ヒグマの話

 

ヒグマは、わが国に生息する最大かつ最強の猛獣である。その性質は凶暴残忍にして狡猾で執拗、かつ俊敏。北海道では、現在でも毎年人畜の被害が絶えない。

体重は四百五十キロにも達し、体長二メートルを超え、立ち上がれば三メートル以上の高さになる。その強大な前肢には、牛馬の首や腰の骨を一撃で打ちくだくすさ
まじい破壊力がひめられ、その先端にきわめて長大な鋭い爪を持つ。不気味に光る眼は小さく、強カな顎に生える鋭利な牙は、ひと噛みで人間の手足を食いちぎる。

体毛は長く、黒色系(黒毛)と褐色系(金毛)に分けられる。黒毛は本州のツキノワグマに似ているが、はるかに巨大で、一般には三日月形の白斑がない。しかし、幼
獣のときだけ、また成獣になっても白斑を有するものもありとくに袈裟掛けと呼ぶ大きい首輸斑を持つヒグマはきわめて凶悪だと伝えられる。金毛ヒグマの毛皮は高価
である。が、これまたすこぶる凶暴で、体部にくらべて頭部が大きい。いわゆる巨頭グマはもっとも危険な人喰いクマだ。

北海道内の生息数は、昭和五十五年(一九八〇年)に北海道猟友会が実施した分布調査によると、およそ二千四百頭。その行動圏は、北海道全面積の約半分にあ
たる山岳森林帯とその周辺である。生息密度は非常に高い。

北海道での、ヒグマの代表的な被害についての概要を記すことで、ヒグマへの理解を深め、注意を喚起いたします。

 

苫前三毛別事件

このもっともショツキングな大惨劇は、大正四年(一九一五年)十二月九日十日、天塩国苫前(トママエ)郡苫前村三毛別(サンケベツ)で起きた。それは軒先に吊した
トウモロコシを食べに来たヒグマを撃ち損じたことからはじまる。

その数日後の十二月九日、主帰と男の子供一人が留守番をしている家のなかへ入り込み、子供を撲殺し主婦を噛み殺し、そこで食い、遺体をくわえて林内に運び去っ
た。そして翌十日、二人の通夜をしていた被害者宅をふたたび襲い、人々が混乱しているすきに、婦女子の避難場所を襲撃、臨月の胎児を含めて五人を惨殺、三人
に重傷を負わせたのである

当然二大社会問題となり、村外からも多数の応援が集結、大討伐隊が組織されたが、事態は容易に収拾できず、悲しみと苛立ちと恐怖に暮れた六日後の十四日
になって、ようやくこのヒグマが撃ち殺された。

体長二・七メートル、体重三四〇`。袈裟懸けの大白斑を持つ推定年齢七,八歳の巨頭グマであった。

このクマが射殺されて間もなく、「熊風(クマカゼ)」が発生し、現地苫前村を中心に北海道西海岸一帯に大被害をもたらした。

なお、この事件は、戸川幸夫氏や吉村昭氏によって小説化され、広く世問に知られるようになった。

 

 

福岡大学ワンダーフオーゲル部事件

 

昭和四十五年(一九七〇年)七月二十六日から翌二十七日に起こったわが国、登山史上最大のヒグマ食害事件である。二五日夕方、日高山系の芽室岳(メムロダケ)
からペテガリ岳へ縦走中の福岡大学ワンダーフォーゲル部員五人が、カムイエクウチカウシ山の直下、札内川・九の沢カールに設営中のテントで、このヒグマと最初の
接触。この時はキスリングの食料を食べられただけで済んだ。

 翌朝、ヒグマがテントに爪をかけ、中にいる五人と引っ張り合い、全員がヒグマと反対側の天幕から抜け出し山頂方面へ逃げた。ヒグマは中のキスリングをあさってい
た。五人のうち二人が救助要請に向かい、三人がヒグマの去った後、キスリングとテントを回収した。八の沢で出会った北海学園大学のパーティにハンターの出動を依
頼した二人は、戻って三人と含流、八の沢にキャンプする。ここでまたヒグマが出現、二人が鳥取大学キャンプヘ合流依頼に走る。しかしヒグマは離れず、やむなく三人
も下山。途中戻って来た二人と合流し、鳥取大学キャンプヘ向かった。この途中ヒグマに襲われて、ばらばらになり、二人が餌食になった。

三人は鳥取大学キャンプに救助を求め、彼らは二ヵ所に焚火してこれに応えてくれたが、闇にはばまれてついに合流できず、岩場でビバーク。翌二十七日朝、濃霧を
ついて下山行動を起こすが、この十五分後に、執念深く、またヒグマが出現して、さらに一人が犠牲になった。

このヒグマは、体重百三十キロ、推定年齢四歳のメスで、二十九日に射殺された。現在地元の中札内村役場に剥製がある。

 

 

風不死岳事件

 

 

昭和五十一年(一九七六年)6月、支笏湖の南岸にそびえる風不死岳(フツプシダケ)で、二人死亡、三人重傷の惨劇がひき起こされた。

六月四日午後、風不死岳九合目付近でネマガリダケのタケノコ採取中に、ヒグマに襲われ重傷、また五日朝、山麓で山莱採りの人が同じヒグマに襲われて重傷を
負った。このため、北海道警察など関係機関は、警報を発令して厳重注意を呼びかけていた。ところが九日、この警報を無視した十一人がタケノコ採りに入山、死者
二名、重傷者一名の大惨事を起こしたのである。

このヒグマは体長一・八メートル、体重二百キロ、推定年齢四歳のメス。この日射殺されたが、ハンターにも猛然と襲いかかってきたという。

 

大成町宮野事件

  

釣り人が殺害された事件としては、昭和五十二年(一九七七年)九月二十三日、桧山管内大成町宮野、通称炭鉱の沢ヘヤマメ釣りに出かけた佐野正市氏が、ヒグマ
に襲われた。
道路上に止めておいた自家用車まで逃げ戻ったが、ロックしてあったドアを開けることができず、ヒグマに追われて何回も車の周囲をまわり、ついに捕かまって、その餌
食になった。

通りがかったダンプカーの運転手が、このヒグマと倒れている佐藤氏を発見、後方から来た乗用車の男二人に見張りを依頼して、大成町市街の駐在所に通報した。
ところが、この乗用車の二人も恐ろしくなって逃げ出してしまった。警官とハンターたちが現場へ着いたときには、佐藤氏はすでに絶命、食害されていた。

このヒグマは体重およそ百三十キロのメス。推定年齢六歳。翌二十四日、ハンターに襲い掛かり、射殺された。

 

 

これらの惨劇はなぜ起きたのだろう。

「苫前三毛別事件」では、被害が発生する前に適切な処置がとられず、猟銃不足と操作ミスが続いたこと。また加害獣のヒグマは、かつて天塩で飯場の炊事婦を殺し
て食い・人肉の味を知っていたと言われる。そのうえ、手負いにされ、冬眠の穴を持たず、飢餓状態にあったこと。さらに、もっとも凶悪と恐れられる金毛で、袈裟掛け、
巨頭グマであった。

「福岡大学ワンダーフォーゲル部事件」では、ヒグマの習性や生態についてまったく知織がなかったことから、事態を甘くみて、下山するタイミングを失ったことにある。

ヒグマは一度手に入れたものに、異常なほど強い所有本能を持っている。キスリングやテントを回収することは、ヒグマに喧嘩を売る行為なのである。荷物を置いてす
ぐに撤退すべきだったのである。

「風不死岳事件」は、ヒグマのテリトリーへ不用意に入り込んだ者が、当然の報復を受けたと理解されよう。ヒグマも自分のテリトリーを守るためには命がけなのである。

最後の「宮野事件」は、生存者がいなかっため、真相を知ることはできないが、ヒクマに背中を見せて、走って逃げたことが、最大の誤りだったと推察される。ヒグマは、
逃げれば必ず追いかけて噛み付くのだ、また、そのスピードは、時速六十`ともいわれ、とても人間は走って逃げることは不可能であり、また被害者は刃物を持たず反
撃もできなかった。

 

 

ヒグマは行動面においても、非常に個体差の大きい動物であり、「ヒグマはこのように行動する」という一般的なセオリーもないが、あえてこれら多くの事件から、ヒグ
マの習性と行動パターンを分析すると、次のような事項が指摘できる。

1. 狙った獲物を得るためには、執拗に何度も攻撃を繰り返す。

2. 一度手に入れた獲物に対して異常に強い所有本能がある。

3. 獲物があるうちは、その付近から絶対離れない。

4. いちど人間の弱さを知ると、人数に関係なく襲撃して来る。

5. 飽食していても、なお獲物に執着して襲いかかる。

6. 火煙をまったく恐れず、平気で近寄り、攻撃する。

7. テリトリーを持ち、侵略者には執拗に報復する。

8. 逃げるものを真先きに追いかけて殺害する。背中を向けたら絶対殺される。

9. 最初に食べた獲物()を執拗に追求する偏執狂的行動を示す。

10 好んで食う人体部分は、顔面、腹部、肛門周辺であり、血液は一滴残らず吸飲する。

11. 獲物を土中に埋めて木の葉で隠し、後日それを食べに来る。

12 一度姿を隠し、いつの間にか逃げる人の前方で待つなど、狡智にたけた襲撃をする。

13 赤色に強い関心を示す。林内の標識では赤色系に被害が多い。

 

 

では、ヒグマの嫌うものは何か。

これについて北海道登別市のクマ牧場では、数々の実験を行い、同牧場発行の「ヒグマ」誌上に詳細な報告を載せている。その一部を紹介しよう。

○ 火・.煙・.=警戒や逃避効果はまったく認められず接近して前肢で炎を引き寄せ、もみ消したり、持ち上げたり、臭いをかいだり、火炎の輸のなかに餌を置い
 たときは、少し下火になるとすかさずそのなかへ入り、尻の毛が焦げるくらいでも、座り込んで悠々食餌する。

○ 薬物=アンモニア水・.塩酸・濃硫酸などは全然忌避効果なし。シンナー.ペンキ・氷酢酸は逆に呼び寄せる。

  ○ 爆竹・.花火=かなり効果的。だが馴れると効きめなし。

  ○ 発煙筒=興味を持って近づいて来る。

  ○ .多数の犬の吠え声=強い逃避反応を示すが、これも馴れると効果を失う。

○ 生きているヘビ=強い忌避反応あり、白泡をふいて逃げる。ただし、焼いたヘビはすぐ食べてしまう。

この実験結果からも確認されたように、日ごろ、盲信的に頼り切っている「火」は、ヒグマに対してまったく威嚇効果をもたない。このことはしっかりと認識しておくべき
だ。また他のものについても程度の差こそあれ、頼りにならず、実験では唯一忌避するという生きているヘビでも、古老の話では、野生ヒグマは平気で食べる。

ヒグマは北海道の山野では手のつけられない最強の猛獣なのだ。これが興味を持って接近するとき、何者もそれを阻止することはてきない。

 

 

ではどうしたらヒグマの害を避けることができるか。

 

真理はいつも平凡である。爪跡や噛み跡、糞、体毛などの発見から、または体臭、稔り声などで、近くにヒグマの気配を察したときは、ためらうことなくすみやかに撤退
することが最良の方法である。

そしてその場合も、けっして走って逃げてはいけない。ヒグマは走る者へかならず襲いかかる。それまでと同じように行動し、静かにゆっくり移動して距離をあけること
が肝心だ。

見通しのきかない曲り角、大木の蔭、倒木の太い根元部分、笹原の立木やブッシュの周辺などが、ヒグマの好んで休む場所である。とくに慎重な行動が望まれよう。

いきなり至近距離で出会うのを避けるためには、警笛や爆竹を鳴らして、人間のいることをあらかじめ合図しておくことも有効な手段である。また夕刻から夜間にか
けては、ヒグマの活動が活発になる。くれぐれも注意されたい。

しかし、運悪く第三種遭遇したときには、死んだふりをする。助かるかどうかは二分の一の確率。最良の策は太い立木の上へ登ることだと言われる。ヒグマは大型に
なればなるほど木登りが下手だからである。

これができないときも、絶対背中を見せてはいけない。最初出会った姿勢をくずさず、睨みつけた目をそらさず、弱味を見せない。機を見て静かにそろそろと後ずさり
しながら、荷物があればひとつずつそこへ置いてヒグマの興味をそちらへ引きつけながら、ゆっくり退却して距離をあける。そして襲われたら、徹底抗戦あるのみ。

あきらめてはいけない。これで生命が助かった人も少なくない。ヒグマの急所弱点は鼻先の黒く毛のない部分、ここを攻撃することはきわめて有効だ。

そのためにも、ナタや大型ナイフの携帯はけっして忘れてはならない。北海道で山の中や渓流釣り、人里から離れた場所などでは、それはたんなるファッションでは
なく、欠くべからざるサバイバル・ツールのひとつなのだ。



お土産屋さんで
「熊出没注意」
で有名

NORTH ISLAND
のコマーシャルから


島牧滝子(46歳・主婦)
最強のほ乳類を描こうとして
できた、さすらいの一匹狼です。



豊富雪子(13歳・中学生)
4本足の動物です。性格の悪さだけは
十分に伝わってきます。
深川納内(37歳・会社員)
何やら威嚇してます。
これは架空の生き物「ヒグマ」です。

池田譲(46歳・自営業)
すべてを悟ったようなその怪しげな笑顔。
このクマには死んだフリも効かないでしょう・
「全部知ってるよ」
池田勇(56歳・会社役員)
鋭いツメ、太い足、ヒグマの特徴を
よくとらえています。ただ、キタキツネや
近所の犬の特徴もとらえてしまっています。


日高駿(22歳・大学生)
絵ゴコロがある、いい吠え顔です。
ただ、鮭でしょうか、カツブシ?
月の輪?口の下の物体が気になります。
中標津弘(54歳・会社員)
躍動感のあるヒグマと北の森、よく描けた
作品だけにシッポらしき長い物体が悔やまれます。


仁木倫子(26歳・家事手伝い)
クマの口は確かにむずかしい
(横顔にしても)。
なかなかペルシャなヒグマです。
長万部清美(24歳・銀行員)
かわいらしく見えますが、このどこか
ヒネた表情はヒグマらしくありません・
恐らく何事にも無関心な生き物でしょう。


北見怜子(39歳・主婦)
ツメがいいですね。ストレスたっぷりの
表情は悩みを聞いてあげたくなります。

伊達静恵(32歳・自由業)
細かいたっちでヒグマの猛々しさがよく描かれてます。
残念です。これはツキノワグマです。


根室日出海(28歳・エンジニア)
鼻先のリアルな鮭が生臭いのか、
遠くを見る目が哲学者のようです。