それは先生
それは先生
あるいは、先生が主役のアーケードモード
志貴が夜道を徘徊していると、例の路地裏からひょっこりと先生が現れた。
「遠野君、夜遊びはいけませんよ」
そこにいたのは、知恵留先生だった。
唖然とした顔で、志貴は焦点の定まらない目を向けた。
「もしかして、先生って……」
「遠野君の目の前にいるでしょう?」
確かに先生だ。先生には違いがないけど……。
「また、このパターンかよ」
それに、猫アルクは立派な夢の舞台の参加者だからまだ許せるけど、知恵留先生はメルブラにまったく出ていない。
「安心して下さい。ちゃんとギャグとしてリンクスに登録してありますから」
いや、だからそういう問題じゃないって。
「雪原や草原になんて行くつもりはありませんからね、遠野君を捕まえたら即効で退場させていただきますよ」
勝ち逃げって、そんなのありか?
「さあ、先生との個人授業の時間ですよ、遠野君」
「俺が先生と呼ぶのは、一人だけです」
教鞭を振るって、知恵留先生が襲い掛かった。
「はあ、しょうがないな」
志貴は、眼鏡を取って切り掛かった。二つの人影がすれ違った次の瞬間、一つの影だけが地面に倒れた。
「なんとかなったな」
眼鏡を掛けなおそうとした志貴は、違和感に気付いた。
「こいつは、俺の眼鏡じゃない」
眼鏡を探そうと慌てた志貴に一瞬出来たスキを、知恵留先生は逃さなかった。
「えいっ!」
教鞭で後頭部をはたかれて、志貴は昏倒した。
「交換した眼鏡は、返してもらいますね」
すれ違った時、知恵留先生は志貴を倒そうとは思っていなかった。斬られた瞬間に、眼鏡を自分のとすり替えたのだ。
知恵留先生は志貴も流石に自分を殺しはしないだろうと踏んで、相手にスキが出てかつ背後から襲える機会を作り出したのだ。
「さあ、これから教室で個人授業をはじめますよ。先刻捕えた七夜くんと一緒にお持ち帰りします」
志貴を抱きかかえて、知恵留先生は宵闇の中へと消えようとしていた。
「兄さんを置いて、帰りなさい」
メイド姉妹をひきつれた秋葉が、知恵留先生を呼びとめた。
「あなたには、昭和五十年代の方がふさわしいですよ」
注射器を取り出して、琥珀が無邪気に笑った。
「貴方たちも、一緒に昭和に来ませんか? きっと岐阜県民がビックリすると思いますよ。口裂け女が出たって」
知恵留先生の挑発に乗って、秋葉が髪を赤く染めた。
「思い知りなさい!」
赤い軌道が知恵留先生を取り囲んだ瞬間、知恵留先生の姿が消えた。
「何?」
知恵留先生が、秋葉の背後に現れた。
「別に消えたわけじゃありません。ただ、死角に回り込んだだけです」
「死角? 私に、そんなのが? あったとしても、どうしてそれが判るのよ」
「死角の場所なんて、判りませんよ。でも、どうすれば死角にいられるかは、判ります。だって私には、正しい選択肢が判るんですから。だから私は知り得る者なのです」
知恵留先生の教鞭が、秋葉の後頭部を打ち付けた。
「私は、先生です。委員長属性では、私に勝てませんよ」
地面に倒れた秋葉には目もくれず、知恵留先生はメイド姉妹に振り返った。
「その注射器は、何ですか? これから自分達で注射して、喉を掻き毟ってもらいましょうか?」
「い、いえ。これはそんな薬ではありませんので」
メイド達は、秋葉を連れて去って行った。
「さあ、遠野君。一緒にあの村に行きましょうね。今の季節は、ひぐらしの蝉時雨が本当に見事なんですよ」
もう、本人まで設定がハッチポッチになっています。
「そんな事、させないわよ」
満月を背景にして、白い影が宙を踊った。
「掛かって来なさい、姫君」
知恵留先生は、教鞭を突き付けた。
「貴方は、私を敵に回すという間違った選択をした。いや、誰だって志貴を渡したくない。正しい選択なんて、貴方には絶対に出来っこない!」
「違いますよ。これには、正しい選択なんてはじめから無い。だから、正しくない選択だって存在しないのですよ」
瞬間、街灯やビルの照明といった町中の灯りが全て消灯した。
「何ですって?」
月明かりさえも雲に隠れて闇に包まれた美咲町で、轟音と叫び声が響き渡った。
「コード・スクエアーッ!」
「闇にまぎれて第七聖典つかうなんて、ありっ!?」
雲の切れ間から刺しこむ明かりに照らされたのは、知恵留先生だけだった。
「最大の障害は、取り除かれました。さあ行きましょう、遠野君」
「遠野君は、渡さない!」
知恵留先生の前に、女性とが立ちはだかった。
「弓塚さん、あなたに私を倒せると思って?」
戦闘開始かと思われた瞬間、さっちんが吹き飛んだ。夜空に向かって飛び立ったさっちんは、だんだん小さくなっていき、最後にキラリと残光を残した。
「うざいよーっ!」
さっちんを弾き飛ばしたのは、都古だった。
「お兄ちゃんは、渡さない!」
都古は、大地を踏みつけて大見得をきった。
「私は、あなたより何倍も恐い子供達を何人も相手にしているんですよ」
実感の篭った口調でのたまいながら、知恵留先生は身構えた。
「注射器も金属バットも無い、素手の女の子には負けませんよ」
都古の八極拳に合わせるように、知恵留先生のカウンターが見事に決まった。
吹き飛ばされた都古は夜空に高く昇って行き、二つ目の星となった。
「ふう、もうこれで邪魔者はいなくなりましたね」
「大事な人を忘れていますよ」
黒鍵の群れが、知恵留先生に降り注いだ。
「別に忘れていたわけではありませんよ」
知恵留先生は、黒鍵の嵐の中でステップを踏んで、全ての攻撃を紙一重で回避した。
「たいそう憎しみの篭った攻撃ですね。そんなに、わたしの事が嫌いですか?」
「当然です、貴女にはロアになったり何度も殺されたりした過去がないのですから。それが、私と同じなどとは絶対にゆるせません!」
「確かに、私には過去はありません。しかし、未来もありません。所詮は私も、一夜限りの冗談に過ぎませんから」
同類にして同類で無い二人の一番の共通点は、顔でも名前でもなかった。互いに相手を殺したいほどにうらやんでいる事こそが、二人を同類たらしめていた。
ちなみに、二人の声は違っていた。知恵留先生の声は、アニメ版だったのだ。
「「セブンっ!」」
「どっちについたらいいんですかー?」
「「私にきまっているでしょう!」」
「ふえーん」
アルクェイドが相手だった時とは、わけがちがう。ななこが困っていると、目の前に金の翼の模様が迫ってきた。
「早くしないと、三食抜きですよ」
「さ、三食ですかぁ!」
それはひどすぎる。慌てて聖典の姿になったななこは、マスターの広げた腕に跳びこんだ。
「セブンっ! そっちは違います!」
「え?」
「ひっかかりましたね」
知恵留先生は、シエルにコスプレしていたのだ。ななこが見た金色の翼も、実はプリントシールだった。
「まさか、生徒達との罰ゲームがこんな所で役に立つとは思いませんでした」
第七聖典が、シエルを吹き飛ばした。
「コード・テリオスッ!」
テ、テリオスとは、あ、あの……。
「そんな技は無いっ!」
突っ込みながら空を舞ったシエルは、本日三つ目の星となったのだった。
「ゆるして下さい、マスター。ガクガクブルブル」
「そんなに後が恐いのなら、セブンもいっしょに来ない?」
「エ? いいんですか?」
「手の掛かる子供が今更一人増えたって、困りませんよ」
「わあい、ありがとうございます」
能天気に笑うななこをお供に、二人の志貴を背負った知恵留先生はひぐらしのなく村へと帰ることにした。
そして辿り付いたのは、見渡す限りの雪景色。
「豪雪地帯とはいえ、既にここも雪に埋もれるとは。どうやら、遅かったみたいですね」
「勝ち逃げさせるわけにはいかないから」
知恵留先生の前に、白レンが立ちはだかった。
「招かれざる客に、一夜の夢の舞台の幕を下ろさせたりさせないから」
白レンの撃ち出した氷が、知恵留先生に襲いかかった。
「今までのわたしが知恵留1とするならば、聖典を手にしたわたしは知恵留2です!」
パワーアップした知恵留先生の撃ち出した聖典は、白レンの心臓を貫いた。
「さあ、これで村に帰って個人授業です」
雪原を抜けると、そこは草原だった。
「呆れたわね、まさか最後まで勝ち残ったのがあんただなんて」
青子が、知恵留先生の前で頭をかいていた。
「あなたは、使い魔が欲しいんでしょ? これで我慢してくれませんか?」
知恵留先生は、ななこを差し出した。
「そんなあ、約束がちがいます」
青子は、ななこに手を振ってあしらった。
「二重契約になるから、いらないわよ」
ななこは、知恵留先生に背を向けて走り去った。
「もう、あなたにはついていけません」
「ああっ! 知恵留2はどうなっちゃうのよ!?」
これも、自業自得だった。
「さあ、遠慮無くいくわよ」
青子は、やる気満々だった。
「しょうがないですね。こうなったら、どちらが遠野くんの先生にふさわしいか勝負です!」
教鞭を取り出して、知恵留先生も戦闘態勢に入った。
「もう知恵留2じゃないんでしょ? 勝てると思ってるの?」
青子の発射した光球を、知恵留先生は何故か手にしていた金属バットで打ち返した。
「聖典を手にしたわたしを知恵留2とするならば、彼女を失ったわたしは知恵留3です!」
そんなのありなのかっ!?
「いまこそわたしは、真の主役になる! くらえ、ウイニング・ザ・レインボーマン! カレーの国の山奥まで飛んでいなさい!」
「やーらーれーたーっ!」
そして、四つ目の星が輝いた。
こうして、知恵留先生は山奥の村まで二人の志貴をつれて戻って来た。
しかし、生徒達とのゲームに敗れて、結局二人とも差し押さえられてしまったのだった。
「しくしくしく……」
肩透かしの結末に、肩を落として泣く知恵留先生だった。
END
後書き
白猫に続いてのメルブラSSです。
前回よりカットンダ内容を目指しました。
これでも、十万ヒット記念SSです。
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