第5節
北陸新幹線開通に伴う諸問題


 北陸新幹線は、長野県、殊に長野市周辺では、大歓迎されているが、必ずしも全ての人々に歓迎されているわけではない。不満を持っているのは、先に挙げた小諸市の他、群馬県側では、新幹線ルートから外れ、横川〜軽井沢間を分断された形になった松井田町、それから、軽井沢地区では、地元の住民ではなくて、別荘族が、北陸新幹線に反対していた。

 北陸新幹線の開通によって、これまでも多くの問題があったし、これからもいくつかの問題が起こることが予想される。先ずは横川〜軽井沢間の信越本線分断の問題が挙げられる。個人的な意見かもしれないが、この線区は、国鉄時代の旅情を今に伝える、最後の線区であった。JRの管轄から離れるのは仕方がないとしても、何とか動態保存の道はなかったのであろうか。例えば、山陰本線は、新線が開通した後は、旧線を使って、嵯峨嵐山駅から、トロッコ列車を運転している。碓氷峠はトンネルが多く、景観に乏しいため、嵯峨のトロッコ列車と同じような形態は難しいとしても、何らかの工夫をしてほしいものである。今後、動態保存化するという噂を聞いたが(信憑性は不明)、JRから管轄の移った、松井田町の今後の対策(町おこしを兼ねてもいい)に期待したい。

※鉄道営業ではないものの、「碓井鉄道文化村」(旧横川機関区)にて、EF63型機関車の動態保存が実現した。

 2点目としては、「佐久平」の駅名問題が挙げられる。小諸市と佐久市の間で、新幹線誘致の際に、その方式が双方で違い、結局、佐久市側が主張した、フル規格新幹線で建設されたことは前述した。その結果、北陸新幹線は佐久市を通り、駅が造られることになったのだが、小諸市側は、その新駅に「小諸」の名前を入れることを要求したのである。小諸市側の言い分としては、知名度の低い「佐久」だけでなく、「小諸」の文字を入れたほうが、利用客(特に観光客)が増える、フル規格新幹線に同意する条件として、平成3年6月に県議会に出した「新駅に『小諸』の名前を入れる」との要望、を楯にした。一方、佐久市側の言い分としては、建設地は佐久市であること、建設費の地元負担は全額佐久市負担であること、周辺地域の呼び名は佐久であること、を理由に「佐久駅」を主張した。これらの論争は、両市議会だけでなく、地元の住民団体も含めて決定的に対立し、この問題について、三浦佐久市長と、小林小諸市長との間で、トップ会談が持たれた。しかし、それぞれの意見に大きな隔たりがあり、地元調整による解決は、行き詰まっていたため、広域議会が吉村長野県知事(当時)に調停を依頼することになったのである。結局、吉村案の「佐久平駅(佐久・小諸地区を総括した名称)」が採用されることになったのだが、フル規格新幹線、ミニ新幹線の論議で対立していた両市は、この駅名問題でも感情的な対立が起き、広域議会が南北に分裂する危険性も秘めていた。佐久市長は、「いい調停案」としているが、「佐久平駅」のある、佐久市長土呂地区の神津区長は「渋々了承した」と語っている。小諸市長は、「『小諸』の文字が入らないのは残念」としながらも、「佐久広域全体を配慮した上での調整」と受け止めている。いずれにしても、今回の問題をきっかけとして、両市の協力体制を望む声は大きい。「佐久平駅」が、その融和のシンボルとなりえるかは、今後にかかっているであろう。

 3点目としては、旧信越本線の、軽井沢〜篠ノ井間の第三セクター化である。新しく「しなの鉄道」として歩み出したが、この「しなの鉄道」については、第3章で詳しく説明する。信越本線は、高崎〜横川間と、篠ノ井〜新潟間(直江津経由)で分断されることになったが、極論を言えば、利用客が多くは見込めない、高崎〜横川間も、第三セクター化される可能性はある。現在は24往復の列車が運行されているが、今後減っていく可能性は、多いにあるのである。

 4点目としては、北陸新幹線沿線を、通勤圏にしようという考えである。3点目の問題と多少重なるかもしれないが、北陸新幹線が他の新幹線と異なるのは、代替輸送機関が無いということである。北陸新幹線、あるいは、線路を共用している、上越・東北新幹線で、何らかのトラブルが起きた場合、通勤者は、移動手段を失うのである。実際開業後、東京〜大宮間で、電気系トラブルが発生し、不通になったことがあった。高崎まで折り返し輸送ができればいいのだが、高崎〜長野間が不通になった場合、大変なことになる。横川〜軽井沢間のバス輸送は、代替機関とは言い難い。JR東日本・群馬県が企画している、安中榛名駅の分譲住宅も、新幹線以外の交通手段がないのである。通勤者はいいとしても、その被扶養家族である者(子供など)達は、通学などで不便さを感じるに違いない。佐久平周辺でも、宅地造成、リゾートマンション建築が進んでいるが、東京への通勤を考えた問い合わせは、まだ無いらしい。

※安中榛名駅の新しい街づくりとして、「びゅうヴェルジェ 未来図倶楽部」が立ち上がった(2002.11追記)

 5点目としては、新幹線の東京〜大宮間の輸送体系の問題である。現在、新幹線路線の東京〜大宮間は、その輸送量としては、東海道新幹線並、あるいは、それ以上の飽和状況を迎えており、また、運行車両の種類の多さも、その問題に拍車をかけている。東海道新幹線では、主に「こだま」に使用される0系、主に「ひかり」に使用され、2階建て車両が組み込まれている100系、主に「のぞみ」に使用される300系の3種類が運行されている(今回、その他に、JR西日本の「のぞみ」用車両、500系が東京駅に乗り入れることになった)。これに対して、上越・東北新幹線では、一般的な200系(2階建て車両組み込みの2000番代も含める)の他に、オール2階建て車両のMAX(E1系と新型E4系)、山形新幹線用の400系、秋田新幹線用のE3系、北陸新幹線用のE2系(東北新幹線用のE2´系も含める)と、6系統8種の車両が運行されている。前述した電気系トラブルも、この運行システムが影響し、復旧も困難な状況であった。

※現在東海道新幹線は、0系・100系が退役し、300系が主に「ひかり・こだま」、700系が「のぞみ・ひかり」、500系が「のぞみ」を担当している。

 3点目以降の問題点は、今後、北陸新幹線に大きくのしかかってくるであろう。また、同時に、いずれも解決困難な問題である。今後の問題対策に注目したい。


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