目の前で繰り広げられる戦いは、この世のものとは思えない様相を呈していた。
ブーン、ブーン、ブブーン!
ウネウネウネウネウネ!
ブーンブーンッ!
ゴロゴロゴロッ!
どうして、こんな事になってしまったのか。
わたしは、二日前まで記憶を遡った。
Sate
召還の時間を間違えたわたしが居間に駆け込むと、そこは案の定嵐の後のように破壊されていた。そして、散乱した部屋の中央にいたのは……。
ブーーン!
「は、ハエ?」
そこにいたのは、巨大なハエだった。しかも、ハエのクセに赤い服を着ている。
「まさか、ハエの王なの?」
召還の準備に、豚の頭は使っていない筈だが。
「誰が、ハエだブーン。私はアーチャーだブーン」
「あ、アーチャーだと?」
まさか、アーチャーがハエの姿をしていたとは思わなかった。
「ねえ、アーチャーってハエのサーヴァントなの?」
「そんな事ないブーン! 誰のせいで、こんな姿になったと思ってるんだブーンっ!」
え、するとこれって……。
「わたしが、召還に失敗したせいなの?」
「その通りだブーン! 召還した地点に丁度ハエがとまっていたせいで、融合してしまったんだブーン!」
融合したですって?
「何よ、召還って電送装置で転送されてるの?」
そんな映画があったような気がする。
「別に、そういう問題じゃないブーン! 不確定要素を事前に排除するのは、召還する側の義務だブーン!」
それを言われると、返す言葉が無い。確かにこれは、初歩的なミスをしたわたしのせいだ。
「こんな姿にしやがって、もう君の言う事なんか聞きたくないブーン!」
そ、それは困る。たとえハエでも、アーチャーがいないと聖杯戦争に参加出来ない。わたしは、無理やり言う事をきかせる事にした。
「――――Anfang……! 以下省略!」
服従を強制させられたアーチャーは、かなり腹を立てていた。ハエだから、表情が判るわけじゃないけど。
「君は、令呪の力で私を元に戻そうと思わなかったのかブーン!」
「あ!」
そう言えば、そうだった。しかし、残り二つの令呪は、温存しなければ。
「せ、聖杯が手に入ったらもとに戻すから、ここは仲良くしない?」
「きっとだぞ。約束破ったら、一生この家に居座るからなブーン」
ハエと同居する趣味は無い。こうなったら、ハエで勝ち残ってやる。
「君と繋がったのを、感じるブーン!」
「ハエと繋がったなんて、誰にも言いたくない。特にエセ神父には」
でも、判っちゃうんだろうな。
大事な事を思い出して、わたしはアーチャーに尋ねた。
「それで、貴方の類別は何なの?」
「そんなもの、知らないブーン」
え?
「知らない事は、ないでしょう。どういう事よ」
「こんな身体で、どうしろっていうんだブーン!」
言われてみれば、今のアーチャーはハエだ。本来の能力なんて失われたとしてもおかしくない。
「それでも、私が最強でない筈がないブーン」
「その、ブーンッていうの、やめなさい」
「これは、言いたくなくても勝手に口から出るんだブーンッ!」
でも、羽音って泣き声とは違うと思う。
次の日、わたしが居間に入ると、そこはゴミだらけになっていた。
「私の美的感覚は、ハエに支配されそうになっているブーン」
ワザとやっているんじゃないのか?
すっかり忘れていた自己紹介を済ますと、わたし達は街に繰り出した。
ブーン
「……どうして、霊体にならないのよ?」
「私は亡霊だが、ハエには肉体があるからだブーン」
これからのわたしは、ずっとハエをお供にしなければいけないのか。
帰り道、知り合いが怪しいナマモノと会話していたような気がするけど、見なかった事にしよう。
更に次の日、わたしはハエを連れて学校に来ていた。そして、学校に呪刻がある事を知ってしまった。
その夜のうちに結界を消去させようとした時だった。
「そんなの勿体無いツムリ」
ツムリ? 何よそれ?
給水等を見上げると、そこには巨大カタツムリがいた。
「なんでカタツムリが?」
しかも、言葉まで……。て、それってアーチャーと同じじゃないの。
「カタツムリと融合したサーヴァント?」
そうか、失敗したのはわたしだけじゃなかったのね。
カタツムリらしく、生臭いものが風に乗って伝わってくる。
……ナマモノの視線は、どっちを向いているかよく判らない。
戦うしかない。どうせ相手も、アーチャーと同じで能力なんて……。
「――――」
カタツムリは、赤い凶器を抱えていた。
「ど、どうしてそんな武器を持っているのよ」
「そりゃ、歌にあるからだツムリ」
歌? わたしは、しばし考えた。
「♪ツノ出せ槍出せ頭出せー。……成るほど!」
わたしは、手を叩いて納得した。カタツムリは動きがのろいので、わたしはノンビリしていた。
「アーチャー!」
「まかせろブーンッ!」
わたしはアーチャーに抱えられて、地面に着地した。ハエとはいえ、羽があるのは不幸中の幸いだった。
校庭まで走ると、カタツムリは追い付いて来た。
「そんなの、あり?」
なんとカタツムリは、殻にこもって巨大な車輪となって転がってきたのだ。その速度は、まさにサーヴァントのそれだった。
アーチャーもカタツムリの槍に対抗して、短剣を出した。
「ランサーめ、本来の武器を使える姿とは運がいいなブーン」
「アーチャーも、ハエとなっては矢は出せないかツムリ」
サーヴァント同士の戦いが始まった。
ブーン、ブーン、ブブーン!
ウネウネウネウネウネ!
ブーンブーンッ!
ゴロゴロゴロッ!
ランサーは、アーチャーの攻撃を巧みに回避した。ある時は柔らかい身体で衝撃を吸収し、ある時は殻を使って防御しながら転がった。宝具の武器でないアーチャーでは、効果的な攻撃は出来なかった。
アーチャーが押されているというのに……正直、わたしは見下していた。ハエVSカタツムリなんて。
そこに、不運にも通りかかった者が居た。
「まずいツムリ」
殻に収まった姿で転がったカタツムリは、第三者を弾き飛ばして去って行った。
屋敷でアーチャーと合流したわたしは、アイツの家へと向かった。
そこでわたし達が目撃したのは、転がってアイツの屋敷から逃げ去るカタツムリだった。続いて、塀を飛び越えて七人目のサーヴァントはあっけなくアーチャーを蹴散らした。
慌てて魔術でアーチャーを助けたわたしに向かって、剣を突き立てたのは……。
「な――――」
「今の魔術は見事だった、魔術師ゴキ」
ご、ゴキブリ?
――――確証も無く一目で判った。
セイバーも、失敗したのか。
しかし、頭に触角を生やし、背中に羽根を背負っているだけのゴキブリなんて、随分わたしのハエと待遇が違うな。
……そうだ。
悔しいと言えば、それが悔しい。
でも仕方がないとも思う。
その触角は、人によっては充分萌え要素になりうるぐらい、可愛らしかったんだから―――
end
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