事後祭典 lie so true. おまけ
本作品は、浅美裕子作品名物の『コミックスのおまけコーナー』を下敷きにしたあくまでジョークです。
本編の『事後祭典』とは何の関連も無い独立した作品としてお楽しみ下さい。
脇坂警部補は、三人の少女を研修センターに招いた。
「おまえ達には、これから更正プログラムを受けてもらう」
分厚いバインダーを、脇坂は三人の前に並べた。
「幹也が、受けた方がいいって言うから」
「これで、少しでも罪が償えるというなら……」
「どうして、わたしまで一緒に受けるのよ?」
三人は、めいめいの感想を述べながらバインダーを受け取った。
「さて、研修に入る前に、おまえ達に教官を紹介しよう。能力者の研修には、能力者がマンツーマンで指導する決まりだからな。先ずは、式の教官からだ」
脇坂が指を鳴らすと、加賀見が教室に入って来た。
「やはり、おまえか」
式と加賀見は、黙って目と目を合わせた。二人の周囲に、危なっかしい緊張感が漂う。
「あの二人には、死が寄り添っている」
式と殺し合った事のある藤乃には、緊張感の正体が一目で判った。
「加賀見、オレは前から気になっていたんだ。おまえ程の男が、どうして警察なんかの手伝いをしているんだ?」
「……あれは、俺が小学生の頃だった。事故に遭って入院していた俺は、近所の野原で赤い長髪の女性に蹴り飛ばされそうになったんだ。彼女と仲良くなった俺は、毎日野原で会っていた。ある日俺が、彼女の前で木を『殺す』と、彼女はぱんとモンゴリアンチョップみたいに俺の両頬を叩いて『今誰かが君を叱っておかないと、きっと取り返しのつかない事になる』と言ったんだ。そして『君は君が正しいと思う大人になればいい』と……」
「マジ?」
「マジ?」
「マジ?」
「……ジョークに決まってるだろう……」
いつもは冷静な男がボソボソとジョークを言っても、聞いてる方はリアクションに困る。
「次は、藤乃の教官だな」
「藤乃の教官、俺だから」
脇坂が呼ぶ前より前に、オレンジの髪に赤い瞳の少年が教室のドアを開いた。
「宝良君……」
藤乃の胸に、宝良は跳び込んだ。藤乃は、宝良の頭を軽く撫でた。
「最後に、鮮花の教官だが……」
「もしかして、アキラ君?」
「そんなワケ、無いだろう! だったら、オレだってアキラの方がいい」
式に突っ込まれて、鮮花は舌打ちした。
「ほら、おまえさんの教官だ」
脇坂が指を鳴らすと、ギーガシャという機械音が聞こえてきた。
「ワタシ、アナタの教官アルネ」
「このロボット、何よっ!?」
「何って、鏑木だよ。ちょっと動きがヘンだけどな」
ちょっと所では、ない。顔面は銀色だし、動きは角張っているし、まるで別人、いや別物だった。
「一体、なにをあいつにしたんだ?」
「お涼さん、研修受けた時に『壊れたところ』の『部品を交換』したんだ」
式に尋ねられて、宝良はにこやかに答えた。
「改造されている?」
涼は、どんな研修を受けたのか? 三人の脳裏に一抹の不安がよぎった。
「おまえ達も、聞き分け良くしている事だな」
そう言って、脇坂は三人を見回した。
「警察って、こわい……」
不安になった藤乃の方を宝良が叩いた。
「安心して。俺、藤乃にはやさしく教えるから」
鮮花は、加賀見を見上げた。
「あの子が、初対面の女性を気安く呼び捨てにするのって、もしかして……」
「あれは、脇坂の影響だな」
やっぱりそうだったかと、鮮花は納得した。
「自己紹介は、いらないな。今回の研修には、特別に講師を呼んでいる。研修の一時間目は、彼女の講義だ」
脇坂が拍手を打つと、青い短髪の女性が入って来た。
「講師って、おまえか」
「式、今の橙子さんは講師なんだから、そんな言い方は失礼よ」
「あの人、恐いです」
今の橙子は眼鏡を外していたから、免疫の無い藤乃が恐がるのも当然だった。講義の内容が内容なので、眼鏡を外さない訳にはいかない。
「最近、俺達の知らない能力者の犯罪が増えているからな。加賀見達も一緒に講義を聞くといいぞ」
そう言うと脇坂は、教壇を橙子に譲って教室の隅にあるパイプ椅子に座った。
「これから、能力者の血統と社会の関連について説明する。両儀は能力者を発現させ、浅神は能力者を封じた。砂神一族は、隠れ里同然の山奥でひっそりと暮らしていた。特殊なのが秘石眼の一族で、ガンマ団という能力者を受け入れる社会を自作した……」
一時間程講義を続けた橙子は、生徒達に何か質問がないか尋ねた。
「はい、質問です!」
元気に手を挙げたのは、宝良だった。
「青が傷んだら、何色になるんですか?」
バキッ、と音がして、橙子の手中の白墨が砕けた。
禁句ぎりぎりだが、辛うじて異なる意味を含んだ言葉。確かに、それは殺す理由には出来なかった。
周囲の空気が、橙子を中心として凍り付きそうになった。
「場の空気よ『凍』っちゃいけないアルヨ」
空中で、涼が手を振り回しながら、WOPを発動させようとした。
「邪魔だ」
いきなり背後から出現した存在によって、涼は一瞬で喰われてしまった。
「ひいっ!」
完全な八つ当りによって消滅した涼を見て、藤乃は震え上がった。
「安心しろ。新しい部品なら、とっくに用意してあるから、明日までには修理してやる」
涼を殺してスッキリしたのか、橙子は落ち着きを取り戻した。
「お涼さん、また改造されちゃって、かわいそー」
そう言っていた宝良だったが、その場にいた全員が気付いていた。
「宝良君の背中に付いているのって、ゼンマイの取っ手じゃないの?」
実は、宝良も改造されていたのだ。知らぬは本人ばかりなり。
「警察って、以外に油断出来ないな」
式は、宝良のゼンマイを回したくてウズウズしていた。
そして、三日後。
「おめでとう。これでおまえ達も、立派に社会に出られるぞ」
「アリガトウゴザイマシタ」
「改造されてるーっ!」
研修受けた三人は、幹也の前で角張った動きを披露していた。それどころか、教官のはずの三人も顔面が銀色になっている。
「一体、何があったんですか?」
「ちょっと、死合いが……爆発……」
講師だった橙子は、それだけ言うと、幹也と目が合わないようにそっぽを向いていた。
「やっぱり、能力者を一箇所に何人も集めておくもんじゃないな」
そう言って、脇坂は煙草に火を点けた。
「こうなるんじゃないかとは、思っていたけど」
宝良を迎えに来ていた彬と勝也は、顔を見合わせた。
[あとがき]
書こうと思っていたおまけコーナーですが、本編が終わってから一ヶ月以上経過してしまいました。
宝良の親友のはずの勝也が、本編で全然出番が無かったので、今回最後に出番を出しました。
『南国少女』と『事後祭典』は、実は話が繋がっています。
加賀見は宝良に『お前は、自分が望んだ自分になれる』と言い、先生は志貴に『君は君が正しいと思う大人になればいい』と言った。
この二つの世界は、能力者が生きていくための結論が近しいですね。
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