守った。扉の 向こうの兵士が、二人とも後ろを向いた。
「今だ!」
 三人は、扉を蹴破って一気に兵士に襲いか かった。隊長は一人の腹にパンチを入れ、ケ インとハジメはもう一人に蹴りをくらわした。
「ぎゃあ!」
 悲鳴を挙げた兵士たちに、隊長は見覚えが あった。
「なんだ、マルコじゃないか。どうしたんだ、 その格好は?」
 兵士の正体は、マルコとフィルだった。マ ルコは腹を抱えてうずくまり、返事をしたく ても言葉が出なかった。フィルがかわりに説 明した。
「私達は、兵士に扮装してここまで来たんで す。いててて」
 フィルは、ハジメに蹴られた股間がまだ痛 かった。フィルの痛がりようを見て、ミーコ ウは赤くなった。
「ハジメったら、どこ蹴ってるのよ」
「へへへへ」
 ハジメは、照れ臭そうに笑った。

 フィルたちが指令室らしい場所をすでに見 つけていた。六人は、そこに直行した。この 人数になると、隠れられる場所はほとんど無 かった。兵士に見つからないことを祈りなが ら、全員思い切り走った。
「あそこの扉です」
 マルコが指した扉は豪華な彫刻で飾ってあ り、明らかに他のドアと違っていた。
「みんな、下がっていろ」
 隊長は、ドアの鍵をピストルで破壊した。
「よし、中には誰もいない。全員中に入れ」
 指令室に入ると大きな机や本棚があったが、 金庫らしいものは無かった。
「どこかに、ヘルメットを隠してあるはずだ。 手分けして探すぞ」
 一同は、部屋の中を調べ出した。隊長とフ ィルは机を、マルコは本棚を調べていた。ケ インは、額縁を外して何か無いか調べた。ハ ジメは、カーペットをめくりだした。
「本当に、この部屋にあるのかしら?」
 ミーコウは、指令室の大きな窓から外の景 色を見渡した。
「ゼロマルだわ!」
「なんだって?」
 ミーコウの言葉に、ハジメも窓に張り付い た。窓の外は、格納庫になっていた。ゼロマ ルたち五隻の潜水艦もそこにあった。
「あたしが連れてこられた格納庫は、あそこ よ。でも、ツヴァイバッハの潜水艦が消えて いるわね」
「出撃中なんじゃないか?」
 ヘルマンがここにいない所を見ると、その 潜水艦はヘルマンが操縦している可能性があ った。ハジメは、今度会ったら絶対負けない つもりだった。
「見てよハジメ、ヘルメットよ」
 ミーコウが、窓の下に吊るしてある帽子と ヘルメットを発見した。
「ヘルマンめ、なんでこんな所に吊るしやが るんだ?」
「だってこれ、凄く臭うわよ。全然洗ってな いでしょう?」
 ミーコウの言葉に、五人同時に首を縦に振 った。ミーコウは思い切り嫌な顔をしたが、 五人はそれを気にせず帽子とヘルメットをか ぶった。
「よし、格納庫に下りるぞ!」
 隊長は、ライフルを構えて窓から飛び降り た。フィルとマルコも隊長に続く。
「ここ、床まで十メートルはあるわよ。何で そんなことできるのよ」
「僕たちは、毎日鍛えているからね。君はハ ジメと階段を使うんだ」
「冗談じゃねえ。目の前にゼロマルがいるの に、遠回りなんて出来るか」
 ハジメは、窓のカーテンを使って即席のロ ープを作った。
「ミーコウ、来い」
 ハジメは、ミーコウを抱えながらロープを 降りていった。
「どうして、あいつは無茶ばかりするんだろ う?」
 ハジメが下まで降りたのを確認すると、ケ インも窓から飛び降りた。
 格納庫では、隊長たちがツヴァイバッハの 兵士たちと銃撃戦を繰り広げていた。
「ゼロマル! 立て!」
 ハジメの命令で立ち上がったゼロマルは、 兵士たちを恐れさせた。敵がひるんでいる間 に、ハジメはミーコウを連れてゼロマルへと 駆け出した。

         三
 ハジメはミーコウと一緒に、ゼロマルに乗 り込んだ。
「ゼロマル、動けるか?」
「動力系統、電気系統、全て異状なし。航海 に支障は無い」
 ゼロマルと会話しているハジメの肩を、ミ ーコウが叩いた。
「ねえ、ハジメ。誰と話してるの?」
「ミーコウには聞こえないんだったな。おい らは、ゼロマルと話してるんだ。テレパシー を使ってな」
 テレパシーと聞いて、ミーコウは驚いた。
「そうか、この帽子でゼロマルと話してるの ね。だから、ヘルメットがケインたちには必 要なんだ」
 初めてケインを見た時、誰と会話している か判らなかったが、これで納得した。ケイン は、潜水艦と会話していたのだ。
「どうだミーコウ。キャプテン・サンダーが テレパシーで魔女と会話したのは、本当の話 だったろう」
 ミーコウは、ハジメの言葉に呆れた。
「あなた、それが言いたくって、ゼロマルが テレパシーを使えるのを今まで黙ってたんで しょう。ハジメ、テレパシーが本当にあった からって、魔女もいるとは限らないじゃない」
「いるさ。きっとおいらも魔女に会ってみせ る」
 ハジメは、自信を持って答えた。そして、 潜望鏡を覗いて外を見た。
「ゼロマル、マシンガンを出せ」
 ハジメの命令で、ゼロマルの艦首からマシ ンガンが出現した。ツヴァイバッハの兵士が うろたえている姿が、潜望鏡に映った。
「ていっ!」
 ゼロマルのマシンガンが火を吹いた。威嚇 射撃なので弾は一発も当たらなかったが、効 果はあった。兵士たちは我先にと逃げ出し、 格納庫からはいなくなった。
「サンキュー、ハジメ」
 ケインはゼロマルに向かって手を振ると、 アイアンホエールへと走り出した。隊長たち も、自分の潜水艦に向かった。

 隊長は、マーライガーに搭乗すると通信機 のスイッチを入れた。
「こちらマーライガー。全員応答しろ」
「シーコメットのマルコです。無事搭乗しま した」
 スクリーンに、マルコの姿が映ったのを見 て、隊長はうなずいた。
「フィル、ケイン。搭乗したか?」
 しかし、隊長への返事も無しにアイアンホ エールとニューノヴァは動き出した。
「お前ら! 起動させるのはまだ早い!」
「隊長! あれを見て下さい!」
 マルコに言われて隊長が格納庫を見ると、 フィルとケインがそこにいた。
「何っ? あいつら、乗っていないのか?」
 ハジメからの通信が、隊長の所に来た。
「隊長さん、恐らくあれはツヴァイバッハの 潜水艦の特殊能力だ!」
「何だって?」
「あいつは、他の潜水艦を操ることが出来る んだ」
「そうか、だから無人の潜水艦が動き出した のか。うわ!」
 マーライガーが、勝手に後退を始めた。
「と、止まれ!」
 隊長の命令で、マーライガーは停止した。 隊長は、ひたいの冷や汗をぬぐった。
「ふう。搭乗者の命令が優先されるが、気を 抜くとマーライガーも操られるのか」
 隊長は、マーライガーの入り口を開けた。
「マルコ、俺はケインを収容する。お前はフ ィルを乗せろ」
 フィルは、急いでシーコメットに向かって 走った。しかし、ケインはアイアンホエール に向かって走った。
「やめろ、ケイン! 無茶だっ!」
 隊長が叫んだが、ケインは止まらなかった。 ケインは、さん橋から勢いをつけて跳んだ。 しかし、アイアンホエールには全然届かなか った。
「ケイン! ステップだ!」
 ハジメはゼロマルの腕を出して、ケインの 前に突き出した。ゼロマルの腕に着地したケ インは、両足で踏み切って跳んだ。
「アイアンホエール! ハッチを開けろっ!」
 ケインは、空中で命令した。アイアンホエ ールの入り口が開き、ケインはそこに飛び込 んだ。入り口が閉まると、アイアンホエール の動きが停止した。
「こちらアイアンホエール。無事取り戻しま した」
 スクリーンに映ったケインの顔を見て、ハ ジメとミーコウは互いの手を叩いてはしゃい だ。
「やったなケイン!」
 ハジメとケインは、親指を上げた拳を突き 出し合って笑った。
「全く、冷や冷やさせやがって」
 隊長は、そう言いながらもケインの思い切 った行動に内心感心していた。
「つい、こないだまではケインはああゆう奴 では無かったのにな」
 ケインが変わったのは、やはりハジメのお かげだろうと隊長は思った。
「あの小僧、じゃなかった、女の子には他人 にはない何かがある」
 隊長は、ハジメに感謝したくなった。

 ゼロマルが、ハジメに話し掛けた。
「ハジメ、ケインは助かったのだな」
「ああ、ゼロマルのおかげさ」
「そうか。私はケインを助けたのだな」
「そうだよ、ゼロマルが助けたんだ」
「これが、助けるとゆうことなのか」
「助けるってこと、ゼロマルにも判ったんだ。 良かったな」
 ハジメは、にっこりと笑った。そこへゼロ マルが、ハジメに危機を伝えた。
「右舷の潜水艦が、魚雷の発射準備に入った」
 スクリーンを見ると、確かにニューノヴァ がこっちに向いている。ハジメは、慌ててケ インに連絡を取った。
「ああ、判っている。僕からもよく見える」
「なあ、隊長さん。ニューノヴァを壊しちゃ っても、いいかな?」
 ハジメに尋ねられて、隊長は悩んだ。この ままだと、ハジメがやられてしまうが、古代 文明の潜水艦は惜しかった。だが、隊長には 考えている時間は無かった。
「ハジメ、ニューノヴァへの攻撃を認める」
「た、隊長」
 フィルは何か言いたそうだったが、隊長の 気持ちを察してか、それ以上は言わなかった。
「フィル……」
 隊長はうつむきながら、心の中ですまない と思った。
 ハジメは、マシンガンの標準をニューノヴ ァに向けた。
「当たれ!」
 魚雷が発射される瞬間に、マシンガンが艦 首に命中した。弾丸が魚雷に命中し、ニュー ノヴァの直前で大爆発を起こした。爆発に巻 き込まれたニューノヴァは、大破した。
「あーーー」
 ニューノヴァの最期を見て、フィルは言葉 が出なかった。

         四

 ハジメは、格納庫の鉄の扉をゼロマルの腕 で破壊した。扉の外は岩壁の洞窟が続き、そ の向こうに青空と海面が見えた。
「あれは、あいつかっ!」
 ハジメは、潜望鏡をのぞいて海面を拡大し て見た。そこには、例のツヴァイバッハの潜 水艦の潜望鏡が見えた。
「あいつめ、今度は負けないぞ! ゼロマル、 全速前進!」
「了解」
 ゼロマルは、洞窟の中を進んだ。
「俺達も行くぞ!」
「はい!」
 隊長たちも、ゼロマルの後に続いた。

 ヘルマンは、アイゼンヌの船内にいた。
「私が新型エンジンのテストをしている間に、 まんまと逃げられるとはな」
 遠隔操作も、うまく行かずに逆に操った一 隻を沈められてしまった。このままノヴァの 手に潜水艦が渡る位なら、全部沈めてやろう とヘルマンは考えた。
「このアイゼンヌの能力は、使い道がも う一つある。これを使えば、絶対負けない」
 しかし、アイゼンヌの能力は、基地の近く で使えば基地にも被害をもたらす。ヘルマン はアイゼンヌを後退させ、ゼロマルたちが基 地から出るのを待った。

 ハジメの目の前で、敵の潜水艦が潜って行 った。ハジメは、ゼロマルに敵を追うように 命令した。
「待て、ハジメ。深追いするな」
 隊長が止めようとしたが、無駄だった。ゼ ロマルは、既に潜航していた。
「ゼロマルを追うぞ。ハジメをこんな所で死 なすわけには行かない」
 三隻の潜水艦も、潜航を開始した。

 アイゼンヌに接近するゼロマルたちを見て、 ヘルマンはほくそえんだ。
「ふふっ、かかったな。アイゼンヌ、超 音波の放射準備だ」
 アイゼンヌの持っている特殊能力の正体は 超音波だった。古代文明の潜水艦は全て超音 波レーダーを搭載しているが、アイゼンヌの 超音波発生装置はその威力が段違いだった。 大出力で超音波を放射すれば敵潜水艦の機能 を麻痺させられるし、遠くから操ることも出 来る。全開で放射すると破壊してしまうこと もある。しかも、全方向に放射される超音波 には、攻撃の死角はなかった。
 自分まで超音波にやられないように、アイ ゼンヌの内部にはもう一つ超音波発生装置が あった。二つの超音波を同調させることでア イゼンヌは超音波を中和させ、自滅をふせい でいたのだった。
 この超音波攻撃の欠点は、相手を選んで攻 撃することが出来ないので、味方のいる場所 では攻撃出来ないことと、超音波を使用して いる間は、こちらもレーダーやスクリーンが 使用出来ないことだった。後、エネルギーを 食うので長時間の使用が出来ないとゆう問題 もあった。
「マーライガーは、やはり見えないか」
 以前の戦いでは、搭乗者のコントロールを 失ったマーライガーが偶然ぶつかって来たの で、発見出来たのだ。
「一番やっかいなのは、やはりマーライガー だな」
 ヘルマンは、マーライガーがいると考えて 超音波を放射した。

 ゼロマルは、超音波を直撃して激しく振動 しだした。
「うわあっ!」
 グリップを握っている両手が、刺すような 痺れに襲われた。
「きゃーっ!」
 椅子に座っていたミーコウも、衝撃に痺れ て床に倒れた。椅子の脇に置いてあった工具 箱のふたが開いて、中身が散乱した。
『偏西風』の潜水艦たちも、超音波に船体を さらされた。
「うわっ!」
 ケインは、大きく傾いた船体を立て直そう と必死だった。マルコとフィルは、転倒した ひょうしに互いの頭をぶつけ合ってしまった。 誰もが自分だけのことで手一杯な中、隊長だ けは仲間を気にかける余裕があった。
「みんな、応答するんだっ!」
 必死になって通信機に話し掛けるが、通信 機は超音波攻撃で使用不能になっていた。
 ゼロマルの振動は、数秒で収まった。ハジ メは、意識を失う直前で持ちこたえた。スク リーンもレーダーも回復してないが、じきに 戻るだろう。他の箇所も、幸運にも大きな故 障は無いみたいだった。
 大きく傾いた船体にハジメは立つのがやっ とだったが、それでもグリップから手を離し ていなかった。
「キャプテン・サンダーは、どんなピンチで も諦めない!」
 床に落ちていたキャプテン・サンダーの物 語を見て、ハジメは決断した。
「ゼロマル、体勢を立て直したら前進しろ!」
「ハジメ、正気なの? 敵の攻撃がいつまた 来るか判らないのに、前進するなんて」
 椅子に抱きついていたミーコウが、ハジメ に考え直すように言った。
「いや、奴はゼロマルにとどめを刺さなかっ た。ひょっとして、この攻撃には何か欠点が あるんじゃないか」
 もしそうなら、試す価値はある。そう考え て、ハジメはゼロマルを進めていたのだ。
「ミーコウ、ごめん。本当はお前をゼロマル から下ろしてから行きたいんだけど、今しか チャンスがないんだ」
「あたしだって、下りるつもりはないわよ。 いいわ、ハジメ。あなたの好きなようにやり なさい。あたし、最後までハジメと一緒にい るんだから」
「ミーコウ、お前ってやっぱりおいらより大 人だよな。おいら、本当はお前が羨ましかっ たんだ。いつも、おいらの何歩も前にお前が いるんだもんな」
 ハジメの言葉に、ミーコウはゆっくり首を 横に振った。
「それは違うわ。羨ましいと思っていたのは、 あたしの方よ。だって、ハジメっていつも自 分の夢を諦めないんだもん。ハジメなら、き っとなれるよ。キャプテン・サンダーに」
 ハジメの背中を、ミーコウは抱きかかえた。
「ミーコウ……。ゼロマル! 目標の潜水艦 がいる前方に、全速力で行けっ!」
 ゼロマルは、アイゼンヌに向かって突き進 んだ。

 ヘルマンは、回復したスクリーンを見て驚 いた。ゼロマルが、まっすぐこっちに向かっ ているのだ。敵はスクリーンもレーダーもま だ使えないのだから、無謀としか言いようが なかった。
「アイゼンヌ、超音波を放射しなさい」
「現在充電中。あと三分待って下さい」
 そんなに待てなかった。ゼロマルは、すぐ 前にまで来ていたのだ。
わーっ! ぶつかるー!」
 ヘルマンがそう叫んだ瞬間、二隻の潜水艦 は轟音を立てて激突した。

         五
 激突の衝撃に備えて、ハジメは両手に力を 入れていた。ミーコウも、椅子にしがみつい て壁に叩き付けられないようにしていた。
「ゼロマル、ライトだ!」
 ハジメが潜望鏡を覗くと、敵の潜水艦の姿 がはっきりと見えた。
「ゼロマル、捕まえろ!」
 鋼鉄の両腕を出したゼロマルが、アイゼン ヌにしっかりとしがみついた。両足も出した ゼロマルは、完全に抱きついた姿勢になった。
 ヘルマンは、ゼロマルを振り払おうとした が、ゼロマルの両腕はアイゼンヌから全く離 れなかった。
「スクリューを潰せ!」
 ゼロマルは、右手をアイゼンヌのスクリュ ーに突き出した。高速で回転していたスクリ ューは、ゼロマルの拳がぶつかると自らの力 で羽根を削りとってしまった。ゼロマルの拳 は、ほとんど傷ついていない。
「航行不能。至急修理を要します」
 アイゼンヌからの損害報告は、ヘルマンの 怒りに火を着けた。
「ゼロマル、絶対破壊してやる!」
 ヘルマンがそう思っていた時、待ちに待っ た言葉が聞こえた。
「充電完了。超音波を放射します」
「よし! ゼロマルに目にもの見せてやる」
 アイゼンヌは、また超音波を放った。アイ アンホエールたちは、超音波の直撃で再び機 能を停止した。しかし、ゼロマルは全くダメ ージを受けていなかった。
「どうして? 何故あいつだけ無事なんだ?」
「目標の潜水艦は、同調音波の効果範囲にい ます」
 超音波から身を守る、同調音波の効果は、 アイゼンヌの周囲の限られた範囲に限定され ていたが、ゼロマルは、その範囲に船体がぎ りぎり収まっていた。両手を使って、アイゼ ンヌに密着していたおかげだった。
「なんてことだ」
 ヘルマンは、最後の切り札も封じられてし まったのだ。
 ゼロマルがアイゼンヌを殴り続けている間 に、ハジメはあることに気付いていた。
「もしかすると、ゼロマルは……」
 ハジメの予感は、しだいに確信へと変わっ ていた。
「アイゼンヌ、緊急浮上だ。海上で片をつけ る!」
 ゼロマルと一緒に、アイゼンヌは浮上した。
「こいつ、まだ動けるのか」
 ハジメは、ゼロマルの両手に力を込め、振 り落とされないようにした。

 アイゼンヌは、ゼロマルごと海上に出た。
「新型エンジン起動」
 すかさずヘルマンが、アイゼンヌに命令を した。アイゼンヌの内部から、妙な機械音と 振動が発生した。その振動は、ゼロマルの船 内にも届いていた。

「な、何なんだ? ゼロマル、テレビはまだ つかないのか?」
「機能回復。映像表示します」
「な、なんだこいつはっ?」
 スクリーンには、巨大な円筒形の物体が映 っていた。その物体は、アイゼンヌの内部か ら出現した物だ。
「これ、ジェットエンジンよ」
 ミーコウは、円筒形の物体に見覚えがあっ た。
「なんだって?」
「ツヴァイバッハの、新型エンジンよ。軍事 パレードで見たジェット戦闘機に、そっくり なエンジンがついてたわ」
 そういえば、ハジメはそのパレードをさぼ っていたのだった。
「エンジンが動き出したら、注意して」
 ミーコウがそう言って間もなく、ジェット エンジンがうなり出した。
「こいつ、まだ動けるのか」
 アイゼンヌは、最初はゆっくりと動いてい たが、徐々に加速していった。しかも、その 加速は留まる所を知らなかった。
「う、動けねえ」
 高速で走っているアイゼンヌの上で、ゼロ マルは両腕を離せないでいた。今振り落とさ れたら、そのショックが並みでないことは、 ハジメにも判っていた。
「ゼロマル、マシンガンだ! エンジンをぶ っ壊す!」
 ミーコウが、ハジメの腕に取りすがった。
「駄目! そんなので撃ったら、あたしたち まで爆発に巻き込まれるわ」
 ミーコウの言葉に、ハジメは迷った。ゼロ マルの腕が、敵の燃料切れまでもつかは、判 らなかった。しかし、あのエンジンを止める には、破壊するしかなかった。
 シーコメットよりも速いスピードでは、ケ インたちが助けに来るはずもない。しかし、 こうゆう時のハジメの決断は早かった。
「マシンガンより弱い武器なら、爆発させな いで止められるかも」
 ハジメは、床に散乱している工具の中から ロープを拾い上げた。そして、それを腹に巻 き付けた。工具をかき集めて懐にしまうハジ メを見て、ミーコウはうろたえた。
「そんなの、駄目だよ。失敗したら、死んじ ゃうのよ。ハジメは、それでもいいの」
「ミーコウ、もうおいらには、これしか方法 が無いんだ」
 ハジメは、椅子にロープをくくりつけると、 ゼロマルに出入り口を開けさせた。
「くうっ。思ったより凄い風だ」
 時速数百キロとゆうスピードは、飛行機に 乗ったことのないハジメには生まれて始めて だった。床をはいながら、慎重に出入り口か ら頭を出したハジメは、スパナを放り投げた。
「当たれ!」
 しかし、スパナはジェットエンジンの脇を かすめただけだった。続いて、ハンマーやペ ンチを放り投げる。いくつもの工具を投げ、 ハンマーやニッパーがエンジンに入ったが、 まだエンジンは動いていた。
「これが最後だ!」
 全ての工具を投げたハジメが、工具箱を放 り投げた。箱がエンジンに入った瞬間、黒い 煙をエンジンが吹き出した。
「な、なにが起こったんだ」
 急激に減速するアイゼンヌに、ヘルマンは 驚いた。後部のエンジンは、スクリーンの死 角で、潜望鏡もゼロマルが邪魔をしていて使 えなかった。
「よし、今だ!」
 潜望鏡の前に戻ったハジメは、マシンガン を発射した。エンジンに弾丸が命中する前に、 ゼロマルはアイゼンヌから手を離していた。
 アイゼンヌから落ちて、水中に沈むゼロマ ル。マシンガンで穴だらけになったジェット エンジンは、船体全てを包みこむ大爆発を起 こした。
「やったあ!」
 それを見たハジメとミーコウは、船内で抱 き合って喜んだ。

 最終章 ハジメと冒険洋


 手足を引っ込めたゼロマルは、海に浮かん でいた。ハジメの目の前では、フランケンが 黒煙を上げながら燃えていた。
「おーい! ハジメーっ!」
 ケインから、通信が入って来た。彼は、黒 煙を目印にして、隊長たちとやってきたのだ。
「ハジメ、あいつをやっつけたんだな」
「ああ。勝てなかったら、ゼロマルを作った 人に申し訳ないからな」
 ハジメの言葉に、ケインは首をひねった。
「だってゼロマルは、あの潜水艦を倒す為に 作られたんだぜ。ライトは、テレビが映らな い時のためで、手足は、あいつにしがみつい て攻撃するためのものだったんだ」
 ハジメの説明に、隊長が笑い出した。
「そうか、そうか。成る程、そんなことに気 付くとは、やっぱりハジメには誰もかなわな いな」
 ハジメがにっこり笑いながら親指を立てた 拳を突き出すと、ケインたち四人も拳を突き 出し返した。
「ハジメ、これからどうするの?」
 ミーコウが、ハジメに尋ねた。ハジメは数 秒考えたが、すぐに答えが出た。
「おいら、一回親方の所に戻って、ゼロマル を修理するよ。そうしたら、今度こそ冒険を するんだ。ゼロマルに乗って。隊長さん、い いだろう?」
 隊長は、ハジメの頼みに笑ってうなずいた。
「いいだろう。今日の所は、お前を追いかけ ない。俺たちは、基地に帰ることにしよう。 おい、ケイン。お前も基地に戻れ」
「でも、僕は、既に犯罪者で……」
「安心しろ。俺がなんとかする。お前はこれ からも、アイアンホエールの搭乗者だ」
 隊長にそう言われて、ケインの表情が明る くなった。
「あ、ありがとうございます!」
 隊長は、ハジメの方に向き直った。
「そうゆうわけだ。ここで、お別れだな」
「隊長さん、また会おうな」
「ああ、またな」
 隊長は、ハジメに向かって敬礼をした。ケ インたちも、隊長に続いた。
「ハジメ、キャプテン・サンダーになれよ」
「判ってるさ、ケイン」
 ハジメとミーコウも、ケインたちに向かっ て敬礼を返した。

 ケインたちは、ゼロマルと別れて去ってい った。アイゼンヌも、すでに海中に没してい る。海上には、ゼロマルだけが残っていた。 夕日を浴びて、ゼロマルが赤く染まった。
「ミーコウ、お前はどうするんだい?」
「あたし? あたしは、おうちに帰るわ。み んな心配しているから」
「そうか、そうだよな。おいら、ミーコウを 屋敷の前まで送っていくよ」
「ありがとう、ハジメ」
 二人は、しばらく黙っていた。沈黙が続く 中で、ミーコウの肩がだんだん震えて来た。
「あたし、あたし」
 ミーコウは、ハジメに抱きついて泣き出し た。ハジメも、ミーコウを抱きしめる。
「あたし、ハジメと別れたくない。本当は、 ハジメと一緒にどこまでも行きたいの!」
 鈍感なハジメも、ミーコウの気持ちには気 付いていた。
「僕もだよ、ミーコウ。でも、お前は帰らな きゃいけないんだ。みんなが心配してるって 言ったの、ミーコウだろ?」
「そうだね、やっぱり帰らなきゃいけないよ ね」
 ハジメは、ミーコウの手を引いて、椅子に 座らせた。潜望鏡のグリップを握ると、ゼロ マルに命令を発した。
「ゼロマル、発進!」
 夕日に向かって、ゼロマルは発進した。   完

  • 第三章
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