第5節
ミニ新幹線の見直し



 第4節で触れたように、ミニ新幹線には多くの魅力があるものの、山形新幹線の失敗によって、整備新幹線計画の路線上にある、地方公共団体に嫌われることとなってしまった。現在のところ、北陸新幹線の長野以北は、ミニ新幹線方式、または、狭軌新幹線方式で造られることになりそうだが、軽井沢〜長野間が、ミニ新幹線方式の計画から、急遽フル規格新幹線になったことを思うと、これから先、どう転ぶかはわからない。糸魚川〜魚津間、金沢〜石動間が着工されているものの、最も時間のかかるトンネル掘削工事が優先されており、現段階では、フル規格新幹線に変更することも可能なのである。※2000年12月、糸魚川〜新黒部間のフル規格格上げと、上越〜糸魚川間、新黒部〜富山間の新規着工が決定し、長野〜富山間はフル規格となることが確定した。

 個人的な意見を言わせてもらえば、北陸新幹線は、フル規格新幹線にした方が良いように思える。なぜなら、北陸本線は現段階でも輸送量が多い。利用客が少なくなる直江津〜富山間に限ってみても、1日に述べ58本の列車が走っていて、そのうち、特急列車が19本である。ドル箱である、富山〜大坂(米原)間になると、1日に述べ100本以上の列車が走っている。特急列車を新幹線に格上げしても、普通列車だけの営業でも、利益が得られそうな路線である。整備新幹線計画の目的の1つに、在来線の輸送量の飽和を緩和する目的がある以上、北陸本線の場合は、新線が必要である。

 もし、仮に、北陸本線をミニ新幹線とした場合には、いくつかの問題点が考えられる。まず、1点目としては、車両改造の問題である。台車を変更したり、新幹線電圧である、交流25000Vに対応できるような、車両改造を行わなければならないのである(在来線の交流区間は20000V)。山形・秋田新幹線の場合は、在来線の運行本数が元々少なかったために、これらの改造が比較的容易であったが、在来線の運行が多く、また、他線区へも直通する夜行列車が多い北陸本線では、これは難しい。

 また、2点目としては、北陸本線は、線区としては米原〜直江津間ということになっているが、実際は、東海道本線の大坂〜山科間、湖西線(山科〜近江塩津間)、北陸本線の近江塩津〜直江津間、信越本線の直江津〜新潟間の、全てを総括した1本の路線としての運行がなされている。その例を挙げれば、昼間特急「雷鳥・スーパー雷鳥・サンダーバード」(大坂〜金沢・富山・新潟・和倉温泉間)や、「北越」(金沢〜新潟間)、夜行急行「きたぐに」(大坂〜新潟間)がその典型である。また、北陸本線は、新潟以北の白新線(新潟〜新発田間)、羽越本線の新発田〜秋田間、奥羽本線の秋田〜青森間を結んで、「日本海縦貫線」という役割も果たしている。実際、昼間特急では、特急「白鳥」(大坂〜青森間※2001年3月3日のダイヤ改正で廃止)が1往復(全区間通しで利用する旅客はほとんどいないが)、夜行列車では寝台特急「日本海」(大坂〜青森・函館間)が2往復、不定期列車も含めると、寝台特急「トワイライトエクスプレス」(大坂〜札幌間)、寝台急行「あおもり」(大坂〜青森間)が運転されている。更に言えば、東京と北陸地方を結ぶ、寝台特急「北陸」(上野〜金沢間)や、夜行急行「能登」(上野〜福井間※北陸新幹線開通で上越線経由に変更、2001年3月3日のダイヤ改正で金沢〜福井間廃止)、不定期も含めると、夜行急行「加賀」(上野〜金沢間)も上越線(長岡)経由で運行されている。北陸本線をミニ新幹線方式にした場合は、これらの列車の運行が難しくなり、継続しようと思えば、全線を標準軌、狭軌共用の、3本レールにしなければならなくなる(理想を言えば4本レール)。

 狭軌新幹線方式となると、より重大な問題点が存在する。1点目としては、見た目上、在来線特急と変化がない。これでは、沿線地方自治体が資金を出すのが馬鹿馬鹿しくなるだろう。2点目としては、メリットがないということである。前述したように、北陸本線の特急列車は、現時点でも高速走行を行っており、東海道新幹線「こだま」の表定速度と比較しても遜色ないほどである。在来線とは別の新線を建設するのであれば、、フル規格新幹線の方が良いと誰もが思う筈である。3点目としては、列車接続の問題である。もし、長野以北を狭軌とするのであれば、当然この区間を走行する車両は、フル規格新幹線である長野以南には、進入できないことになる。長野、もしくは飯山での乗り継ぎが必要となり、この点でも沿線自治体の期待から大きく離れたものとなる。

 これらの点では、JR及び、国の説明不足が大きく響いている。実際、技術門だいでは、狭軌でも、新幹線並の速度は安定して出せるのである。曲線区間での遠心力と、直線区間での安定性を大きく左右する、荷重異動量△(デルタ)Wは、G×H/T×W(G=加速度、H=重心高、T=トレッド幅⇒軌道幅、W=車重)で求められる。仮に軌道幅Tが狭軌のままであったとしても、重心高、車体重量を低く設定できれば、安定した高速走行は可能なのである。現に、転倒する速度は、東海道・山陽新幹線用0系(東海道新幹線では退役)、100系車両(「ひかり」「こだま」で使用※2003年10月1日ダイヤ改正で、東海道新幹線からは退役)は522km/hである。東北・上越新幹線用200系(「やまびこ」「あさひ」等で使用)も同様である。これに対して、在来線特急型車両の代表と言うべき485系車両は、457km/hである。重心高が、新幹線車両1340mmに対して、485系は1300mmで、重心高の違いの影響はあるものの、この場合は、ほぼ標準軌と狭軌の差と言っていい。しかし、同じく在来線特急型車両でも、曲線区間の多い線区(紀勢本線、中央本線西部、篠ノ井線等)のために開発された振り子式特急型車両381系車両は、遠心力対策として、重心を1000mmに抑えている(冷房機を床下に配置するなどしている)ため、その速度は521km/hとなる。これは新幹線車両並であり、狭軌では高速走行ができないというのは、迷信に過ぎない。新型車両や路盤の強化、線路の直線化(R=1400mm以上、Rは半径の意)、道路との立体交差化等をすれば、狭軌でも高速走行は可能なのである。しかし、JR、及び国の説明不足のために、どうしても、標準軌の方が望まれてしまうのである。

※この段落の考察は、川島令三著「全国鉄道事情大研究北陸篇@」(草思社)を参考にしています。

 ただ、いづれの方式を選んだとしても、北陸新幹線の抱える問題として、北越急行の問題がある。北越急行とは、1997年度に開通した、六日町〜犀潟間のバイパス路線で、北陸方面と、上越新幹線の接続が主目的であり(計画時の目的とは違うが)、特急「はくたか」(越後湯沢〜金沢・福井・和倉温泉間)が運転されている。北越急行は、基準速度160km/hで設計されており、首都圏と北陸地方の接続に時間短縮という大きな意味を持って開通した。最速の「はくたか10号」は、北越急行線区間内で105.2km/hを記録し、越後湯沢〜金沢間の全区間でみても、105.3km/hという表定速度を記録している(※現在の最速「はくたか」は、「はくたか2号」で、表定速度106.0km/h、越後湯沢〜直江津間だけだと、109.8km/h)。この「はくたか10号」は、東京〜金沢間を3時間7分(※現在の最速は、「MAXとき305号」「はくたか2号」接続の3時間48分)で結んでいる(乗り換え時間込み)。しかし、北陸新幹線の長野以北が開通した場合、長野経由で、首都圏と北陸地方が結ばれることが予想される。そうなった場合、「はくたか」の存在価値はどうなってしまうのだろうかと思う。

 ミニ新幹線構想自体は、悪くはないと思う。実際問題として、工費、工期の節減は大きな魅力である。しかし、これを、北陸本線に当てはめるのはどうかと思う。東北本線の盛岡〜青森間のように、在来線普通列車の本数が少ない線区ならともかく、北陸本線や、九州新幹線建設が予定されている鹿児島本線のように、在来線普通列車、及び夜行列車が多く走行する線区に、ミニ新幹線方式を採用するのは、理由を挙げて説明したように、難しい。新幹線の走行はともかくとして、普通列車及び、夜行列車の運行は、秋田新幹線のように、複線区間を片側標準軌、片側狭軌としない限り、難しくなるであろう。※東北新幹線も盛岡〜青森間がフル規格で開業することが決定した。※2002年12月1日、盛岡〜八戸間先行開業。

 また、狭軌新幹線の構想は、整備新幹線に当てはめるべきではない。上記の様に、狭軌でも、技術上は高速走行は可能ではあるが、狭軌新幹線のための改良工事は、JRが行うべきサービスの向上であって、国や沿線地方公共団体が資金を出す、整備新幹線計画に当てはめるのは、誰が考えてもおかしい。むしろ、整備新幹線計画から外れていて、輸送量が多く、時間短縮が求められる線区に、JRが単独で投入すべき技術であり、工事であると思う。その候補としては、高速バスとの競合が激しい、中央本線・篠ノ井線の新宿〜松本間、日豊本線(西小倉〜西鹿児島間)、常磐線(日暮里〜岩沼館)等が挙げられる。


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