どうして、今頃になってこんなに毛深い夢を 改訂版

ACT1

 私は、ミハイル・ロア・バルダムヨォン。
 アルクェイドとの因縁の対決を目前にして、私は学校に潜伏していた。
 そして今……。
「ハ、ハックション!!」
 寒かった。季節は、秋。しかし、今日の気温は例年の平均を大きく下回っていた。夜風が身に染みる。
 吸血鬼といえども、凍死しないだけで寒いモノは寒い。今夜の私は、白衣の下は包帯だけでなく、ロッカーから黙って借りた体育着をまとっている。ちなみに、背中には弓塚と大きく書いてある。
 今まで、エレイシアの茶室で座布団を何枚か借りて、並べたり重ねたりして布団の代わりにしていたが、もう限界だ。
 こんな事になるのなら、シキのふりをして、琥珀とかいう小娘をパシリに使えば良かった。そうすりゃ、毛布の一つも餞別にくれたかもしれない。
 それどころか、学校を出てホテルかどこかに泊まれるだけの金も工面して貰えたかもしれなかった。全く、惜しい事をした。
 理科室から持ってきたアルコールランプで暖を取っていた私は、今夜をどう乗り切るか考えていた。
「今夜は寒いから、血を吸うのは明日にしよう」
 いっそ、春まで寝ているのも、いいかもしれない。
 いや、それはまずい。以前も冬眠していたら、寝ている間に真祖の姫君がやってきて、文字通り寝首をかかれてしまったのだ。その時「あんたは蛇かいっ」などと彼女に突っ込まれてしまったせいで、以後は『蛇』という二つ名で呼ばれるようになったのだ。
「何か、暖まる方法はないかな」
 体育着ばかり重ね着するのは、いただけない。何かこう、一着だけで暖かくなれるような厚手の服が欲しい所だ。
 以前も校内を物色していたが、何か見落としがあるかもしれないと、私は校舎の中を散策する事にした。
「あるとすれば、ロッカーだろうか」
 そう考えた私が、生徒や教職員の全てのロッカーの中を見ても、めぼしい服は無かった。まあ、鍵をかけ忘れたロッカーしか覗いていないから、仕方ないか。
 保健室なら、ベッドも白衣もあるだろう。しかし、私が以前白衣と包帯を失敬したせいで、あそこの戸締まりは厳重になっていた。
 いっそ鍵を壊すという手もあるが、それをやったら、学校全体の警備が厳しくなって、私の隠れる場所がなくなってしまう。
 同じ理由で、宿直室も使えない。実際にはほとんど使われていないのに。
 もう、校舎の中には私の探しているものはない。事実を素直に認めると、私は体育館やクラブハウスを探して回った。

 そうこうしている間に、夜も明けようという頃になったが、目的のブツは見つからなかった。
 体育館から校庭に出た私は、校舎に帰る途中でまだ探していない建物があることに気が付いた。
「あそこ……?」
 まさか、体育倉庫に着替えがあるとは思わなかったが、行ってみなければ解らない。
 幸いにも、扉の南京錠はナンバー式だった。五桁もある大きい鍵だったが、無精者は最初の一桁か最後の一桁しか回さないので、桁数はあまり関係ない。私は、最後の桁だけを回転させてみた。
「75479、75470、75471」
 予想通りだった。ものの一分足らずで、番号を当ててしまった。
 番号を合わせた鍵を外すと、私は倉庫の中を見回した。
「おや?」
 倉庫の片隅に、ホコリを被った段ボール箱を見つけた私は、ハードルをどかして蓋のガムテープを剥がしとった。
「おお、これは……」
 ついに私は、目的の物を発見したのだ。

ACT2

 それは、去年の学園祭のことだった。
 俺は、悪友と一緒にお化け屋敷で暴れ回った。
 何で今、こんな事を思い出しているかというと、屋敷への帰り道で俺は巨大なキノコに遭遇したからだ。
「ど、どうして、キノコがこんな所に?」
 もしや、キャンプファイヤーで燃やされたのとは別に、スペアのボディを用意していたというのか? こういう事には行動力のある有彦なら、考えられる。
「…………」
 キノコは、何も言わない。それに、笠の部分から見えている顔は包帯が巻かれていて誰なのか解らない。しかし、有彦ではなさそうだ。恐らく、あいつがどこかに隠しておいた着ぐるみを、誰かが持ち出したのだろう。
「…………」
 包帯の隙間から見える目で俺を睨みつけながら、キノコは俺に襲いかかってきた。高々と掲げられてハンマーが、俺に降り下ろされる。
「うわっ!」
 あの格好にしては意外に素早い動きのキノコだったが、去年の有彦に比べたらまだ遅い。着ぐるみのサイズが、間接の所で上手く合っていないようだ。俺は、間一髪でキノコのハンマーをかわした。
 攻撃をよけられたキノコは、そのまま勢いに乗ってでんぐり返った。ちなみに俺の後ろには、例の屋敷へと続く坂があった。
 一度転がり始めたキノコは、もう止まらない。そのまま下り坂を加速し続けながら、キノコは俺から遠ざかって行った。
「なんだったんだろう、一体?」
 天を見上げた俺の視界の片隅に、見覚えのある人影がたたずんでいた。
「シエル先輩?」
 街頭の上に立つ先輩は、呆然とした顔で、交差点まで転がり続けていくキノコを見送っていた。
「先輩、結局なにしに来たんだろう」
 交差点に飛び出してトラックにはじき飛ばされたキノコは、天高く舞い上がり、夜空を彩る光点の一つとなった。

ACT3

 二棟の校舎を結ぶ渡り廊下の中で、俺はキノコと対峙していた。
「このキノコ、意外と強いぞ」
 狭い場所ではハンマーをよけきれないとはいえ、横面を叩かれたアルクが窓を突き破って三咲町の外まで飛ばされるとは思わなかった。
 見事な場外ホームランだ。
 先輩に至っては、脳天からハンマーで体を潰されて、円盤上の平面ボディになってしまった。あれでは、もう戦えないだろう。
「どうする、俺一人で勝てるのか?」
 キノコは、振り回したハンマーで空を切る音を鳴らしながら、俺に向かってくる。
「ええい、ままよっ」
 俺は、一気に渡り廊下を解体した。崩れ落ちる廊下と一緒に、キノコは階下へと転落していった。
「ふう、なんとか勝ったか」
 既にキノコは、コンクリートと鉄骨の下敷きとなり、原形をとどめていない。ついに、驚異は去ったのだ。
 床には、持ち主を失ったハンマーが空しく転がって……。
「何の冗談だ?」
 瓦礫の脇のハンマーから、腕が生えてきたのだ。腕からは胴体が生え、胴からは笠と足が……。
 煙のようにもうもうと立ち込める埃の中から、新しく生まれ変わったキノコが出現した。
「こっちが本体だったのか?」
 最早あいつは、完全に着ぐるみと一体化していた。
 しかも外壁に手を掛けたキノコは、どういう仕掛けなのか校舎を易々と登って来るではないか。
 だが、俺にはまだ切り札があった。
「スペアのボディがあるのが、貴様だけだと思うなよ」
 この渡り廊下の断面までキノコが登って来た時、俺は巨大なヤカンを被っていた。
「夜寒鶴か……それで対等になったと思うなよ」
「対等だと? 俺とお前には、決定的な違いがある」
 滑車を取りつけたぶら下がり健康器にぶら下がって、俺は壁を蹴った。俺の攻撃を打ち返そうと、キノコはハンマーを構えた。
 しかし、俺がしようとしていたのは、攻撃じゃなかった。
「ジョグレス進化っ!」
 俺とキノコが激突した瞬間、ヤカンの着ぐるみが二つに開いてキノコを包み込んだ。
「文福茶釜に進化する時、キノコはヤカンに一旦収納されるんだ!」
 それが、俺の狙いだった。キノコのハンマーは、これで封じられた。だが、文福茶釜の身体を奴に乗っ取られたら、最悪の結果になる。文福茶釜の体内では、俺とあいつとのイニシアチブの取り合いが繰り広げられていた。俺は狸の頭をかぶっているが、奴も狸の両手を支配していた。目と腕を両方揃って使えないので、互いに魔眼を使えなくなり、今は茶釜の部分で互いに蹴りを入れあっている最中だ。
「どうやら、間に合ったみたいね」
 アルクが、やっと学校に戻って来た。て、今の彼女は目を血走らせてワルクエイドモードになってるんですけど。
「三人で力を合わせれば、遠野君の中のロアにも打ち勝てます」
 先輩も、ようやく復活したらしい。て、今の先輩はごつい銃剣を構えて完全武装でいるんですけど。
「ふ、二人とも、ちょっと待って……ギャーッ!!」
 その直後、俺は意識を失った。

ACT4

 夜寒鶴を被った子供が、俺の前に立っていた。何か気に入ったみたいで、これからも着ぐるみ姿で寝るとか言っていた。
 目を覚ました俺が見上げていたのは、目に涙を浮かべて俺の顔を覗き込んでいる、S・Bカレーの王女さまだった。
「先輩まで、なにやってるんですか!」
 どうやら、まだまだ騒動は終りそうにないらしい。


(後書き)
実はこの作品、二千三年に開催された『月姫SSこんぺ』に出品したSSの再録です。
後半の展開が不評だったので、結末を書き直してあります。
TAKE ZERO十二万ヒット記念SSでもあります。
感想をいただけると、幸いです。

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