第4節
しなの鉄道の展望


 しなの鉄道沿線の東北信地方は、5市5町が連なる、長野市内でも最も人口集積の高い地域である。代表的なところでは、長野市は約35万人、上田市は約12万人、小諸市が約4万人で、その沿線総人口は、約60万人にも達する。そして、古くは北国街道の時代から、個々の地域の繋がりは深く、それは、現在も変わることがない。これらの地域の、日常的な流動は、そのほとんどが長野市に傾いており、長野市内への通勤・通学利用は、小諸まで、かなりの数が点在している。また、沿線の、屋代・坂城・西上田・上田・田中・小諸にも高校が存在し、通学利用客は多い。更に、上田は観光地とそての集客力を持っている。輸送需要という点では、小諸で大きく段差が出来、軽井沢〜小諸間では、利用客がかなり減少するが、ある程度の観光客利用は望める。また、平行する国道18号線は、慢性的な渋滞が問題であり、ト区に更埴市郊外から、上田市までの一車線区間は致命的な渋滞地帯となっている。上田市外から、軽井沢方面にかけては、上田バイパスが開通しており、渋滞もやや緩和されているが、このバイパスは都市部から離れた丘陵地帯を通っているために、都市間移動では不便である。このことからも、鉄道輸送に対する需要は高いと言える。以上のように、しなの鉄道は、経営のための条件としては、かなり有利なものをもっており、充分に黒字を出すことが見込める路線である(※2001年度に債務超過に陥ってしまった)。ちなみに、JRが発表した、輸送密度(1kmあたりの輸送需要)は、平均で約8000人/kmである。これに新幹線アクセス需要も加えて考えると、その輸送密度は、約10000人/kmとなることが予想される。さらに言えば、最大値をとる、屋代〜篠ノ井間では、20000人/kmをゆうに超えている。最小値の信濃追分〜御代田間でも、2500人/kmを数えるのである。これらの数字は、特定地方交通線の第3セクターとしては、桁違いの数字で、一日あたりの利用客は、約38000人を見込んでいる。

 電車通学の人口は、微減傾向にあるのだが、沿線人口は、微増傾向にあり、前述した開業10年目の単独黒字、開業20年目の累積損失解消は、決して難しくはない。JRからの資産譲渡額は、約104億円で、既にふれたように、、県の無利子融資になっている(10年間据え置き、その後20年間で返済)。施設そのものも、幹線であったことから状態は良好であり、橋梁・トンネルも少ないので、ほぼ、メンテナンスフリーの状態に近いといっていい。

 「しなの鉄道」が考えている将来展望を、取材の際に何点か聞かせてもらうことができた。1点目は、列車のフリークエンシー化、つまり、ダイヤ編成の時間短縮である。しなの鉄道側は、最終的に15分ヘッドのダイヤ(15分に1本)を目標にしている。乗務員などの問題(絶対的に不足している)など、クリアしなければならない問題もあるが、是非実現してほしい。ちなみに、「しなの鉄道」では、車両のトイレ設備を廃止(設備はそのままだが、閉鎖)している。これは、車両設置のトイレの利用需要がさほどでなく、むしろ、高校生が喫煙のために利用しているという状況が、調査の結果、判明したためである。また、汚物処理施設がなく、JRに委託しなければならないためでもある。長距離移動で、仮に必要となったとしても、途中下車し、用を足した後、すぐ次の列車に乗れる、という状態にするというのが、この目標の遠因でもあるというのが面白い。

 2点目は、新駅の設置である。現在、駅間距離が短いところでも3km以上もあるため、新駅の設置が、旧JRの頃から、地元の要望としてあった。「しなの鉄道」としては、地元の資金負担、用地確保等の条件設備が整えば、できるだけ地元の要望に沿って整備したいとしている。現時点で予定されているのは、坂城〜西上田間(平成10年開業予定※「テクノさかき」駅として開業)、上田〜大屋間(平成11年開業予定※平成14年現在まで未開業)、篠ノ井〜屋代間(平成12年度開業予定※「屋代高校前」駅として開業)の3駅である。これらは、用地は地元提供、駅前広場と建設費は地元負担になるはずである。ただし、1駅増えるごとに、列車運行所要時間が1分30秒延び、サービス低下に繋がるという問題もある。

 3点目としては、快速列車の運行である。2点目の目標の、問題解決の方策となりえるであろう。目的としては、駅増加によって増加する到達所用時間を短縮すること、サービス向上がその主目的である。快速用車両をどう捻出するのか、新車両の整備はどうするのか、という問題があるが、旧信越本線の特急「あさま」廃止によって余剰となった、189系特急型車両を、JR東日本から譲渡(おそらく有償譲渡)してもらうことを考えているらしい。JR側としても、この余剰車両の扱いとして、一部の車両の、側面の「ASAMA」の文字を消し、中央本線・篠ノ井線・大糸線の特急「あずさ」(千葉・東京・新宿〜松本・信濃大町間)に流用しているのだが、もともと、183系特急型車両が大量にあることと、新型車両の投入(「スーパーあずさ」用E351系)を行っていることから、その需要は大きくないはずである。今後のJRとの交渉次第であろう。

 4点目としては、駅施設を整備することである。自由通路の設置、駐車場・駐輪場の整備、地域の顔としての駅舎整備、市町村出先機間の設置、コンビニ誘致等の、駅舎の有効活用を推進していくことを考えている。特に、市町村出先機間の設置、コンビニ誘致は、駅舎を中心とした地域発展を促すだろうし、もし、この「しなの鉄道」で成功すれば、JR・民鉄・第3セクターを問わず、地方交通線で導入されるに違いない。一日でも早く実現して欲しいものである。ただし、コンビニに関しては、旧JR時代に関係があった、「キオスク」との折衝が難しいらしい。

 その他にも、沿線観光地との有機的な結合、県・沿線市町村と連携した沿線開発(宅地開発など)、沿線観光地巡りとリンクした、乗り放題切符、地元商店街と協調した割引切符等の企画商品の開発、独自イベントの開催や、県・地元実施イベントの協力等を考えている。「しなの鉄道」を取材して感じたのは、将来に向けて、情熱的で、大きな夢を抱いているという点であった。


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